第4話 僕の日常






 僕は“狩人の集い”……通称“ギルド”で依頼を受ける為、一人で街中に来ている。

 父さんと母さんは貴族としての仕事があるらしく付いて来てはいない。僕も街の人達も信用されているから、僕は一人で出かけることが出来る。


「こんにちは、ティファニーさん」


 僕は人の少ないギルドの中、受付に座っている女性へ声をかけた。

 彼女は僕が最近お世話になっている人物だ。


「こんにちは、ギルバード君。今日は何のご用でしょうか?」

「今日も依頼を受けに来ました。丁度いい依頼ってありますか? 」

「はいは~い、少々お待ちくださいね~」


 ティファニーさんはしばらく依頼書リストをペラペラめくると、一枚の依頼書を差し出してきた。


「ん~……トレントは如何いかがでしょうか? 」


 依頼書を見る限り、どうやら依頼者はトレントの木材が欲しいようだ。

 トレントはこの辺りだと比較的倒しやすい魔物とされている、木が魔物化した存在だ。


「それにします」

「はーい、ギルドカードをお預かりしますね~」


 この位の相手は、もしかしたら僕一人でも戦えるかもしれない。だが、父さんは頼りになる人を紹介してくれていた。

 ティファニーさんが手続きを済ませるのを待っていると、ちょうど二つの足音が近付いて来る。


「よっ、ギル坊」

「こんにちは、フェリエリさん」


 この弓を背負った青年が父さんに紹介されたフェリエリさん。

 そして……


「私も忘れないで下サァイ!! 」

「……うるせぇ! 近くで大声を出すんじゃねぇ!! 」

「グッ、今日もいい蹴りデェスネ……」


 後ろからヒョコッと現れ、大声を上げた挙げ句フェリエリさんに蹴られた男の人がプリンさんだ。

 背中にある盾を主な武器とするが、いざとなればその体も武器になる……らしい。

 片方は言動に大きな問題がある気はするが、兎に角頼りになる人たちだ。


「オォウ、イェア!! 準備運動にもっと蹴ってくれても良いんデェスよ!!! 」

「ギルバード君、手続きが完了したわ。もう行って大丈夫よ」


 言動の全てがうるさいプリンさんを無視し、ティファニーさんは手続きを済ませてくれていた。

 苦痛なのか快感なのかは知らないし知りたくもないが、未だ床で悶ているプリンさんを足で二、三度突いたフェリエリさんは僕に声をかけた。


「この変態は放置して行くぞ」

「……はい、行ってきま~す! 」

「いってらっしゃ~い。二人が付いてるから大丈夫だとは思うけど、一応気をつけてね~」

「オォウ!? 待ちやがれデェス!! 私を置いて行くなデェス!!! 」






 ――――――――――――――――――――





 ティファニーさんも言っていたけど、父さんに紹介された彼等は本当に強い人たちだ。

 今回の目標であるトレントだが、周りが森な事もあって一見するとただの木にしか見えない。


 その為、最初の内は見つけることすら出来なかった。

 だがフェリエリさんからトレントの特徴……少し大きい上に宝石の様にキレイで小さな魔石を持つこと、そして種類の違う実を付けている事を教えられた。

 そう教えられても何度か間違えてしまい、何度か繰り返してやっと見つけた。


「さぁさぁ! こっちデェス!! 掛かって来なサーイ!!! 」

「今回は魔石の回収は考えなくて良いだろう。俺達が隙きを作る、ギル坊は魔石を思いっきり砕け」

「分かりました」


 こうして話してる間にもプリンさんは嬉しそうな顔をしながら、トレントの根や枝を使った攻撃を盾で受けている。

 話を終えたフェリエリさんはプリンさんの後ろから迫っていた枝を弾いたりと、弓で援護をした。


「クリエイトソード、シールド!! 」


 僕もその様子をただ見ている訳では無く、僕自身が持つスキルと支給されたナイフで細い枝に斬りかかる。ルーキーに支給されるナイフもスキルで作り出した剣も、お世辞にも切れ味が良いとは言えない。

 だが幾度となく斬りつけると流石に痛いようで、トレントの視線がこちらに向いた……気がする。ちなみにトレントに顔はと呼べる部位は無い。

 だがとりあえず、トレントはぱっと見で一番弱いと思った僕を狙うようだ。


「あまり舐めないで欲しい……なッ!! 」


 そう声を上げながら枝を盾と剣で受けた……が、次の瞬間剣と盾にヒビが入った。

 スキルで作り出した剣と盾は異常に脆い。それは事前に確認していたとおりなのだが、いざ実戦でその時が来ると役に立たないのでは? と思えるほどだ。

 あまりの脆さに心の中で愚痴りながらも刃先の無くなった剣を捨てて新しい剣を作り出す。兎に角数を作れるのがこのスキルの強みだ。どんどん活用していこう。


「クリエイトソード!! 」


 そう唱えるといつもの魔力が抜ける感覚と共に光の粒が手に集まり、半透明の剣へと変わっていく。

 しばらくすると僕の手にはさっきまでと同じく、うっすら光る半透明の剣が握られていた


「もう少しゆっくりでも良かったんデェスヨ? 」

「もう夕暮れだよ? そろそろ帰らないと」


 僕はまだ森は歩き慣れていない事、そして遅い時間から始めたトレント探しに手間取っていたこともあってかなりの時間が経過している。


 ほんの少し暗くなってきた森の様子を察したのか、トレントも辺りを見回し始めた。

 やがて一筋の逃げ道を見つけてこちらに背を向けたトレントだったが、フェリエリさんが弓で逃げ場を潰した。

 こうして作られた好機を態々逃したりはしない。


「ハッ!! 」


 僕はうっかり外すヘマもすること無く、魔石に剣を突き刺した。しばらくはジタバタと暴れるトレントだったが、少しするとすぐに動かなくなった。

 二個目の剣はヒビが入ってしまったが何個でも作れるから問題ない。

 トレントが確実に死んだ事を確認すると、フェリエリさんとプリンさんが近付いてきた。


「……討伐出来たな。そろそろギル坊一人でも森に行けるんじゃないか? 」

「本当ですか? 」

「大分強くなりましたからネェ、浅い所に居るこいつ位であれば余裕でショウ。それにしても、ヤり殺り合っていた相手が死ぬのは寂しいデェスねぇ……」

「それが俺達ハンターの仕事だ。そんなことより、さっさと持って帰るぞ」

「あっ、はい!! 」


 こうして付き合ってくれている二人の稼ぎは大幅に減っているだろう。

 だが聞いてみれば父さん達から僕の護衛依頼を受けて同行しているから問題ないらしい。

 そんな話をしながら僕たちはデルカへと帰っていった。


「にしても、今日の森はやけに静かだな……」


 フェリエリさんの不穏な言葉を残して……





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