第11話 野営
かなりドタバタな準備にはなったが、僕は無事に準備を済ませてデルカの街を出る事が出来た。
初めて街から出た……と言うわけでは無いが、今回ほど遠出する事は今まで無かった為に中々新鮮だ。
いつもは街の周り1~2km位を、プリンさんやフェリエリさんと一緒に回っている感じだ。
それ以上を行くとどこからともなく雷が落ちて来る上に、家に帰ると母さんがやや怒っているから行けなかったのだ。
それでもその日の出来事を僕が話すと、母さんの険しい雰囲気は散っていた。
――学園でお土産話が出来ると良いな……
そんな風にホームシックに陥っているのか学園が楽しみなのか……自分でもよく分からない事を考えていると、いつの間にか日は傾き始めて夜が近づいていた。
野営の準備をする為に父さんが指示を出し、馬車がゆっくりと停車した。
「おっし、俺はちょっくら晩飯を狩ってくるぜ。お前らは馬車の護衛と野営準備だ」
「承知しました、旦那様。」
そう言いながら父さんは何の武器も持たず、素手で馬車から飛び降りて森に突撃していった。
僕もそんな父さんの後ろ姿を眺めながら、ウェインの指示で野営の準備を始める。
「ウェイン、僕は何をしたら良い? 」
「ありがとうございます。ギルバード様は焚き火に使う為の、適当な長さの枝を集めて頂けますでしょうか? 」
「分かった、行ってくるね!! 」
「行ってらっしゃいませ、余り遠くに行かれぬようお願いします」
「はーい!! 」
僕はそう声をかけ、野営の準備をしているウェイン達から離れた。
野営時の注意事項等は既にギルドで教わっている上、殆どの作業は父さんやウェイン……そして護衛の人達がやってくれている。僕がする事と言えば、ウェインに言われた通り木の枝を集める事と迷子にならない事だろう。
その上野営は一度だけやったことがある為、特に不安は無かった。ちなみにその時はフェリエリさん達と魔物を追い続けていたのだが、うっかり森の奥にまで入り込んでしまった。
街の明かりどころか月明かりや星も木々で隠れてしまい、自分達の居場所を完全に見失ってしまったのだ。森で一晩過ごす事になってしまったが、比較的温かい季節だった事と自分以外に人が居た事でそれほど怖くはなかった。
夜を越えて辺りが明るくなると、無事にデルカへ帰ることが出来たのだが……あの日以来母さんの過保護っぷりが加速した気がする。
「なんて事もあったな~……」
薄暗い森の中で木の枝を集めながら、デルカでの生活……この世界に生まれてきてからの事を思い返していた。
そうして気が付くと両手には沢山の枝が集まっていた。
「この辺にしておきますか」
そんな独り言を呟きながら、集めた枝を持って野営地に戻った。
野営地では既に僕以外の面々は全員戻っており、大量の魔物を解体している所だった。
「おう、遅かったなギル」
「……父さん、何でこんなに狩ったの? 」
「あぁ、何やらお客が来てるみたいだからな。多めに食いモンは用意しておかなきゃだろ? 」
「お客さん? 」
――そんな人どこにも居ないと思うけど……
「バレてるみたいですよ? カシラ……」
「ここは俺が先陣を切りますぜ! カシラァ! 」
「いや……ここは俺が行く」
父さんの言葉を疑いながら辺りを見回していると、近くの
どうやら本当にお客さんが来ているようだ。
「「「「カッ、カシラァ……!! お先にどうぞ!!! 」」」」
「お前ら後で覚えてろ……よっ!! 」
そんなコントを繰り広げていた彼らだが、“カシラ”と呼ばれた男が木の上から降りてきた。
彼の身体は細身で武器は何も持っていない。こんなのでどうやって僕たちを襲おうと言うのだろうか……?
