第15話 クラス分け






 僕達生徒が親との別れにしんみりしていると、数人の教員が黄色い線の入った水晶を持って来た。恐らく何かの魔道具だからだと思うが、所々が薄っすらと光っている。

 ここに居る生徒達を代表するように、一番近くに居た生徒が教員へ質問をした。


「先生、それは何ですか? 」

「あぁ、これかい? 君達生徒をいくつかのクラスに分ける為の魔道具だよ。君、こっちに来てみな」


 質問をした生徒は教員に呼ばれ、魔道具の前に立たされた。しばらく説明を受けていたが、一通り聞き終えると彼は魔道具に手をかざした。

 少しすると魔道具は青色に光り初めた。


「……はい、君はCクラスだね。向こうの行き止まりに先生が居るから、そこを真っ直ぐ行きなさい。その人が寮まで案内してくれるよ」

「分かりました」


 それを見た教員は手元に置かれた紙に目を落とし、生徒に指示を出した。Cクラスと言われた生徒は教員の指示に従い、講堂を離れて行く。


「クラス分けはこんな感じでやるからね、名前を呼ばれた人から来て下さい」

「「「はい」」」

「よろしい、では次の者――」


 気が付けば同じ様な水晶魔道具がいくつか設置され、教員が生徒を呼んでいた。

 そうして幾人かの生徒が案内されて行ったが、遂に注目の人物の名前も呼ばれる。


「次、アンドレイ・スティージ」

「はい」


 そう、既に多くの取り巻きを引き連れるこの国の第二王子だ。

 自身の名前を呼ばれたアンドレイ王子は教員と魔道具の前に行き、少し話を聞くと水晶に手をかざした。


 その光景には全員が注目した。ある者は才能が無い事を期待し、ある者は才能に溢れる結果であることを疑わない。そんな他人の思惑を他所に、魔道具は白色の光を放った。


「こっ、これは!! アンドレイ王子はSクラスです!! 」

「おぉ、流石は王子様……」

「やはり王の血筋は優秀な用だな……」


 その結果に教員は大声を出し、それに釣られて周りからもヒソヒソと話し声が聞こえた。

 そんな講堂の中、隣にに居るロイ・ブランはと言うと――


「元からイケメン王子様はモテてるのに、アレで更にモテる様になるんだよな……クッソォ、羨ましいぜ……」


 眉間にシワを寄せてそんな事を呟いていた。僕が苦笑いしながら彼の言葉を聞き流していると、ついに彼の名前が呼ばれた。


「次、ロイ・ブラン」

「っと、俺の番か。そんじゃちょっくら行ってくるぜ」


 彼はそう言い残し、笑顔で魔道具の前に行った。他の所でもキラキラと光る魔道具……そしてその結果に喜んだり落ち込んだりしている生徒達の後ろ姿を眺めていると、遂に僕の名前が呼ばれた。


「次、ギルバード・クリフ君! 」

「はい」


 魔道具の前に着いた僕は向かいに居る女性から『光るから直視しない方が良いよ』と言ったいくつかの注意事項を聞き、期待と共に魔道具に手をかざした。


 ――さぁ、僕は何色に光るのかな?


 ……そんな期待に反して、僕が手をかざした魔道具は一切光らなかった。

 それは僕だけではなく、隣で同じ様に手をかざしていたロイ・ブランを含む数人の生徒も同じ様な状態になっていた。


「ほぉ、これだけの人数が同時とは珍しい……君達は全員Dクラスだよ」


 魔道具の故障を疑ったが、どうやらそうではないらしい。


「馬鹿なッ!! この僕が……優秀であるべきはずの僕が!!! 魔道具の故障何だろう!? そう言ってくれないか!!!! 」

「何で俺が……アニキ、ごめん……」

「あれ見て? 『落ちこぼれの証』よ? フフッ……あの田舎貴族も彼の代で滅亡かしらね? アハハハ!! 」


 周りの反応は三者三様だったが、この結果を受けた生徒は落ち込む人がほとんどだった。

 そんな中、ロベルト・ジェシカは何故か腹を抱えて笑っているのだが……“田舎貴族”って誰の事を言っているんだろう?


 教員陣もほぼ同じ反応をしていたのだが、僕の向かい側に居る人だけは違う反応をしていた。


「……君、ギルバード・“クリフ”君だよね? 」

「そうですけど……? 」

「……デルカから、来たんだよね? 」

「そうですよ? 」

「……短い人生でした、さよなら私」

「……えっ? 大丈夫ですか!? 」


 周りで笑い声が聞こえる中……この人は段々と顔色を悪くしていき、やがて倒れてしまった。僕が慌てて魔道具の向こう側に行こうとすると、隣の列で魔道具を操作していた数人の教員が駆け寄った。そしてその内の一人が僕を制止し、寮の場所を教えてくれた。


