第43話 苺先生5 焼きそばパン

「はい。授業を終わります。」

 苺は、キーンコーンカーンコーンっと終業のベルが鳴ったので、普通に授業を終えようとしていた。

「しまった!? お昼ご飯を買うの忘れていた!?」

 うっかりしていてお昼ご飯を買うのを忘れていた。

「待ってて! 私の焼きそばパン! ダダダダダダダー!」

 ランチの焼きそばパンを買うために猛ダッシュで購買部に向かった。

「うわあ!? すごい人!?」

 お昼の購買部は、昼ご飯を買う生徒で大混雑していた。

「どいて! 私は教師よ! 私の焼きそばパン!」

 教師の特権で購買部の人混みに飛び込む。

「苺ちゃん! 割り込まないでよ! みんな並んでいるのよ!」

「え? ええー!? なんで!? 私、教師なんですけど!?」

「教師でも列に並ぶべきだ!」

「そうだ! そうだ!」

「昼ご飯を買うのに教師も生徒もあるものか!」

「ええー!?」

「並べ! 並べ! 並べ!」

「う、ううっ!? 分かったわよ。並べばいいんでしょ、並べば。」

 結局、順番抜かしを諦めて長い列に並ぶ苺であった。

「どうして私がこんな目に!? 私は教師なのに!? ウルウル。」 

 順番抜かしは犯罪です! 教師なのに生徒以下。そんな女教師の物語である。


「グオオオオー!?」

 ライト文芸部員たちはは、教室でもがき苦しんでいる教師の苺を見つける。

「どうしたの? 苺ちゃん? 教師やめるの?」

「違うわい!」

 苺は、自分が頼りなくて困ることが多いので、他人の痛みや苦しみを感じることができる。他人の悩みに寄り添える、今時、珍しい教師である。結論からいうと苺は繊細なのでした。

「なんだ。おまえたちか。おまえたちは悩み事がなくていいな。」

「あのね。」

 苺は、教師なのに生徒以下の扱われ方に悩んでいた。苺は教師なので、今時の生徒には何も期待していない。

「まあまあ、苺ちゃんはライト文芸部の顧問だし、私たちに何でも相談してよ。」

「実は・・・先生モノをやっていて面白くしようとすると、教師なのに生徒以下とか、教師なのに暴力を振るうとか、教師なのに盗撮、セクハラ、レイプのような悪いことをするみたいに、聖職者の教師なのにギャップを求めて笑いをとると、変な方向に行ってしまうの。どうしよう?」

 苺の悩み事は、学校の教師なのに、ギャップを描くと狂喜乱舞の尋常ではない狂気の沙汰しか残らないことだった。

「なんだ、そんなこと。つまらないし、くだらないわ。小さな悩みね。」

 ライト文芸部員たちは、苺の悩み事をバカにする。

「なんだと!? 私が悩んでいる原因は、おまえたちがもっとまじめにライト文芸甲子園を目指して一致団結する青春日常モノを演じないから苦労してるんだぞ! おまえたちは生徒なんだから、もっと青春しろよ!」

「私たち!? 私たちが原因なの!?」

 苺の悩み事の原因は、関係ないように見えたライト文芸部員たちだった。

「あんたたち! 真面目にライト文芸甲子園を目指しなさい! そして創作の試合もしなさい! 物語を書くのよ! 必殺技も出すのよ! そうすれば円盤も売れるから、アニメ化やドラマ化の道が開けるっていうものよ! あなたたちが前に進まないから、 教師の私にスポットが当たっているのよ!」

