第11話 突然の訪問者①

突然の来訪者によって身動きが取れなくなってしまった雅明。


「何なんだてめぇは…!」


雅明の問いかけに黒い影は答える。


「俺が何者かなんてことはどうでもいい。お前は俺の質問に答えればいいだけだ」


そう言い一歩、また一歩と近づいてくる黒い影。


近づくにつれてその正体が見えてくる。


ひざ下までのこげ茶の編み上げブーツに黒のズボン、おまけにパーカーも黒ときた。


前髪で片目が隠れているうえに、フードも深くかぶっているため、顔を見ても男とも女とも判別しにくい。


だが、小柄な身長、パーカーで多少は誤魔化しているが、カーブを描く体のラインは女のそれだった。


どうやら相手は女のようだ。


雅明の目の前で立ち止まった女がさらに話し始めた。


「とある能力者の兄弟が人探しをしていると耳にしてな…。お前らのことだと思ったんだが違うか?」


「はぁ?どこでそれを聞いたんだよ」


「答えるわけがないだろう。で、違うのか」


女は人探しをしている能力者の兄弟が典明と雅明で間違いないと確信しているようだった。


下手に身動きできない雅明はしぶしぶ答える。


「そうだったら何だって言うんだよ」


「そうか。実は俺も人探しをしていてな…。その情報を俺にくれないか?」


あくまで問いかけるように聞いてくる女。


だが女の鋭い視線から、何としてでも情報を吐き出させる気だということがわかる。


「そうやすやすと答えてたまるかよ」


だが雅明は捕まっているという状況でも相手を煽るのは忘れない。


「お前…この状況を分かっているのか。こっちはいつでもお前を殺せるんだぞ」


女は冷静なタイプのようで、雅明の煽りに乗ることはなかった。




そんな緊迫した状況の中、歌織が雅明に話しかけながらリビングから出てきた。


「雅ー?典明さんといつまでしゃべってん、の…?」


「バッ、カ来るなお前!!」


歌織の声にかぶせるかのように叫ぶ雅明。


そんな雅明の叫びに歌織は驚き立ち止まる。


その瞬間歌織も雅明と同じように動けなくなってしまった。


「えっ!?」


雅明の叫びもむなしく、あっけなく歌織も捕まってしまったのだ。


「バカお前なんで来たんだよ!?」


「雅があんまりにも遅いからだよ!」


歌織と雅明はお互い捕まった状況というのに言い合っている。


「ハッ、お前ら捕まっているのに余裕だな…?」


女の言葉に雅明と歌織は黙り込む。




(――これって、ひょっとして…?)


黙り込んだ歌織には今の状況、よく見えない何かが体に絡みついて動けなくなるという状況に心当たりがあった。


雅明のすぐ近くにいる黒い影に目を凝らしてみる。


全て見覚えのあるものだった。


(――京極凛だ!じゃあやっぱりこれは糸!)


雅明を襲っていた女は、典明や雅明と行動を共にする京極凛だった。


糸の能力を持っていて、物語の中では攻撃もサポートもしていて、万能な能力だと歌織は思っている。


(――最初は敵だったっけ…。)


そんなことを考えつつも、雅明も歌織も身動きが取れない状況なので、どうにかこの状況を打破する方法を探さないといけない。




「で、話す気になったか?夕凪雅明」


「さあ?どうだろうなぁ。お前が探している人物と俺たちが探している人物が違うことだって考えられるだろ?」


お互い『誰』を探しているかは明かしていない。


雅明の言う通り、女が医者ではなく違う人物を探している可能性だってあるのだ。


「そうだな。違ったとしてもきっと何かの役には立つだろうな」


「その辺も想定済みってか…。ならなおのこと言えねえなぁ」


「そうか…。ならば力尽くでも吐かせるまでだ」


女がそう言うと同時に、雅明に絡みついていた糸が雅明の体を締め付ける。


「ぐあっ…」


「苦しいだろう?早く吐かないと胴体が小間切れになるぞ」


どんどん糸が雅明の体に食い込んでいく。


「言っ、たところで…お前が、素直に解放…してくれるとは、思わ、ねえ…な」


「血を流さないと心変わりしないようだな」


雅明が言わないことにじれったさを覚えた女は、指を動かしてさらに糸の締め付けを強くしようとした。


「ゆっ、指が動かない…!…お前ら何をした!?」


突然指が動かなくなったことに女は雅明と歌織を見て声を荒げる。


「ごめんなさい。さすがに人が傷つくところを見たくはないので…」


「お前!俺に何をしたんだ!?」


歌織が密かに影を操って女を動けなくしていた。


歌織が声を発したことで、女は指が動かないのは歌織の仕業だとわかったようだ。


だが女が歌織を見ると、相変わらず体は糸に捕まっているので動けない状態だ。


女はなぜ歌織が自分の動きを止めることができたのかがわからなかった。


「歌織のおかげでお前も動けなくなっちまったな。どうする?俺たちを解放してくれたらお前も解放してもらえるぜ。なぁ?歌織!」


「まぁ、そうだね。あなたがこちらに危害を加えないと約束してくれるなら…」


「くっ‥‥」


おかしなことにこの場にいる誰もが物理的に動けない状況になった。




誰もが動けない状況の中、突如玄関の扉が開いた。


「あれ、鍵開いてるじゃないか…って…」


典明が帰ってきたのだ。


雅明と歌織は何かに締め付けられているように見える。


そして、雅明のすぐ近くには見知らぬ女がいた。


典明はその瞬間全てを悟った。


そしてこう言った。


「雅…さすがに二股はよくないんじゃないかな」


「んなわけねーだろーがッ!!!」


典明の言葉を即座に否定する雅明。




典明は何も悟っていなかった。

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