第3話 狩人の集い






 我が家……クリフ家の治める都市、デルカは“魔の森”という深い森林に面しているそこそこ大きな街だ。

 その“魔の森”という森からは、何故か強力な魔物が多く出没する。


 その原因を探るべく、幾人もの人間が森の奥深くへと調査に赴いたが……誰一人として帰って来る事は無かったらしい。

 そこで当時の領主にして僕から見ればおじいちゃんに当たる人物、初代クリフ子爵は森の深部へ立ち入ることを禁じた。


 だがその後も、強大な力を持った魔物が何度も湧いて来た。

 そこでおじいちゃんは国から金を巻き上げて街を“対魔の森最前線基地”にまで成長させた。

 そして時は少し進み、“狩人の集い”という魔物を狩るプロ……ハンターの集められた組織が創られた。


「―――――そして“狩人の集い”、通称ギルドはこの街にも支部を作りました。その結果がこちらになります」


 そんな話をギルドのお姉さんから聞いた僕の名前はギルバードと言う。

 人通りの多い道路を通ってここまで来た僕だが、今はギルドの前で頭を抱えている。


「ヒャッハー! 新鮮な依頼書だァ!! 」「この依頼書は吾輩が頂いた!! 」「おい、ズリィぞテメェ! 俺が先に目ェ付けたやつだぞ!! 」「依頼書の確保は速い者勝ち……君とて、このデルカを拠点にするハンターなら心得ているだろう? ヌハハハ!!! 」「チィィィィッッッッックショオオオオオ!!!!! 」「ザッケンナゴラァ!! 」「フハハハ!!! 」「この依頼は貰ったぜ! ヒャッハー!!! 」「お前ぇ! 俺の依頼奪いやがったなぁ!? 」「依頼に行ってくるぜェ!!! 」「行ってこいクソッタレェ……精々五体満足で帰れるように頑張るんだなァ……!! ケヒャヒャヒャヒャ!! 」


 ―――――何なんだこの騒がしい所は……ッ! 帰っても良いですか!?


「騒がしい人達ですが、皆良い人達ですよ。……本当に騒がしいので人は選ぶかもしれませんが」

「そんな所で固まってどうした? ギル。こいつら顔は怖いが皆良い奴ばかりだぜ? 」


 開かれた扉を全力で閉じたい衝動に駆られたが、今はそうも行かない。父さんに心配されるほど固まっていた僕は何とか足を動かし、父さんの後に付いていく。

 何も起こりませんようにと心の中で必死に祈っていたが……


「お? ウェイドの旦那じゃねぇか!! 」「最近来てなかったから心配してたんだぜ? 」「よぉ! ウェイド!! 」「元気にしてたかァ? 」「愛しのウェイドちゃん」「おう、元気にしてたぜ。ただヌーキンは離れろ、そしてギルに近づくな気持ち悪い!! 」


 そんな祈りは即座に裏切られ、前を歩いていた父さんに人が集まっていった。

 父さんと同じ位に体格の大きなハンター達がわちゃわちゃしている為、体の小さい子供は近づけない。


「騒がしいな、一体何が……ん? あぁ、君が今日来ると言っていた脳筋領主の息子か」


 仕方なくその様子を少し離れた場所から眺めていると、後ろにあった扉から男性が出て来た。

 彼は一回父さん達を見た後、しゃがんで僕と目の高さを合わせてくれた。


「ようこそ、ギルバード様。私の名はハワード・カイエルと言う。この最前線にある狩人の集いデルカ支部の支部長をしている者だ。気軽にカイエルと呼んでくれたまえ」


 ハンター達と比べると細めの身体をしたその男性、カイエルさんはそう言いながら握手をした。

 カイエルさんがやって来た事に父さんも気が付き、ハンター達を置いてこっちにやって来た。

 ハンター達はウェイドの手により伸びている。……大丈夫なのかな? あれ。


「よっ、カイエル。久し振りだな」

「お久しぶりだね、ウェイド子爵。いや……領主様と言った方が良いかな? 」

「そんな仲でもねぇだろ、止めろよ」

「ハハッ、分かっているさ。それにしてもあなたはいつも突然やってくるねぇ。今日はどんな要件無茶振りでやって来たんだい? 」

「あぁ、そうだ。忘れかけてた」


 バシバシと叩かれ背中を痛そうにしながら父さんは話した。僕も何のために連れてこられたかのか一切知らない。


「ギル、お前ハンターになって力を付けたいんだってな? だったら今からここに連れて来ておこうと思ってな。赤ん坊の頃に一回来ては居るが、流石に覚えてねぇだろうし」

「彼ら一人一人との挨拶はまたの機会にしてくれ。今日はとりあえずハンターという職業について説明しよう。ここでは何だから向こうへ行こう」


 父さんと共にちょっとした個室に移動し、カイエルさんが説明してくれた。


 まず“ハンター”とは魔物を狩る事を生業なりわいとする人を指す言葉らしい。

 そのハンター達にはそれぞれ実力に応じた格付けがされている。そのランクは一番下ルーキーである【】から、この道を極めた……正真正銘の化物と呼ぶに相応しい【10】までがある。

 このランクを上げる為には評価と実力に応じて、ちょっとした試験を受ける必要がある。その試験を無事にクリアすれば晴れてランクアップする事が出来るという仕組みだ。

 そして魔物にはハンター同様にランクがあり、ハンターと魔物が同ランクの場合はソロでも狩れる程度の強さを持っているという指針になる様だ。


 ハンターは緊急時を除き、ランクに対応する魔物しか狩ってはならないという決まりもある。恐らくルーキーが大物を狩ろうとして死なない為のルールなのだろう。

 ちなみにハンターである証のギルドカードの初回発行は無料だが、二回目以降は高くつくらしい。


「―――――と、まぁこんな感じだ。まだ話してない部分もあるし、分からない事があったらその時に私か彼女に聞いてくれたまえ」

「はい、分かりました」


 そうしてカイエルさんの話は終わり、自分か彼女にと彼が指した先にはいつの間にか女の人が立って居た。


「私はティファニーよ。ここのギルドで受付をしてるから多分見かける回数も多いと思うわ。よろしくね、ギルバード君」


 ティファニーさんと挨拶を済ませると、何やら父さんがこちらを見ていた。


「大体の説明を聞いた所で、ギルに目標を与える!! 」


 ―――――嫌な予感がする……

 そう思い逃げようとした時には既に僕の肩はがっしりとした腕で正面から掴まれ、押さえられていた。


「目標は! 」


 ゴクリ……


「入学する10歳までにランク3になることだ!! 」


 ランクⅢは大体初心者から少し成長した位だと、ティファニーさんが教えてくれた。

 ―――――それは子供の僕でもクリア出来る目標なのだろうか……?


「俺は確か~……15歳の時にランクまで行ったから大丈夫だ!! そんな不安な顔をしなくてもお前なら行ける!!! 」

「はぁ……あれは参考にしてはいけないよ。君の父親は一人軍隊の脳筋なのだから。普通の人がランクⅠになるには相応の才能と環境がある上で、最低でも十五年以上は掛かると言われているんだからね……? 」


 そんな父さんの親バカぶりに苦笑いするしかない僕だった―――――





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