第二章 ~学園編~

第10話 出立






 無事にランクアップを果たした翌日。

 普段なら鍛錬の一つでもする僕だが、今日は自室のベットでうつぶせになっている。


「動けーないー、体中が痛ーい……」


 何故なら全身が激痛に襲われているからだ。

 その原因は恐らく、魔力で作られる鎧……“マジックアーマー”を使った事だろう。ランクアップ試験の時はいつも以上に力を出せたが、必要以上に肉体を酷使したのだろう。


 ――早くマジック―アーマーを使いこなす為に、鍛えなきゃな……


 そんな事をうつ伏せで考えていると、部屋の扉が大きな音と共に開かれた。

 勿論その扉の先には勿論父さんが立っている。


「ギル!! 今良いか!? 」

「……良くても悪くても、その扉と一緒でもう手遅れでしょうが。それで、何がヤバいの?」


 前から何度も注意されているというのに、父さんはまた扉にヒビを入れてしまった。ステラによるお説教は免れないだろう。

 そんな心配を他所に、父さんは懐からクシャクシャになった紙を取り出して僕に突き出した。


「何々……“王立スティージ学園に行きなさい”と? 父さん、この学園って何? 」

「あぁ、お前位の年齢になった子供達が通う場所だ。俺達貴族の子供は全員通うんだよ」

「へ~……で? 」

「その入学式がな……もうすぐなんだよ」


 ――何でこんな事を書いてる紙がクシャクシャになってるんですかね……?


 この世界での移動は、準備を含めて色々と時間がかかる。父さんの言う“もうすぐ”とは、恐らく数日中の事なのだろう。

 計画性のない父さんに頭を抱えながらそんな事を考えていると、父さんの執事であるウェインがやって来た。


「失礼いたします、出立の準備が整いました」

「お、流石はウェインだな。助かるぜ」

「恐れ入ります、旦那様の計画性が無さ過ぎるだけでございますので」

「あとはギルバード様の荷物をまとめれば出発出来ます」






 ――――――――――






 そうして僕は今、約十年住んでいたデルカから学園へ向かう準備を済ませた。準備自体はそれほど時間が掛からなかった。


 僕個人の荷物は着替えの服、そして大量に渡された魔石位だ。

 未だに使い道の見つからないその石を荷馬車に積み込んで貰うと、僕の準備は終わった。


「ふぅ、もう持って行く物は無いかな……ん? 」

「おーい!! ギル坊!!! 」


 ちょうど馬車に乗り込もうとした所で、フェリエリさんとプリンさんの二人が走って来た。

 一体どれだけ走ってきたのか、 二人とも激しく息切れを起こしている。


「何とか……間に合った……ぜ……」

「フェリエリがもっと早く準備しておかないから……本当に、ギリギリデェス……」

「……どうしたんですか? 」


 僕が二人にそうして声を掛けると、二人ははそれぞれ背負っていた剣を取り出して僕に差し出してきた。


「はい、これプレゼントデェス」

「俺からも」

「これは……? 」


 片方は僕が使うには少し大きく、真っ赤な紅とも呼ぶべき結晶でその刀身を構成する直剣。そしてもう片方はやや反りがあり……刀身からハンドガードまでが翡翠の様に濃い緑の結晶で覆われた、先の尖ったレイピア系の短剣だった。


「ひよっ子が少しは成長した祝いだ」

「デェス。この剣はかなり癖があるでショウけど、コレを使いこなせるようになれば超一流デェス!! 」

「ありがとうございます!! フェリエリさん、プリンさん!!! 」


 二振りの剣は受け取り、荷馬車へと積み込んだ。

 フェリエリさん達も直ぐに用事があるとかでどこかへ行ってしまい、準備を終えた僕達は馬車に乗り込んで出発しようとしている。

 だが優秀なウェインのお陰で準備が完了しているにも関わらず、僕達は出発出来ずにいた。


「いーやーよー!! 私も行くのーー!!!! 」


 母さんが貴族……と言うより、淑女にあるまじき動きで駄々を捏ねているのだ。今までは長くても半日程度で必ず家に帰っていたが、僕が学園へ行くと当分の間は会えなくなる。

 ただでさえ会う時間が減ると言うのに、学園行きのメンバーに選ばれなかった事で更にご立腹のようだ。

 そんな様子の母さんを、同じくこの街デルカに残るステラがなだめる。


「ジュリアン様……あなたはウェイド様にこの街の管理が出来ると思うかい? 」

「無理ね。この街が更地になっちゃうわ」

「そうだろ? ウェイド様が管理して、更地に成り果てた街を見て、ギル坊はどう思うだろうか? 」

「……きっと悲しむわ」

「なら、ジュリアン様のする事は唯一つだろう? これはジュリアン様にしか出来ない事なんだぜ?? 」

「私にしか出来ない……そうね、分かったわ!! 」


 ステラは深刻そうな顔をしながら言葉を紡いだ。

 一方の母さんはステラの話を聞いて少し考え、すぐに僕を送り出してくれる決心をした。


「……ねぇねぇ、父さん」

「ん? どうしたギル。盗賊とか魔物は全部俺がやっつけるから問題ないぞ?? 」

「いや、そこは心配してない。たださ、母さんが今言ってた“父さんが街を管理したら街が更地になる”って本当……? 」

「あぁ、本当だぞ。だからこそ、今でも街の管理はウェインとジュリアンに任せてるんだ」


 ……こうして聞けば聞くほど、ウェインは優秀な執事である事が分かる。大方争いは全力の鉄拳制裁で解決、不審者等は建物ごと壊して追い出したりしたのだろう。

 そんな事を予想していると、先程まで土埃を付けていた母さんがいつの間にか服を綺麗にして立っていた。


「行ってらっしゃい、ギルちゃん!! この街は任せて、ギルちゃんは安心して学園に行ってらっしゃい!! 」

「うん、行ってきます!! 」





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