第2話 未来へ羽ばたく為の力
僕がこの世界に生まれ落ちてから三年がたったある日……
「今日もステラの料理は美味しいわね~」
「あぁ、絶品だ! わざわざ連れてきた甲斐があるってもんだぜ」
「お褒めに与り、光栄ですぜ」
ステラの料理は本当に美味しい。
母さんは優雅に、それでいてスピーディーに。父さんは豪快に素早く。僕は気が付いたら目の前から料理が消えたと錯覚するほど夢中で、ステラの作った食事を食べていた。
それなりにゆっくりと食べるように意識はしているが、体感での食事時間はとても短い。全員が食後の一杯を飲んでいると、口の周りを少し汚したままの父さんが声をかけて来た。
「ギル、少しいいか?」
「どうしたの? 父さん」
「言い忘れてたんだが今日は“翼成の儀”がある。だから街の教会へ行くぞ!! 」
――――――――――――――――――――
この世界に住む人々は、神様から最低でも一つの“スキル”と呼ばれる力を貰える。
あくまで“貰える”となっているのは『赤子にスキルを持たせると制御が出来ず、スキルが暴走してしまうからなのでは? 』とも言われているが、『赤子の身体ではスキルの力に耐えられないから』と言う説が最有力とされている。
つまり、何故そうしているのかは正に神のみぞ知ると言う事だ。
そしてスキルはいつ神様から受け取るのか。それは僕がこれから行う“翼成の儀”と言う儀式で、神様から貰えるらしい。
この儀式は神様からスキルを貰うという意味合いも強いが、『ここまで無事に成長出来たことを神様にご報告いたします』という意味もある儀式らしい。
「ようこそおいで下さいました、クリフ子爵様」
今日はいつも居る屋敷から出てそんな騒がしい街にある教会に来ている。
仰々しくお辞儀をするこのおじいちゃんが今日の儀式を手伝ってくれるリチャード司祭。昔は戦場にも出ていたが、今はもう年を理由に引退したらしい。
それでもまだまだ頼れる人物だと父さんが言っていた。
「よっ、久し振りだなリチャード! 元気にしている様だな、ガッハッハ!! 」
「あなたもですよ。全く……相変わらず騒がしいお方だ」
どうやら父は昔からこんな感じらしい。
そんな話をしていると、少し遅れて母さんが教会に入って来た。話していた内容は聞こえていたようで、口元は笑ってるのに対して目は一切笑ってない。
「旦那がごめんなさいね~、ウフフッ」
「痛ってぇ!! 」
母さんは父さんのつま先を踵で踏みつけた。これには流石に父さんも抗議の声を上げるが、リチャードさんはその様子を微笑ましそうに眺めている。
「あら、あなたはこの程度で傷付く柔な体してないでしょ? 」
「柔な体してなくても痛いもんは痛いんだよ!! 」
「ギルバード様、あの夫婦はしばらく放っておくとして……儀式の間にご案内いたします。付いてきて下さい」
「あっ、はい……」
_______________
痴話喧嘩をする夫婦を余所に、僕は礼拝堂の奥にある部屋へと案内された。
床には沢山の文字や数字のような物が書き込まれており、その周囲を囲うように6本の柱が立っている。そしてその柱と柱の間には魔道具が置かれており、魔道具はほんのりと青白く光っている。
「ではギルバード様、陣の中心にお立ち下さい」
僕はリチャードさんに促されて魔法陣の上に立つ。
見たこともない物に溢れる部屋をキョロキョロと見回していると、リチャードさんが声を掛けてきた。
「魔法陣の中にさえ入っておけは大丈夫です。儀式が始まると魔法陣や魔道具などが光ります。目を痛めますので、あまり直視しない様にして下さい」
―――――やっぱりこれって光るんだ。どんな感じに光るんだろう……
何て考えていると
「ちなみに魔道具の光が強いほど、強力なスキルを授けられると言われています」
リチャードさんはニコニコと優しい笑みを浮かべがら教えてくれた。
どうやら彼は子供に物を教えるのが好きなようだ。
「心の準備はよろしいですか?ギルバード様」
「はい、リチャードさん。よろしくお願いします」
「では……」
魔法陣や魔道具が徐々に輝きを強める。
その強まった光は次第に強さを控えていき、最高潮に達したかと思われた次の瞬間……光は爆発的に強くなり、何をする間も無く僕の視界は真っ白に染まった。
『ほう、これが今回の
―――――あなたは……誰だ……?
その声を最後に意識は遠のいていった。
僕の問いかけに、返答は無かった。
――――――――――――――――――――
―――――知ってる天井だ。
僕はさっきまで教会の一室で“翼成の儀”を受けたはずなのに、気が付けば自分の部屋で寝かされていた。
なっ、何を言ってるか分からねぇと思うが、俺も……
「身体の具合は大丈夫? ギルちゃん」
僕が身体を起こして回りを見ていると、傍らに座っていた母さんが心配そうに声をかけてきた。
窓から見える空は赤く染まっており、時刻は既に夕方のようだ。
「うん……多分大丈夫!! 」
「なら良かったわ……」
「ジュリアン様、ご飯出来たぜ~。ギル坊も起きてるなら来いよ~!! 」
「はーい、分かったわ~」
――――――――――――――――――――
「それじゃ、おやすみギル坊」
「うん、おやすみ」
辺りはすっかり暗くなり、子供は寝る時間となった。
とりあえず今日の出来事を振り返るとしよう。
まず今日は教会で“翼成の儀”を受けた。
神様からスキルを貰うという意味合いの強いその儀式だが、僕は途中から記憶がない。食事中に母さんから聞いた話だと、あの部屋から少し離れた礼拝堂から強い光が出ていたようだ。
一番近くに居たリチャードさんはしばらく目が見えなくなっていたが、回復魔法を自分に使い回復したらしい。
僕が起きた時に屋敷に居たので謝ったが、強いスキルを授かった子供は稀にこういう現象を引き起こすらしい。よくある事なので問題ないと言ってくれた。
次は僕のスキルについてなのだが、これは食事前と言うこともあって少しだけしか試していない。
そのスキルの名前は“マジックウェポンサック”と言う。今の所所使える能力は半透明の剣と盾を作り出す事だけ。
「〈クリエイトソード〉、〈クリエイトシールド〉」
魔力で創られた剣と盾……便宜上MWシリーズと言う事にするが、このMWシリーズは……強度が殆どないのである。
まず剣なのだが、見た目は半透明な両刃直剣だ。
切れ味を確かめる為に地面へ突き立てた細い木の棒を斬ろうと振りかぶった所、刃が半分ほど食い込んで止まった。
今度はそれを抜こうとすると剣の耐久が限界を向かえ、ガラスの割れるような音と共に砕け散った。
母さん曰く“魔力の練りが甘い”らしい。
そして盾だが……父さんの軽いパンチ一撃で砕け散った。
ただの軽くパンチを繰り出しただけのはずなのに、盾を立て掛けていた木の棒まで八割ほど抉れていた。
……これは父さんの力が強すぎるのだろうか?
現状だとこれだけしか出来ない、ポンコツなスキルだが利点がある。それは魔力がある限り、壊れてもすぐに新たな武器を作れる点だ。
この点を生かした戦い方を模索するしかないだろう。
そして最後、僕はこの世界を精一杯楽しむと決めた。
だがこの世界を全力で楽しむにはスキルの力や……貴族であるだけでは楽しめないと思った。そこでさぁ、どうするかと考えていると……
「ならハンターになってみれば良いじゃない。戦う術は私やお父さんが教えるわ」
独り言として口から漏れていたようで、その答えを母さんがくれた―――――
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