第2話 光ちゃんの新太くんの関係

 新太くんは出張が多い。それを寂しいとか嫌だとか思ったことはない。付き合い始めたときからそうだったから、たぶんそれが当たり前になっているんだと思う。出張先の電話で話すのも、ホテルの写真を送ってもらうのも好きだけど。一つだけ、困ることがある。

「・・・新太くん、これどうするの。もう、出張棚いっぱいだよ。やっぱり入らない。」

「うーん。小さいから大丈夫かと思ったんだけど。どうしようか。」

出張先で新太くんは変なご当地グッズやご当地マスコットを買ってくる。頻繁に行って毎回違うものを仕入れてくるものだから、専用の出張棚と呼ばれる大きな棚は、もう満員ですぐ隣りにある食器棚まで、半分侵略されてしまっている。この前なんてお皿にぬいぐるみが、カップにストラップが入っていた。アリスのお茶会かここは。そう思いながら今回の出張で買ってきたらしいぬいぐるみを持って新太くんを振り向けば、困ったように目尻を下げた新太くんと目が合う。

「うーん、ひかるにあげる。」

「私に押しつけた。」

「ち、違うよ。プレゼント!プレゼントしたんだよ!」

こんな可愛くないおむすび侍なんて貰っても嬉しくないけれど。でも、新太くんがくれるなら、嬉しくなってしまう。あぁ、私ってば。

「もう、私の家の棚もいっぱいだよ。新太くん、変なお土産買うの禁止。」

「えぇー!!」

大きなどんぐり目をもっと大きくして、新太くんはちょっと大げさに驚く。新太くんはびっくりしているとき、かわいい。それがおかしくて笑ったら、こら、ひかる!笑わない!なんて怒られた。それも楽しくて二人で顔を見合わせて笑う。おにぎり侍を鞄に仕舞おうとしていると、新太くんは机の上にコーヒーとお土産のお菓子を出してくれた。

「わ!!待ってましたぁ。新太くん、今度からはこっちをもっとたくさん買ってきてよ。」

「えー。だって、それじゃぁ、会社の人のと同じになっちゃうじゃん。俺、ひかるのお土産選ぶの好きなんだもん。」

ふわふわとした白いまん丸お月さまみたいなお菓子を開けて一口食べた。お菓子と同じくらい新太くんの言葉は甘い。

「うー・・じゃぁ、私専用のお菓子を選べばいい。」

ぎゅーっ、後ろからまるでぬいぐるみを抱き締めるように新太くんの手が私を包んだ。耳のすぐそばで声がする。

「わかった。じゃぁ、ひかるにはお菓子と何かとマスコットにする。」

「それ増えただけ。マスコットと何かはいらないよ。」

抗議するように振り向いた口にふわふわの生地が入る。口を閉じて噛むと、やっぱり甘い。顔を上げれば、お菓子と同じくらいふわふわで甘い、新太くんの笑顔。

「いーじゃない。おいしいでしょ?」

「・・うん。」

だから、お菓子だけでいいんだけど。本当は何も良くないじゃん。だけど、新太くんも私もなんだか幸せそうだから、よしとしよう。


光くんと比奈ちゃんの関係

 比奈とは付き合って結構たつけど、いつまでたっても比奈は照れ屋でおとなしい。ふわふわした女の子だ。

「比奈、ほら、手。」

「え、で、でも、人がたくさんいるし。」

「人がたくさんいるから、手を繋ぐんでしょーが。」

「は、恥ずかしくないの?こうくん、」

「全然、寧ろ比奈の彼氏は俺です。って見せ付けられるから、嬉しいくらい。」

そう言って笑うと、比奈は顔を真っ赤にして俯いてしまった。かわいいなぁ、本当。なんて思いながら、細い手を握る。長い髪から見える耳が赤い。

「で、比奈はどこに行きたいの?」

「どこでも、こうくんの行きたいところならどこだって。」

「うーん、そうだなぁ。」

繋いでいる手に少し力を入れて、歩くスピードにあわせて小さく振ってみる。比奈は困ったみたいな顔をして俺を見つめた。もっと困らせたい。なんて俺どうかしてる。

「じゃぁ、ちょっと雑貨屋に行こうか。比奈、好きだったよね。」

「うん。でも、本当にこうくんが好きなところでいいんだよ。」

「比奈が好き場所が、俺の好きなとこ。」

「こ、こうくん!」

本当にかわいいな、思わず笑ってしまって、比奈も困ったような泣きそうな表情で笑った。

ゆっくり歩く比奈に会わせて俺もゆっくりと歩く。繋いだ手がひっぱりすぎないように、比奈が小走りにならないように。


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