第6話 光ちゃんと比奈ちゃんの関係
女の子の部屋だ。一歩、踏み入れたピヨちゃんの部屋は綺麗で可愛い小物と布がいっぱいあった。私の中の女の子の血がわくわくとする。ドキドキとする。
「・・どうぞ、紅茶です。」
「あ、どうもです。」
紅茶をポットから注いでピヨちゃんは、私の前に置いた。熱々の湯気がいい香りをさせる。
すごい、この家では紅茶を常備しているのか!!私の家には粉のカテキン茶しかないのに。
「・・わふ、おいしぃ」
「アールグレイです。」
「?・・・猫ですか?」
「はい?」
違う。今、猫の種類言われたのかと思ったけど違うみたい。そうだよね、ここに猫いないもんね。ひょっとしたらピヨちゃんは天然なのかもしれない、とか思ったけどどうやら違ったらしい。
「・・あの、それで、何の用事ですか?」
「え?・・・あぁ、そうです、そうです。」
温かい紅茶と美味しそうな手作りクッキーに心を奪われている場合ではないのだ。
目の前に座るピヨちゃんは、どこか不安気な瞳で私を見ている。その色はわずかに赤く見えて、きっとピヨちゃんは夕べ一人で泣いたのかと思うと心の中でドロドロズキンと痛みが流れる。
あぁ、ごめんね。そんな辛い思いをさせてしまって。
「ごめんなさい。昨日は、その・・お見苦しいところを見せてしまったようで、」
「・・・。」
昨日、その言葉にピヨちゃんの体がビクリと震える。そんな悲しい顔をしないで。私は何も泣かせるためにきたんじゃないのに。これじゃぁ、私は悪者だよう。
「あ、の、でも、あれはただ久しぶりにこう、さんが、すき焼き許可をくれて、しかも高い肉だったから嬉しくてそれで、あぁなったわけでして、決してこう、さんとの間に何かがあるわけではなくて、本当もう、何も、なーっんにもないです。」
やっぱり言葉って役立たず。こんなんじゃ、何一つとしてピヨちゃんには届いていない。分かっていない。わかっているのに、どうしようもなくて、歯がゆい。
「でも、一緒に住んでいるんですよね。」
「そ、それは・・そうなんですけど、でも、本当に男女の仲とか秘密の関係でもない。ただの同居人でして。あの、だからこうさんを嫌いになったりしないでやってください。」
泣きそうな怒っているような顔をして、私を見ているピヨちゃんの視線。彼の待ち受け画面にある表情とは全然違う、怖い顔。嫉妬に狂いそうな女の顔だ。きっと、彼の前ではしないんだろう、その顔を私に向けてどうするつもりなのさ。
手を伸ばして紅茶を飲みたい。美味しそうなクッキーを食べたい。やっぱりおばちゃん、ドーナッツでは夜までもたないみたいだよ。なんて一ミリも動かせない体で思う。せめてお腹は泣きませんように。
「じゃぁ、あなたは、こうくんのことを何とも思っていないんですね。こうくんとは、ただの同居人なんですね。」
「はい、そうです。その通りです。」
嫉妬に燃える女の顔。私を睨む、そのタレ目。普段は、彼の愛を一身に受けている、子。
「それで、それだけの人がどうして私にそんなことを頼みにきたんですか。彼を嫌いにならないで、なんて。」
「はい?・・いや、だってそれは、私のせいで二人に何かあったら嫌じゃないですか?それに、こう、さんが傷つくの見たくないし。」
「・・・どうして、ですか?」
どうして?だって、そりゃあそうだろう。彼が悲しそうにすれば私だって悲しいし。優しい彼が私のために傷つくのは辛い。
理由なんているだろうか、それ以外の理由なんて必要だろうか。
「・・どうしてって、だって・・友だちが、困っているんだから、」
「友だち!?」
突然、声を荒げたピヨちゃんにこっちが驚く。なんだ、この子。本当によくわからないなぁ。天然さんなのか、やっぱり。
「そ、そうです、友だち、です。」
ビックリしておどおどしてしまった私を何で急にそんな見下すような目をして見るんですか。なんだろう、変なことを言ったのだろうか。大いに非難を含んだ瞳が、怖い。
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