第12話 純粋だったあの頃の様に
12月25日。
クリスマスでもあり花火大会当日でもあった。
僕は寝ていたこたつで目を覚ます。
目を開けた時隣にユリカの姿はなく、一瞬焦ったがキッチンでゴソゴソしていた姿が見え安堵した。
食器のカチャカチャした音とオーブンの部屋に響き渡るくらい低い駆動音、サクサクと包丁が何かを切っているのか、耳触りの言い音が聞こえてくる。
ユリカはこちらに気付く様子もなく朝食を作るのに集中していた。
少し前、ユリカが泊まっていた時もこうやって作ってくれていたな。
こんな朝をずっと迎えられたらいいのに・・・。
「あ、起きましたか?朝ごはんできましたよ」
ユリカがミトンを着用し湯気が出て熱そうなお皿を持ってくる。
落とさないようにそっと机に置く。
「ありがとう。起きるの早かったんだね」
いい感じに焦げ目がついた白いグラタンを見て思う。
だいぶ手間がかかっているように見えた。
「そうですね、今が11時15分くらいですから、私が起きたのは3時間くらい前ですね。スミレ君は毎回お昼ぐらいに起きるので特別苦労しませんでしたよ」
ユリカは呆れたような、でも小気味の良さそうにしていた。
「ただ、起きた時スミレ君が私を抱きしめていて。なかなか離してくれないし、甘えてくるし、いろいろ大変でしたよ?」
ユリカは目を細め手の平を口の前に当てくすくすと悪戯に笑う。
僕は恥ずかしさのあまり赤面を隠せなかったと思う。
そんな僕の反応を見てユリカは楽しそうだ。
「甘えるって、僕は何をしたんだ?」
「さあ、言わせないでください」
そう言ってユリカは踵を返す。
振り向き際の笑っている顔がなんだか僕で遊んでいるようにも見えた。
置かれた朝食は一斤で斜め切りタイプにされ少し焦げ目のついたトーストに野菜が煮込まれたグラタン。
グラタンはブロッコリーやニンジンといった野菜にトマト煮込みを入れ、その上に目玉焼きとチーズが掛けられトースター焼きで仕上げられていた。
色合いも暖色で食欲をそそり、できたての為香ばしい匂いをしていた。
デザートにはママレード入りの白いヨーグルト、ミルクと砂糖入りのコーヒーが組み合わされていた。
ヘルシーで栄養バランスも摂れているこの上ない朝食だった。
僕は熱々の野菜煮込みグラタンに手を付ける。
スプーンで一口分すくい口に含む。
思った以上に熱く軽く口を開いた状態でのたうち回った。
それでも飲み込んだ時には温かい料理が身に染みた。
朝ごはんを食べてスイッチがオンに切り替わる感覚だ。
トーストの上にグラタンを乗せグラタントースト式に食べてもありだった。
「どうですか?」
ユリカはまだ朝食に手を付けておらず僕の反応を伺っている。
「おいしい・・・。身も心も暖まるようだよ!」
僕の反応にユリカは満足そうだった。
感想を聞いて心ゆるびしたように彼女も朝食を食べ始めた。
彼女も猫舌なのか、熱々のグラタンに僕と同じく苦戦していた。
そんな可愛らしい反応に思わず笑ってしまう。
あっという間に料理はなくなり、残り物が一つもない綺麗なお皿をみて彼女は嬉しそうだった。
食器洗いはさすがに僕がやろうと思ったがユリカが「私がやりますから。スミレ君はあっちで休んでいてください」と言われた。
彼女はキッチンシンクで水を出し洗剤とスポンジで洗っていく。
その間に電車の時間などを調べることにした。
花火大会は20時から。
17時の電車に乗って18時半には最寄りの駅に着く。
今が12時くらいだからそれまで時間はたっぷりあった。
ユリカも一通りの家事をこなした様で僕と同じくこたつの中に入り退屈そうにしていた。
僕は閃いたように立ち上がり、自室に入る。
部屋の真ん中に置かれた木目調の樹脂シートが張られたローテーブルへと近づく。
書類が適当に積み重なっており何がどの書類なのか全く分からない状態だった。
そのローテーブルの下。
まだ他の書物と比べて埃をかぶっていないA4ワイドサイズの赤い上製本があった。
小学校の名前が金色のロゴで書いてありビニールレザーの表紙で仕上げられていた。
僕はそれを持ってリビングに戻る。
「ユリカ、時間あるしこれでも見てみないか?」
卒業アルバムを机に置く。
ユリカは一瞬それがなんだか分からないようだった。
「そんなものももらいましたね。私、一回も見たことないです」
声のトーンは低く浮かない表情をしていた。
それはそうだ。
彼女にとって小学校は悲愴以外の何物でもないだろう。
「僕も最近初めて見たんだ。今見たら意外と面白かったよ。ユリカのちっちゃくてかわいらしい写真が載ってたし」
「見ないでくださいよ!恥ずかしい・・・」
アルバムを広げる。
教師陣の集合写真からクラス別に撮られた一人一人の顔写真に修学旅行や文化祭、運動会といったイベントの写真がぎっしり詰まっていた。
僕はまずクラス写真から見ることにした。
イベント系の写真は限られており、楽しそうで今を輝いている生徒が厳選して撮られていく。
もちろん僕たちがその中に入っているわけもないので確実に載っているクラス写真を見る。
僕とユリカは4組のページに載っていた。
ほぼ全員がにこやかな笑顔で写真におさめられていた。
この時の僕は短髪のぼさぼさ頭で苦笑いをしていた。
