第19話 苺先生1 遅刻!?

「このままではいけない!」

 現代社会は腐りきっていた。親は、子供を塾に行かすお金も無く教育放棄。 教師は、生徒を殴ったり、生徒を盗撮した教育崩壊。子供は、スマートフォンとアニメばかりで他人とのコミュニケーションはゼロ。

「こんな世の中で、まともな人間が育つはずがない!」

 30才の女教師(売れ残り)は、現代の日本社会を嘆き悲しんでいた。使い物にならない若者が大量生産されている昨今。若者が悪いのではなく、まともな人間に育てることができない社会を作ってきた、大人が悪いと言っている。

「私が生徒たちを自立した大人に教育してみせる!」

 この物語は、一人の女教師が閉鎖的でコミュニケーション障害で、夢も希望も無い生徒たちを、少しはまともな人間に育つように、愛を持って教育する教師と生徒の感動物語である。


「おはよう。」

「おはようございます。」

 朝の高校の登校時の普通の風景。30才の女教師、伊集院苺(いじゅういんいちご)が通学してくる生徒たちを出迎えている。

「おはよう。苺ちゃん。」

「おはよう・・・って、教師を名前で呼ぶな!?」

 もちろん彼女は、キラキラネームなので生徒たちにいじられる。

「おはよう。おはよう。おはよう。おはよう。」

「スゴイ!? 高速おはよう!?」

「怖い!?」

 彼女は、真面目な先生でもあった。生徒も同僚の教師たちも彼女に引いていた。

「もうすぐ登校時間が終わるので、校門を閉めるぞ!」

「走れ! 遅刻しちゃうぞ! それそれ!」

 午前8時30分。生徒が遅刻するかしないかの駆け込んでくる時間である。生徒たちは汗を流しながら校門を駆け抜けていく。人の不幸は蜜の味、なぜか彼女は楽しそうだった。

「校門を閉めます。」

「遅刻だ!? チッ!」

 定刻を過ぎて校門が閉められる。間に合わなかった生徒たちは遅刻扱いになる。

「みんな! ダメじゃない! 遅刻しちゃあ!」

 彼女は、遅刻した生徒を注意する。

「校門の外にいた、伊集院先生も遅刻ですよ。」

「え? ええー!? なんで!?」

「なんでと言われても、校門の外にいる先生が悪いんですよ。」

「そ、そんな!? 私、教師なんですけど!?」

「ダメです。遅刻です。」

 彼女は、教師なのに遅刻した。

「先生が遅刻しないで下さい。生徒たちに示しが着かないじゃないですか。」

「すみません。ウエ~ン。」

 教師なのに生徒以下。そんな女教師の物語である。


「グオオオオー!?」

 苺は、教室でもがき苦しんでいる生徒の2年生の春夏冬天(あきなしあまね)を見つける。天は、ライト文芸部の部長である。

「どうしたの? 頭でも痛いの?」

 苺は、自分が頼りなくて困ることが多いので、他人の痛みや苦しみを感じることができる。他人の悩みに寄り添える、今時、珍しい教師である。

「なんだ。苺ちゃんか。相談するだけ無駄だな。」

「あのね。」

 天は、苺ちゃんが教師なのに生徒以下なのを知っている。天は生徒だが、今時の教師には何も期待していない。

「まあまあ、これでも私は教師だし、何でも相談してよ。」

「実は・・・新作が思いつかないんだ!? どうしよう!? 助けてくれ!?」

 天の悩み事は、ライト文芸部の部長なのに新作が思いつかないことだった。

「なんだ、そんなこと。つまらないし、くだらないわ。小さな悩みね。」

 苺は、天の悩みは10代の青春の悩み事だとバカにする。

「なんだと!? 私が悩んでいる新作のタイトルは「三十路女教師、伊集院苺」だぞ!?」

「なんですって!? それは一大事だ!?」

 天の悩んでいる新作は、苺の作品だった。それを聞いて予想外なので苺は驚く。

「苺ちゃんがパロディーの横暴キャラから、現代ドラマの人に寄り添うキャラにイメージチェンジしようとするから、1から構想を練り直してるんじゃないか!? 今までに書いた脚本が全てボツだ!? どうしてくれるんだ!?」