「す、すいません。」

 申し訳なくて、ただただ謝るライト文芸部員たち。

「でもスポットライトが当たって嬉しいんでしょう?」

「ちょっとだけね。」

 本当はまんざらでもない苺だった。

「こらー! 何を言わすんだ!」

「直ぐに対処法を考えます!? さようなら!?」

 苺に追い詰められたライト文芸部員たちは慌てて走って逃げた。


「みんな!? どうしよう!? 大変だ!?」

 ライト文芸部員たちは部室に駆け込んで緊急会議を行う。

「我らが顧問、苺ちゃんが、遂にキレた!?」

 天は、いつも苺をからかって遊んでいた。

「天がいじめするからいけないのよ。」

 麗は、生徒が教師を、教師が生徒をいじめることはダメという。

「変な所で苺ちゃんは、真面目な教師ですからね。」

 大蛇は、真面目キャラだけに教師の大変さも理解する。

「でも苺ちゃんは、教師の職務で悩んでいるのではなく、教師のギャップで笑いをとり面白くすることに悩んでいます。ニコッ。」

 笑は、教師のギャップはイメージでは悪いことばかりになると説明する。

「仕方ありません。それがライト文芸作品の宿命です。」

 カロヤカさんは、苺の悩みを一刀両断、森林伐採、即日解決する。

「そうだ! カロヤカさんの言うとおりだ!」

「ありがとう! カロヤカさん!」

「カロヤカにお任せあれ。」

 ライト文芸部員たちは、カロヤカさんを中心に一致団結した。

「はい! みなさん! 今日の和菓子は、甘くておいしいチョコレートですよ! もちろんお茶もありますよ! エヘッ。」

「コンコン。」

 本物の幽霊おみっちゃんとコンコンは、着物を着た純和風の幽霊である。コンコンとは、おみっちゃんの飼っているペットの妖狐の子供である。

「先に言っとくけど、チョコレートは和菓子じゃないわよ。久々に書いた苺先生の第5話。適当だけど、教師モノを書く時に、聖職者の教師で押し切るのか、ギャップで遊ぶのか難しい所ね。あ、私は食べたら帰るからね。」

 幽子は、茶菓子とお茶をこよなく愛する。

「良かった。無事に苺ちゃんの悩みを解決できた。これでライト文芸部員としての面目が保てるぜ。ワッハッハー!」

 ライト文芸部員たちが生きていけるのには理由があった。ライト文芸部には、顧問の苺先生という頼もしい味方がいるからだった。


「お待たせ!」

 悩みの解決方法を持って、ライト文芸部員たちが苺の元へ帰って来た。

「苺ちゃんの悩みを、私たちが解決してあげよう!」

「あなたたちが?」

 苺は、ライト文芸部員たちに自分の悩みが解決できるとは思わないので、疑いの眼差しを向ける。

「耳を貸して。」

 ライト文芸部員たちは、手招きで苺に耳を近づけるように指示する。

「ほうほう。」

 苺はは、半信半疑でライト文芸部員たちに耳を傾ける。

「苺ちゃん! いつもありがとう!」

「ええー!?」

 苺は、予想外のライト文芸部員たちの感謝の言葉を聞いて、一瞬真っ白になる。

「どうしたの!? あんたたち!? 熱でもあるの!? 悪い者でも食べた!?」

「苺ちゃん、いつもありがとう。」

「ライト文芸部が存続しているのも、苺ちゃんのおかげよ。」

「良かったら、苺を食べて元気出してください。」

 ライト文芸部員たちは、お土産の苺を苺に差し出す。

「と、と、共食いかよ!?」

 そう叫ぶと苺は苺をもらって駆け去って行った。

「そうだ! 教師の私が悩んでいたら、生徒たちを不安にしてしまう! 教師の私がしっかりしなくっちゃ! こうなったら暴力教師でも、盗撮教師でも何でもやってやる! ヒーハー!」

 苺は、悩んでいるのがバカバカしくなった。自分の悩みが多くの生徒たちに心配をかけていたことに気づいて、悩むのをやめると決めたら、頭の中がスッキリとした。 

「青春っていいな、私にも若い頃があったな。いいな。三十路で独身はヤバイな。売れ残りだ。誰か結婚してくれないかな!?」

 苺の悩みは、結婚するまで解決されることはない。

 つづく。

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