第12話 突然の訪問者②
「なんでもいいから典、この体に絡みついてるやつなんとかしてくれ!」
雅明の言葉で、2人が動けない理由は謎の女にあると理解した典明は女に声をかける。
「これはこのお嬢さんの仕業かな?…ねぇ君、この2人を放してくれないかい?」
「断る…と言ったら?」
動けないことには変わりないが、女も今更引けないために2人を解放する気はないようだった。
「そうか‥‥それは残念だ」
そう典明が言った途端、女の体から光のようなものが出てきた。
「なんだこれ…力が…」
「悪いが君の体内エネルギーを少し吸い取らせてもらったよ。動けはするだろうが、攻撃するほどの元気はないはずだ」
典明の能力はエネルギーを操ることができる。
それによって、エネルギーを吸収したり付与したり、あらゆるエネルギーを操作することができる。
「さ、2人を解放してくれるかい?」
女はもはや抵抗できなかったため、おとなしく言うことを聞くほかなかった。
女が頷いたので、歌織は女の動きを止めていた影を解除した。
3人は同時に解放された。
女に至っては体内のエネルギーが典明にとられてしまったこともあり、歌織の影に解放された途端、足に力が入らずその場に足から崩れた。
「雅、本当に二股じゃないんだよね?どう見ても浮気した彼氏とその浮気相手に怒って乗り込んできた彼女との修羅場にしか見えなかったんだが…」
「だから違うって!!」
典明は雅明の二股をまだ疑っていた。
顔が整っている自分の弟は、どうも軽い部分があるので、そういうことがあってもおかしくはないと典明は思ってしまったのだ。
「じゃあ説明してくれるかい?このお嬢さんが2人を襲った理由を」
「俺らが人探ししてるって情報を耳にして、自分の探してる奴かもしれないと思ったらしく、俺らが持っている情報を吐かせようとしたってところだ」
雅明はわかりやすく典明に状況を説明した。
「なるほど。歌織さんは大丈夫かい?」
「えっええ!大丈夫です。ですが彼女…」
歌織は雅明ほどきつくは締め付けられてはいなかったので怪我もなかった。
それよりも女の心配をしていた。
「ああ、そうだね。そこのお嬢さんに話を聞こうか。」
女の話を聞くべく、典明は女に肩を貸しリビングに足を運んだ。
雅明と歌織もそれに続いてリビングに入っていった。
能力者3人に囲まれてはどうしようもないと思ったのか、女はおとなしかった。
そんな中、典明が女に話しかける。
「君も人探しをしているんだってね。僕たちは医者を探しているんだ。どんな病気も治せるという噂のね。君もそうなのかい?」
「医者‥‥。いや、俺は医者を探してはいない。探しているのは俺の家族を殺した奴を、それと俺を助けてくれた奴を探している」
女が探していたのは医者ではなかった。
「そうか…。よかったらその探している人物について教えてくれないか?ひょっとしたら何か手掛かりになることがあるかもしれない」
典明の言葉に女は話すべきか迷っているようだった。
雅明は女を警戒して、歌織は女を心配して、違う意図ではあるが2人も女を見ていた。
俯いて黙り込んでしまった女の頭の中では、とある記憶が浮かび上がっていた。
真っ赤に染まった玄関、そこに倒れている両親。
逃げるために自分の手を引いて走っていた弟。
だがそんな弟も真っ赤に染まって動かなくなる。
死を覚悟して目をつぶった途端、自分の体を這いずり回る気持ち悪い感触。
気持ち悪い笑み。
服に手をかけられた瞬間に吹き飛ばされた男。
自分を助けてくれた青年。
肩にかけてくれた上着の暖かさ。
もし青年が来てくれなかったらと思うとゾッとする。
「あ、あの…?」
歌織の声にハッと顔を上げる女。
目の前には心配している様子の歌織がいた。
「……。すまない、男については俺もわからないんだ。3年前の一家殺害事件を知ってるか?」
「ああ、知っているよ。娘以外みんな酷い殺され方をしたっていう…」
典明が答える。
「その娘ってのが俺だ」
女の言葉に3人とも息をのんだ。
「そういうわけで仇の男と助けてくれた男を探しているんだ。お前たちが探している医者に関しては俺は何も知らない。迷惑をかけてすまなかったな」
女は3人を見て謝罪する。
「それなら一緒に探さないかい?」
「は?」
「え…」
「…」
典明の言葉に驚いた3人は一斉に典明に顔を向けた。
上から順に雅明、歌織、女とそれぞれ三者三葉の反応を見せた。
「医者の件、有力そうな情報が手に入ってね、その話を雅と歌織さんにしようと思っていたんだけど…」
「それを早く言えよ!!」
大事な話が今更明かされたことに思わずツッコミを入れた雅明。
「いやいや、さっきまでの状況で話を切り出すタイミングはなかったからね。雅の二股疑惑も…」
「くどいわ!!」
二股という単語が出てきた瞬間典明の言葉にかぶせるようにさらにツッコむ雅明。
「とまぁ冗談は置いといて。そんなわけだから、僕たちは情報をまだ必要としているし、医者探しをしながらその男の情報も得られるかもしれない。悪い話じゃないと思うよ」
雅明とやりとりが終わり、今度は女に話が振られる。
女は少し考えた後、言葉を発した。
「…凛。京極凛だ。」
女こと凛が自分の名前を明かした。
一緒に探すとは言っていないが、名前を明かしたということは了承ということだ。
3人もそれはわかったので、改めて名乗っていく。
「夕凪典明です」
「典の弟、雅明だ」
「五十嵐歌織です」
突然の訪問者は、夕凪兄弟と歌織の協力者になったのだった。
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