「す、すいません。」

 天の悩みの原因は苺だった。申し訳なくて、ただただ謝る苺であった。

「どうしてくれるんだ!? 苺ちゃん!?」

「直ぐに対処法を考えます!? さようなら!?」

 天に追い詰められた苺は慌てて走って逃げるのだった。


「みんな!? どうしよう!? 大変なの!?」

 苺は、いつものように慌てて、ライト文芸部の部室に駆け込んだ。

「どうしたの? 苺ちゃん。」

 2年の宇賀神麗(うがじんうらら)が、いつものように尋ねる。麗はライト文芸部の副部長である。

「いつものように厄介事を持ち込んだに決まっています。」

 1年の小田急大蛇(おだきゅうおろち)が、苺が駆け込んでくるのは、いつものパターンだと言っている。

「どうしたんですか? 苺ちゃん。怒らないから言ってごらん。ニコッ。」

 同じく1年の越後谷笑(えちごやえみ)が、子供をあやす様に苺を扱う。

「実は、天が私が主役の作品がスランプで書けないって言ってるの。クスン。」

 苺は、悲しくて思わず涙ぐむ。

「何だって!?」

「あの部長が書けないだと!?」

「私たちの出番に関わってくるじゃないか!?」

 ライト文芸部の部員たちは衝撃を受ける。

「ご安心して下さい。いざという時は私がシャドーライターになり、部長の代わりに書きますから。」

「そうだわ! 私にはカロヤカさんがいたんだわ!」

 1年の軽井沢花(かるいざわはな)。仇名をカロヤカさんと呼ぶ。才色兼備、文武両道、悠々自適、顔面骨折、何でもできるスーパーな女子高生である。

「ありがとう! カロヤカさん!」

「カロヤカにお任せあれ。」

 苺の悩み事は消えた。役に立たない天より、カロヤカさんの方が頼りになるのだ。

「はい! みなさん! 今日の和菓子は、甘くておいしい干し柿ですよ! もちろんお茶もありますよ! エヘッ。」

 本物の幽霊おみっちゃんは、ライト文芸部の部室に住んでいる約1000年前の幽霊さんである。

「今回の悩み主は、ライト文芸部の部長の天なので、彼女は、相談者の苺がライト文芸部に相談に来た時にはいない。それよりも自分たちの部室に、本物の幽霊がいることを不思議に思わない方が問題だ。あ、私は食べたら帰るからね。」

 2年の桑原幽子(くわばらゆうこ)は、籍だけライト文芸部の帰宅部員であり、茶菓子とお茶だけは飲んで帰る優等生。

「良かった。戦闘シーンや、乱闘シーンもなく、無事に天の悩みを解決できたわ。」

 苺が苺ちゃんでも教師をやっていけるのには理由があった。苺には、ライト文芸部という頼もしい仲間がいるからだった。


「お待たせ!」

 悩みの解決方法を持って、苺が天の元へ帰って来た。

「あなたの悩みを、私が解決してあげよう!」

「苺ちゃんが~?」

 天は、苺に自分の悩みが解決できるとは思わないので、疑いの眼差しを向ける。

「耳を貸して。」

 苺は、手招きで天に耳を近づけるように指示する。

「ほうほう。」

 天は、半信半疑で苺に耳を傾ける。

「いつまでもメソメソ悩んでいろ。あなたの代わりはいくらでもいる。」

 苺は、予想外に低い声で天を脅迫する。実際に天が苺の作品を書かないのなら、カロヤカさんが苺の作品を書くのである。

「ゾクッと!?」

 天は、苺の言葉と声を聞いて、背筋がゾクっと寒気を感じる。

「苺、食べる? 美味しいよ。」

 苺は、手に苺を持っていて、天に勧める。

「苺の共食いだー!?」

 天は、苺に恐怖を感じ、思わず走って、その場から逃げ出す。

「そうだ! 私が苺ちゃんの新作を書かないと、誰かが代わりに書いてしまう! 私の居場所は、私が守らないと!」

 天は、悩んでいるのがバカバカしくなった。悩んで動けなくなるより、苺の作品を書いた方が良いと悩みの答えを出して、頭の中がスッキリとした。 

「青春っていいな、私にも若い頃があったな。いいな。」

 天の悩み事は、見事に苺が解決した。

「三十路で独身はヤバイな。売れ残りだ。誰か私の悩みを解決してくれ!?」

 苺の悩みは、結婚するまで解決されることはない。

 つづく。

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