「あー、彼女は僕たちが介抱しておくから先に寮に行くと良いよ。場所は向こうだ」

「えっと……ありがとうございます」

「キャロル先生!? キャロル先生しっかりしてください!! 起きて!!!」


 僕に出来ることは無く、その場に居ても邪魔になるだけだ。僕は介抱をしている教員さんの言葉に甘えて寮へと向う事にした。






 ――――――――――――――――――――






 寮の自室にやって来た。

 途中でロイ・ブランとも合流したのだが、何やら用事があるとかでそのまま別行動を取っている。


 制服等の必要最低限の服は支給されるらしく荷物はそれほど持たなくても大丈夫らしいが、元々僕の荷物は本が数冊と訓練用の剣……そしてフェリエリさんとプリンさんにプレゼントされた二振りの剣程度とかなり少ない方だ。

 そしてそれらと同時にデルカから持ち出した数少ない荷物の一つ、大量の魔石。運び込まれた荷物の中には無く少し悩んだが、どうやらこの街のギルド狩人の集いに預けてるらしい。ギルドに行けば受け取れると書き置きが残してあった。

 一応少し手元にはある上に、この部屋には置き場所が無いからしばらくこのままで問題ないだろう。


 ちなみにだがこの部屋は二人部屋らしく、僕の荷物と一緒に誰かの荷物も置いてあった。

 同じ部屋で暮らす事になる相手は先に来ているのかと思いもしたが、大量の荷物が木箱に詰めこまれたまま解かれずに置かれている。どうやらまだ来ていないらしい。


 ――どんな人と相部屋になるのかな~


 そんなことを考えながら、僕は部屋の照明である魔道具に魔石を填めていた。これは特に複雑な構造をしておらず、デルカでも使っていた事から交換は簡単に出来る。だがそれなりに高価な為、傷を付けない様に慎重に作業していると部屋の扉が大きな音と共に開かれた。


「よっす、ギル!! 」

「……ロイ・ブラン? 」

「硬いなぁ、ロイで良いぜ? 」

「そう? じゃあ僕のことはギルで良いよ……ってもう呼んでるか」

「おう」


 扉を開いたのは見知った顔のロイだった。ロイはこちらに向かってニカッと笑うと、肩に担いでいた荷物を机の上に置いて片付けを始める。


 僕の方も魔石を填める事に集中して黙々と作業を再開した。

 二人共話題と余裕が無くなり……黙々と作業をしている中で、ふと僕はある事を思い出した。


「そう言えばクラス分けの時にジェシカ……だっけ? 彼女が“落ちこぼれの証”って言いながら爆笑してたけど……あれって何なの? 」

「……ん? あぁ、あれな。文字通り落ちこぼれの証らしいぜ? まぁ昔はそうじゃなかったらしいがな」

「詳しいんだね」

「これでも商人見習いだからよ、情報の量には自信があるんだ」


 そんな僕の呟きに丁度手荷物の片付けを終え、空の木箱を持ったロイが答えてくれた。顔は見ていないが、その語り口調はどこか悲しそうなモノだった。


「なぁ、そんな事より食堂行こうぜ!! 」

「ん~……こっちも丁度終わったし良いよ、行こうか」


 気が付けば辺りはすっかり暗くなっていたが、廊下にも明かりが取り付けられていて移動するのには困らなかった。

 荷物を入れていた木箱を返却した僕達は食堂へ向かった。真正面から食堂へ入る……訳ではなく、彼は何故か裏口へと向かった。

 僕が理由を聞くよりも先にロイは裏口からその中に向かって声を掛ける。


「こんばんわ~、晩飯下さいな!! 」

「はいよー、全くアンタ達も表から来れば良いだろうに……あぁ、そうね。ジェシカちゃんが居るものね……はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとな、デンプシーさん。アイツの絡まれると絶対にヤバいからなぁ……」


 ロイがテンプシーと呼んだ女性は僕達を見ると、それなりに豪華な食べ物の乗ったトレーを二つ持って来てくれた。

 ジェシカと言えばクラス分けの時に大笑いしていた女の子だ。詳しくは分からないが、少なくとも二人の会話から察するに関わらない方が良いらしい。


「はいはい、あの子に見つからない様に部屋へ帰るのよ。さっき丁度あなた達の話をしていたから――」

「あら、誰かと思えば落ちこぼれ君達じゃない」

「「うわぁ……来ちゃったよ……」」


 彼女ジェシカを避ける為に裏口に来たのに、彼女の方から来てしまった。

 ロイもテンプシーさんも頭を抱えているが、それは僕も同じだった。


「私に何か文句? それとも来ちゃ不味い理由でもあるのかしら?? 」

「「いいえ、全然」」

「そう、御託は良いから正直に答えなさい!! 」


 こうして実際に話をする事で、ロイが言っていた“絡まれるとヤバい”の意味がようやく分かった。


 ――この子……思い込みの激しいタイプだ!!


「いや、だから僕達は別に何も――」

「そう、分かったわ。あなた達には絶対にこの食堂を使わせないわよ!!! 」





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