第7話 魔石






 僕は今、魔石を大量に持っている。

 だが魔石とは何なのか。それは魔石を渡された時。ティファニーさんに教えて貰っている。


 魔石とは魔物が魔物である証であり、魔物の力の源である。

 そしてそこには人間だけでなく、魔物をも魅了する力が詰め込まれているらしい。


 魔物は自身の糧とする事しかしないが、人間は魔道具等に加工する技術を有している。魔道具は様々な場所で広く普及しており、それ故に売却するにも購入するにも莫大なお金が動く代物のようだ。


 そんな物を何故こんなに持っているのか。時は少し前にあったスタンピード後にまで遡る……






「この袋は……? 」

「魔石です」


 その時の僕はティファニーさんから大きな袋を渡され、何の疑問を持つこともなく受け取った。


「重っ!! ……でも何でこんなに? 」

「スタンピードの報酬です」


 ――多すぎない……? もっと前線で戦ってた人達に渡した方が良いんじゃ……

 なんて思っていると、奥で事務処理をしていたらしいカイエルさんがフラッとやって来た。


「まぁまぁ、大人しく受け取ってはくれないかい? 如何せん、今回取れた魔石の数が多すぎて市場に流す訳にはいかなくなってね……かと言って、ハンター連中は今までの魔石があるから受け取りを拒否してるし……」


『それにデルカだと、この程度の魔石はほんの僅かな物なんだ……』と言いながら、カイエルさんは頭を抱えた。

 ……今度何か差し入れを持って来るとしよう。


「それにあいつら……受け取ってくれないんだよ。全員いい笑顔で『魔物を斬れたから満足! 』って……そうじゃない!! 受け取ってくれないとこっちが困るんだ!!! 頼む、ギルバード君。この魔石を受け取ってくれないだろうか……!! 」





 ――流石にあそこまで言われると断ることが出来ず、そんなこんなで大量の魔石を実質押しつけられた訳である。

 自室で使いみちを考えながら綺麗な魔石を眺めていると、僕の部屋のドアを大きな音を立てて開かれた。


「ギル!! 今大丈夫か!? 」

「どうしたの? 父さん。ドアは静かに開けないと、また壊してウェインに叱られるんじゃない? 」

「あっ、いや……そうなんだが、兎に角喜べ!! またスタンピードだぞ!!! 狩り放題だ!!!!! 」


 ……この街、大丈夫なのだろうか?





 ――――――――――――――――――――






 デルカに2度目のスタンピードに襲われていた頃……


「さて、“これ”の出所は分かりましたが……」


 ウェインはそう言いながら、文字の刻まれた魔石を手の中で転がす。

 彼は現在、デルカから遠く離れた街のスラム……その一角にあるボロ小屋の前に来ていた。

 そう、“伯爵”と呼ばれた男と浮浪者風の男が数人集まっていた所だ。


「魔石には元々魔物を引き寄せる効果があります。ですが、これは……」


 ウェインの手のひらを転がる魔石には、いくつかの特徴的な文字が彫ってあった。

 当初の予想では『魔物を操る』類の効果だろうと予測されていたが、実際には魔物を引き寄せる効果しか持たない物だ。


「何か証拠があると良いのですが……」


 そんな事を考えながら、ウェインは小屋の中へ入っていく。

 鍵は掛かっておらず、扉を開けることは容易たやすかった。


 中に誰か居る事を警戒して慎重に侵入するウェインだったが、すぐにその心配は不要だった事が分かる。

 ここは人の気配がしない上に、元々あったであろう家具が全て無くなっているのだ。

 床や窓際、家具があったであろう場所は綺麗に拭かれた上で、まるで長年放置されていたかのようにわざとらしくホコリが溜まっている。だがこれはウェインにしてみれば、あからさまな行為だった。


「逃げられましたか。撤収の早さだけは評価に値します。ですが……」


 ウェインが腰を落として床を見ると、何か液体が流れた様な痕跡が目に入った。木製の床は張り替える程の時間も無かったのだろう。

 そこは誤魔化す為に擦ったり削ったような跡があり、ホコリが多めに落とされていた。


 もう少し周りをよく見てみると、木目の間に月光を反射する小さな物があった。ガラスの欠片が落ちていたのだ。

 この世界でもガラスはそれなりの数作られているが、やはり値段が張る高級品の一種だ。そんな物を落として壊す……そしてわざわざ情報を残す様な愚行をする人物は、この辺りだとただ一人だろう。


「――まぁ良いでしょう。あの野蛮人共デルカハンターはいつでも血に飢えています。獲物は少しでも多い方が楽しめるでしょう……」


 ウェインは虚空に向かってそう呟き、ボロ小屋を去って行った。家主と役割を失ったその小屋は、次の夜……伯爵の命により燃やされた。

 命令を出した伯爵は一足遅かった事などつゆ知らず、燃え盛る小屋を一目見て帰っていった……





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