第8話 使い方






 結局二回目のスタンピード以降、同じ様な規模の魔物がこの街を襲うことはなくなった。

 破壊された森は木々が驚異的な速度で成長し、街も大した被害が無く……デルカは完全に元の様子を取り戻していた。


 やかましくも楽しい日常へと戻ったデルカ。その中心部にあるそれなりの大きさの屋敷、その屋敷の一角にある自室で僕は唸っていた。


「むむむ……」


 その原因はこの世界では誰もが持つ“スキル”だ。


 スキルにはレベルという物が存在する。

 普通それは教会に言って神父等から聞く事が出来るらしいのだが、僕の持つスキルマジックウェポンサック等の特殊なスキルは本人にしかその力が把握出来ないらしい。


 把握のやり方には個人差があるらしいが、大抵身体の中に意識を向けると“力”を感じる事が出来るらしい。

 僕の場合は更にその力の内側へ意識を向けると、苦労すること無くレベルと使える力が浮かんだ。

 ちなみにだが、スキルを初めて手に入れた時はこれを無意識の内に行っているらしい。


 どうやらスキルを手に入れた頃……翼成の儀を受けた頃と比べると力が一つ増えている。

 名前は“クリエイトアーマー”というらしい。


 ――どんな能力か分からないけど、とりあえず使ってみようかな……


「クリエイトアーマー!! 」


 スキルを使うことを意識しながら言葉を口に出すと、光の粒が僕の身体に纏わり付き始めた。剣や盾を作る時と同じように最初の内は少ない量だったが、光の粒は次第に増えていく。

 しばらくジッとしていると光は動きを収めていき、具体的な形が見えてきた。


「何これ……? 」


 光の粒達が最終的に作った形は、僕の全身を包み込む白い鎧だった。

 形状としては特に何の変哲もないその鎧だが、若干白く発光している為に意外と目立っている。


「隠れたい時は使えそうにないな~……」


 そんな予想を立てはしたが、この鎧の着心地自体は悪くない。

 僕は音が出るか、関節の可動域を制限されるか確かめる為にとりあえず動いてみる事にした。


 軽く歩いたり跳んでみたり、室内で出来る事だからあまり派手には動けない。でも日常生活で動かす範囲だと特に問題なさそうだ。

『ちょっと外に出て動いてみようかな……』と部屋を出ようとした所で、少し遠くからステラの呼ぶ声が聞こえた。


「おーいギル坊、今大丈夫か~? 」

「ん~? 大丈夫だけど、どうかしたの? 」

「フェリエリの奴が来てたぜ。玄関で待ってるから早めに行ってやれよ~」

「分かった~!! 」


 鎧の脱ぎ方に一瞬迷ったが、鎧を脱ぐ事を意識しながら腕を軽く振ると光の粒は離れていった。

 着脱はかなり簡単なようだ。


 鎧を脱いだ僕は『今日会う予定あったっけ……? 』なんて考えながら玄関に向かう。

 いつもなら応接室辺りに通されていた。フェリエリさんはもしかしたら急いでいるのかもしれない。


「お待たせしました~」

「おう、来たな」


 少し早足気味に玄関へ向かうと、そこには軽装のフェリエリさんが立っていた。

 狩りに出かける時はいつも持っている弓を持っていないという事は、恐らく今から狩りへ行こうという話ではないのだろう。


「早速だがこの間のスタンピードあったろ? あの時に貰った報酬魔石の中からいくつか選んで欲しいんだ」

「アレの中から……? 分かりました。少し待ってて下さい」

「あぁ、ゆっくりで良いから気に入ったやつを持ってきてくれ」


 ゆっくり選んで良い……とは言われたが、お気に入りの魔石は既に決まっている。

 実は最近、ずっと眺めている二つの魔石があるのだ。


 魔石は若干の差はあるが、基本的に全て美しい煌めきを放っている。それらは宝石のように綺麗なのだが、僕が選ぶこの二つは格別でどこか惹かれる物がある。

 それでも一応他の魔石も見てを選んでいると、二つの魔石が選んでくれと言っている気がした。


 他の魔石もピンとくる物が無く、やはり選ぶのはこの二つになった。

 僕はその魔石を持ってフェリエリさんのいる玄関へと戻った。


「これにします」

「この魔石しばらく借りても良いか? 」


 かなりお気に入りの魔石はあまり他人に渡したくないが、フェリエリさんなら別に売ったり壊したりしないだろうと思い渡す事にした。


「えぇ、大丈夫です」

「ありがとう、じゃあ俺は行くぜ。多少形は変わるかもしれねぇが……絶対に返すから楽しみに待ってろ! 」


 魔石を受け取ると、フェリエリさんは足早にどこかへと行ってしまった。

 彼の『多少形は変わるかも』という言葉は少し気になったが……それでも特に不安は抱える事無く、僕は自分の部屋へ戻ることにした。






 ――――――――――――――――――――






 ギルバードからお気に入りの魔石を受け取った青年、フェリエリ。

 彼はジュリアンからの紹介で、とある人物の元を訪れている。


「やっと来たか」

「待たせたな、鍛冶屋のおっさん」


 ハンマーを担いだ大男が大粒の汗を額に流し、金属の赤く光る部屋から出てきた。

 彼はデルカのハンター共が持つ武器の生産を請け負っている男だ。

 彼の作る武具はウェイドが振り回しても壊れない程の頑丈さを誇る。その上切れ味も十分と、まさにデルカの生命線と言っても過言ではない人物だ。


 何故そんな人物の元にフェリエリが来ているのか。それは近々“とある事”があるギルバードに、彼の作った最高の剣を渡したくなったからだ。

 そしてそれはフェリエリだけでなく数人のハンターも同じ思いを持ち、協力している。


「“アレ”は持ってきたか?」

「おう」


 フェリエリは懐から、ギルバードの選んだ二つの魔石を取り出した。

 それは長年ハンターをしている彼の目から見ても、悪くないものだと思えるほどの物だった。


「ほぉ、それがギル坊とか言うガキの選んだ魔石か」

「大きさも悪くないと思うんだが、どうだ? 」


 だが鍛冶屋のお眼鏡にかなうかどうか、その自信は無かった。

 鍛冶屋は渡された魔石を近くで見る。最初のうちはつまらなさそうに眺める彼だったが、次第にその手が震え始めた。

 どうしたのか聞こうとしたフェリエリだったが、その行動は鍛冶屋によって遮られる。


「……こいつは最高の一品じゃ!! ギル坊とやら、中々いいセンスをしておるのぉ……」

「で、作ってくれるのか? 」


 フェリエリも鍛冶屋の顔から答えは分かっていた。

 だがそれでも、彼は答えを待つ。


「勿論、任せろ!! 貴様らは他の素材を集めておれ。俺はコイツをどう加工してやろうか考えるので精一杯だ!!! 」

「分かった。聞いたかお前ら、行くぞッ!!! 」

「「「おうッ!!」」」


 鍛冶屋は魔石を持って工房の奥へと籠もった。

 その様子を見届けたフェリエリは、魔石以外の素材を集める為に仲間ハンター達と共に狩りを始めるのだった……





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