第一章 ~ハンター編~

第1話 昔の記憶、今の記憶、未来の記憶






 何故だかは分からないが、“僕”が見ているこの光景は夢だと分かる。

 何故なら自分が光る鎧をその身に纏い、赤色と緑色の巨大な結晶で出来た馬鹿みたいに大きな剣を振り回しているのだ。

 僕が巨大な剣を振りかざしている相手は綺麗な服を着た少年だ。彼も剣を持っているようだが、彼の剣は何の変哲もないロングソードだ。


 その少年も僕も、互いに何かを喋っているようだがその声は僕に届かない。

 僕はその少年と何で争っているのか分からず、剣を振りかざす手を止めようとするも……剣を振る手が一向に止まる気配は無い。

 だがその少年に向けて……自身の内側から、強い嫌悪感が溢れる感覚だけを感じられた。何度も何度もその剣を振り回し、打ち合い……

 幾度となくそれを繰り返していると、ついに僕の持つ巨大な剣が彼の右腕を斬り飛ばした。


 それには流石に堪えたのか、余裕の笑みを浮かべて対峙していた少年も苦しみに顔を歪めているようだ。

 だがとどめを刺そうとした次の瞬間、黒い霧のような物が彼の身体と……そして手に持っていた剣を包み込み…………






 ――――――――――――――――――――






「―――――坊……ギル……い! 起きてろ!! 」

「んぅ……ステラ……? 」

「そうだよ、ステラだよ。飯が出来たから呼びに来たんだ。早めに来いよ、ギル坊~」

「うん、分かった」


 僕の名前はギルバードだ。

 クリーム色の髪をしていて、顔立ちとか目の色は分からないが……周囲の人の反応を見る限りだと、変ではないと思う。

 そんな僕がこの世界に生まれ落ちてからよわい5年ほどが経過していた。


 そんな僕は誰にも言えない秘密がある。

 どうやら僕には“前世の記憶”があるらしい。自身の名前や家族の顔を含めた、前世での暮らしぶりなどは覚えていない。だが前世で得た知識は断片的に覚えている。


 その影響なのかは分からないが、僕は周囲の大人から“大人びている”と言われる事が多い。

 そんな僕を生んでくれた今の家族を少し紹介しよう。

 僕はラジフ大陸の大半を統治する国、“スティージ王国”に仕える“クリフ”という子爵の息子として生まれた。


「当主様、食事はもう少し丁寧に行って下さい。ギルバード様があなたの真似をしたらどうするんですか? 」

「ん? 家族での食事にテーブルマナーも何も必要ないだろう。楽しく美味しい物食えればそれで良い!! 」


 出された食事を乱雑に食べる筋肉ムキムキの大男がこの家の当主で、僕の父親であるウェイドだ。剣や槍などの近接武器の扱いに長けているらしいが、火の魔法も使えるらしい。

 豪胆……と言うより大雑把な性格で細かいことが苦手だ。


 そしてその妻ジュリアン、彼女は金髪美人だ。魔法が得意で、過去に憂さ晴らしに山を一つ消し飛ばしたという逸話がある。

 その話の審議を本人に聞くと“あらあら~……そんな嘘を吹き込んだのかしらぁ……? ”と目の笑ってない顔で問い詰められた。

 余談だが、この噂を教えてくれたメイドは一週間ほど行方を眩ませていたとか……


 そしてウェイドの傍らに控え、父さんの食事風景に注意を入れている老人は父さんの執事、ウェインさんだ。

 他にもメイド達等が居るが……ここでは割愛しよう。


「ご馳走さん!! 」

「当主様、食器は静かに置いて下さい」

「はっ、アタシがそうそう簡単に割れる食器を買ってくると思うか? 」

「ステラ、あなたは当主様が割った皿の数と強度を覚えていますか……? 」

「……」






 ――――――――――――――――――――






「それでは、お休みなさいませ坊ちゃま」

「おやすみ、ウェイン」


 習い事をが終わると辺りはすっかり暗くなり、子供の僕はもう寝る時間だ。

 今日は満月で明るい。この世界の月は既に確認しているが前世と同じく一つだった。

 ベットに転がり、目を閉じると今でも前世の父親の言葉を鮮明に思い出す。


 ―――――『お前は周りに縛られずに……好きなことをやれよ』


 前世がどうなったかは知らないが、今世ではその言葉を軸に行動する。僕はそう決めた。

 今の僕のやりたい事、それはこの世界のことを知りたい。


 そしてその目標を達成する為にも……


 ―――――僕も父さんや母さんのように強く……


 そんな事を考えながら僕は瞼を閉じた。





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