「んっんん……えーっと……お前等は貴族だよな? 俺達は世界を股に駆ける……予定の盗賊だ!! 死にたくなけりゃ金を寄越しな!!! 」
武器も持たず、部下も連れていない盗賊のカシラさんとやらは僕たちにそう言った。
護衛の人達も一応警戒はしているが、特に心配せずにのんびりしている。彼らはそれ程驚異を感じず、とても盗賊には思えなかった。
「そうか。ウェイン、手持ちの半分位を渡してやれ」
「はぁ……承知しました。程々にしてくださいよ? 」
「「「「えっ……? 」」」」
父さんは彼の言葉に応じ、ウェインに金を出させるとそれを盗賊達に投げ渡した。
こうも簡単に金を手に入れられるとは思っていなかった盗賊達は呆気に取られながらも、震える手で金を受け取っている。
「おい、お前等!! ンな事より腹減ってねぇか? 肉食おうぜ、肉!! 」
大柄な父さんが肉を片手にそう声をかける。
……旗から見るとどちらが盗賊か分からないだろう。
――――――――――――――――――――
「いやぁ、俺達うっかり食糧持ってくるの忘れて腹ペコだったんだ……ありがとな、貴族のおっさん!! 」
「おう、良いってことよ」
どうやら彼らは盗賊団“カロ”と言うらしい。ここ最近この辺りで動いていたのは彼らで間違いないそうだ。
そんな彼らはカシラ……ロメオの直感を信じ、ここまで食糧も持たずに来たらしい。だが体力も限界に近付いてきた所で僕達一団を見つけ、襲う事にしたらしい。
……でも食料はどうやって手に入れるつもりだったんだろう?
そんな事を思いながらも僕達は父さんが大量に狩った魔物の肉を皆で食べ、それぞれの事情を聞くことになった。
「俺達はロベルト伯爵の重税に耐えられなくなって、少し前に盗賊化したんだ。……同じ村の奴ら全員でな」
「あそこの爺様は良い人だったんだが……聞く限りだとその息子はどうも違うらしいな」
「えぇ、その様ですね……」
この辺りはデルカ領とロベルト領の丁度境目に当たる位置、ロベルト領から流れてきた人々の一部がここに辿り着くのは当然なのだろう。
そうして話を聞くと、どうやら彼らは自身と同じ様に逃げてきた領民も匿っているらしい。
そんな大所帯の組織が何故領の警備隊に捕まらなかったのか。それは……
「それは“古代遺跡”を根城にしていたから何だ。運良くアレを手にすることが出来たから、俺達は今日こうしてここに居られる」
「カシラの無駄に冴えた直感のお陰でな!! 」
「“古代遺跡”……? 」
それは遠い昔、とある神によって滅ぼされた国の作った遺跡の事を指している。
何でも遙か昔は我らが“王国”、そしてお隣の“帝国”と並んで『三大国家』等と呼ばれた時期もあったらしいのだが……その遺跡を作った国は突然、“大陸ごと”消え去ってしまったらしい。
その国が姿を消した原因は色々言われているが、神様が関わっている事は間違い無いらしい。そしてその国は高い技術力を有していた事等から『進歩しすぎた技術が、神の怒りに触れてしまったのでは無いだろうか? 』と言う説が最有力とされている。
そうした話を雑談混じりで聞いていると、何やら遠くから大きな声が聞こえてきた。僕達の護衛が警戒をする。
だが盗賊団カロの面々には聞き馴染みのある声のようで、僕たちに警戒する必要がない事をアイコンタクトで伝えてきた。
そんな中でロメオさんはまだ肉を食べ続けている。一体どれだけお腹を空かせていたのだろうか……
「ロメオ!! このバカシラ、一体どこ行きやがったんですか!? 」
「ん? この声は……カルティアか。よぉ!! 遅かったじゃないか、今までどこで何やってたんだ?」
ロメオさんは食べていた肉を飲み込むと、林から出てきた男を“カルティア”と呼んだ。
当のカルティアさんは無言でロメオさんに近付く。
「ほいっ! お前も食えよ! 」
カルティアさんは差し出された肉は受け取り、ロメオさんの爪先を思いっきり踏みつけた。
「イッテェェ!! なっ……何スンだよォ!!! 」
「あなたは一体いつまでフラフラと……ッ!! 」
カルティアさんはロメオさんの足を踏みつけたまま肩を掴んで動けないようにし、絶対に逃げられなくして説教を始めた。
会話を聞く限り、どうやらロメオさんが何も知らせずに二日も森を彷徨っていたらしい。
「おーい、肉まだあるけどお前ら食うか~?」
そんな二人に父さんは空気を読まずに割って入る。
「邪魔しないで下さ……って……あなた……は……デルカのクリフ子爵様!? 」
父さんを見たカルティアさんが気絶した。
……何故?
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