【閑話】 クリフ家の優秀な執事
人で賑わう学園都市ヘスターを大柄な男と共に歩く初老の男、彼の名はウェイン。
とても優秀な反面、騒々しいハンターの多い街……デルカを治めるクリフ家の執事をしている。
普段であれば領主のウェイドに代わり、領主としての仕事を片付けているのだが……今日この日の彼は、学園都市ヘスターへと来ていた。
その理由は彼が仕える領主の息子、ギルバードがここにある王立スティージ学園へ入学するからだ。
一行は何事もなくヘスターへと到着し、入学式も無事に終わった。ギルバードとも別れの挨拶を済ませ、今は式のあった講堂から馬車へと向かう所だ。
周りにはウェイン達と同じく馬車に乗り込むであろう人で溢れている。そんな中で、ウェイドはふと立ち止まってウェインに声をかけた。
「なぁ、ウェイン。ギルは……ギルバードは本当にこの街でやって行けると思うか? 」
「……と、言いますと? 」
「俺もジュリアンも、アイツならこの町でも上手くやれるとは思ってる。だが……どうしても不安なんだ。上手くやれると思えるのがただのわが子可愛さから来る、目測を誤った思い込み何じゃないかって……」
「ウェイド様、ギルバード様はお二方が思われている以上に賢い子です」
「……」
だがそれとは対象的に年相応な行動も多く取り、様々な人間を見て来たウェインを持ってしてもギルの行動を把握する事は難しい。
だがそれでも、これだけはハッキリと言う事が出来る。
「えぇ、ウェイド様とジュリアン様の目に狂いはございません。既にあれ程の力と知恵を身に付けているのですから」
「……そっか、ありがとな」
同じ年頃のウェイドと同等か、それ以上の力を付けて行くギルバード。
周りがするべき事は、彼が力に溺れない様に導く事程度だろうとウェインは思った……
――――――――――――――――――――
迷いを無くしたウェイドは護衛達と共に学校から離れ、街中へと繰り出していた。
全員が思い思いにお土産を見繕っていると、ウェインがふと何かを思い出したかの様に顔を上げる。
「申し訳ありません、ウェイド様。少々用事のために寄り道をしたく……」
「おう、良いぞ。俺達は適当な所で時間潰してるから、終わったら呼んでくれ」
「感謝いたします」
ウェインは主の許しを得て思い出した用事を済ませに向かった。
彼の進む先にはフレデリック・ロベルト伯爵、現在はクリフ家の家臣となった元盗賊団カロの面々が逃げ出した領地を治める人物だ。
ロベルト伯爵もギルバードと同い年のご令嬢が居るらしいとの噂が流れていたが、ここでこうして会うという事は噂は正しかったのだろう。
ウェインは馬車へと乗り込もうとしていたロベルト伯爵へと近付き、ごく自然に挨拶をする。
「ご機嫌よう、ロベルト伯爵様。少々お時間を貰ってもよろしいでしょうか? 」
「ん? お前は……あぁ、野蛮な田舎貴族ウェイドの執事か……何の用だ」
「実は伯爵様の領民が幾人か盗賊化して、クリフ領に流れ込んで来ましたので……その報告に参りました次第でございます」
「そうか、そいつらはもう殺したのか? 」
「いえ、彼らは拘束しております。それよりも……」
実際は拘束等せず配下に置いただけだが、それを態々ロベルト伯爵に言う必要はウェインには無い。
ウェインは懐にしまっていたとある“魔石”を取り出し、伯爵に手渡した。
「落とし物をお返し致します」
「ん? 俺は何も落として……ッ!? あぁ、そうだったな……」
「それでは、私はこの辺りで」
ロベルト伯爵が魔石を見た瞬間の反応を見たウェインはにっこり笑い、そのまま踵を返してロベルト伯爵の前から去って行こうとした。
「あぁ、そうでした。お伝えし忘れていた事があるのですが……よろしいでしょうか? 」
「……手短に頼むぞ、貴様らと近がって儂は忙しい」
「承知いたしました。では……物は大切に、後始末はもう少し丁寧にした方がよろしいかと」
「……話はそれだけか? 」
「えぇ、以上でございます」
「じゃあな」
ロベルト伯爵はそれだけ聞くと足早に馬車へと乗り込み、どこかへ去って行った。
「当たり……と言った所ですか」
――――――――――――――――――――
「……おい、話は聞いていたな? 」
「はい、伯爵様」
伯爵の乗り込んだ馬車には、一人の執事が控えていた。ウェインがそれを知っていたのかいなかったのかは分からないが、伯爵の聞いていた事は彼も全て聞いている。
伯爵は渡された魔石を執事に投げつけた。
「我々の仕業だと奴らにバレた可能性がある、もう一度後始末の確認をしておけ」
「……承知しました、手の者に再度確認させます」
投げられた魔石を受け取った執事だったが、彼はすぐにその魔石に違和感を感じた。
「ん? これは……」
その魔石は以前、伯爵の手の者達がデルカ周辺にバラ撒いた物と全く同じ機能と見た目を持つ物だった。だがそれはジュリアンの手によって精巧に作られた“偽物”だ。
そこに気が付いた執事は恐怖を覚えた。
「伯爵様、これは――」
「分かっておる、儂らが撒いた物とは別の……複製品なんだろう? 」
「あの時伯爵様は受け取りを拒否する事も出来たと思うのですが……何故お受け取りに? 」
「それはあくまで複製品に過ぎないが、それでもほぼ完璧に複製されている。これを証拠として提出されては流石の儂でも言い訳が出来なくなるからな、回収しておく必要があった……」
そこまで言うと伯爵は黒装束の男から魔石を取り返し、魔石を力尽くで破壊した。
攻撃等に使う魔石であればこれは間違った処分方法だが、特定の陣の上に設置することで効果を発揮するこの魔石はこの様な破壊方法が正解だ。
魔石が砕けると共に刻まれた陣が破壊され、固形だった魔石は光となって空気中に溶け込んだ。伯爵が手を開くとそこにはもう魔石は存在せず、ただ粉となった魔石が宙を舞うだけだった。
「態々“後始末はもう少し丁寧に”等となめたことを……!! 全ては逃げ出した奴等が悪いのではないか!? 」
「……」
元盗賊団と共にデルカ領へと逃げ出した者達は農民が殆どだったが、その中にはあの日“無能”と罵倒した者達も含まれていた。
門番に奴等が『帰って来ていない』と聞いた時は森で野垂れ死んだかと思ったが、そうではなかったらしい。
「次こそは……次こそはあの忌々しい奴等を街ごと消し去ってやるッ!! だが手段はどうするか……」
伯爵は魔物を使った襲撃以上に、デルカに痛手を与えられる作戦を求めた。しばらく俯きながら考え込んでいた伯爵だったが、顔を上げて執事に声をかける。
「……第二王子を利用しよう、ジェシカとアンドレイ王子は同じ学年だから取り入る隙きはあるはずだ。『何としても第二王子に取り入れ』と連絡を送っておけ」
「承知しました」
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