口は笑っていても目は死んでおりとても不愛想な少年だった。
「スミレ君かわいいですね」
「え?これのどこがだよ」
「弱々しそうな所がいいです。人見知りそうな所も。こんな弟がいたら思わず抱きしめたくなっちゃうかも」
「それを言うならユリカだってそうじゃないか。弱弱しそうで人見知りだ」
彼女の写真を見る。
唯一真顔で映ってて、そもそも笑う気がなかったのだろう。
黒くてストレートに伸びたサラサラの髪は少しカールをしていて右目を若干覆っていた。
白い肌とぱっちりした目は今と変わらず目鼻立ちがはっきりしていて、唇は頑なに閉ざしていた。
やっぱり今かわいい人は昔もかわいいな。
「私はかわいくないです」
「僕にとってはかわいいよ。昔も今も」
「調子がいいんですから、褒められた所で何も出ませんよ」
彼女は下に俯き照れ隠しの様に笑った。
次にイベント関係の写真が集まったページをめくる。
思った通り、僕とユリカが抜選された写真は1枚もなかった。
見たことあるようなないような人たちの楽しそうな写真。
僕にとってはそんな集団が有象無象に見えてしまう。
そんな彼らの後ろに時々僕やユリカが少し映っていることもあった。
でも僕たちが映っているどの写真も笑顔なんて一つもなかった。
当時僕が学校内で笑ったことなんて一度もないんじゃないかと思ってしまう。
「私、ひどい顔してますね。ここまでとは思いませんでした」
ユリカは少し落胆したように言った。
確かに、ユリカの表情は怒りと恐怖が入り混じっているように見えた。
「僕も自分の顔にびっくりしたよ。やっぱり自分の顔は見えないから、こうしてみたら案外気づくところが多いよな」
「えぇ、でもこの顔に疑問はないです。学校なんて、私にとっては監獄みたいなものでしたから」
「・・・僕も君ほどではなかったけど、楽しいと思うことは1度もなかったよ」
「お互い不適合者、ですね」
「だな」
そして僕は彼女の学生生活を思い出す。
彼女に対して何をしたのか、告白するなら今しかないと思った。
「ごめん」
「え?」
唐突の謝罪にユリカは目をぱちくりさせる。
「僕は、君がいじめで暴力を受けているときいつも見て見ぬふりをしていた。関わりたくないから。関わったら僕も巻き込まれると思って。それだけじゃない。君がボロボロになっていく姿を見て僕は安心していたんだ。自分よりひどい目にあっている人がいる。かわいそうなやつがいる。自分はまだましな方なんだって。心を落ち着かせていたんだ。だから、僕も君をいじめていた連中と一緒なんだ。君が傷つき、その上で成り立つ学生生活を甘んじていたんだ」
ユリカは何も言わず聞いてくれた。
僕は続ける。
「でも放課後、二人で会うときは毎日笑って僕と話してくれて。君がどれだけひどい仕打ちを受けているのかを知っていたのに。そこでも僕は何もしてあげられなくて・・・ごめん。僕はそんな最低な人間なんだ。でも、君には僕がどんな人間なのかを知ってほしかった。許してほしいとは思わない。ただ君には報復する権利がある。だから僕を、気が済むまで好きにしていいよ。どんなことをされようと僕は逃げない」
「本当に仕返ししてもいいですか?」
ユリカがようやく口を開く。
その声には怒りを感じなかったが、微かに震えていた。
今更開き直ったようにすべてを自白したんだ。
彼女の気持ちは計り知れない。
「いいよ」
どんな報復でも受ける。
それがせめてもの償いだと思った。
ユリカの手が伸びてきて後頭部に両手が回る。
そしてゆっくりと彼女に抱き寄せられ、僕の頭を優しく撫でてくれた。
「あなたの言うように、私はいじめられていました。でも助けに来る人がいないことは分かっていましたし、最初から期待もしていませんでした。だからずっと一人だと思っていました。相談できるような友達もそれに近しい存在もいなかったから。でもそんなとき、スミレ君と出会ったんです」
「河原でスミレ君と初めて話した日、私は自分でも恥ずかしいくらい喋っちゃって。学校での私の立場を知っている人なら無視して離れていったと思います。でもあなたはそうしませんでした。私の話を聞いてくれて、笑ってくれて、露骨に差別しませんでした。放課後、あなたと会うことが私の楽しみになりました。あなたにとって私はどんな存在だったのか分かりませんが、私にとっては人生初めての友達で、初恋でした。私は、あの日スミレ君に救われたんです。スミレ君と話せるあの時間だけが、私の生きる希望になったの」
その時、僕の胸が強く締め付けられた。
苦しくて、でもすごくすごく嬉しくて。
「そんな優しい人に仕返しなんて、絶対にできません」
僕はユリカの背中を両手に回した。
抱き寄せた細い体はしなやかに湾曲した。
胸が張り裂けそうだ。
決して許されたわけではない。
彼女が許してくれても、僕の中の後悔はずっと続くだろう。
「・・・ごめん、ありがとう」
彼女は僕の頭を静かに、ゆっくりと撫でてくれる。
指が髪をかいていく感触がとても心地よかった。
ユリカは僕が離れるまでずっと頭を撫でてくれた。
四角い窓から街を見る。
毎秒移り変わる景色。
同じような形をした住宅街にアーケード街、広大な畑。
人々の生活がそこに凝縮されており、同時にその一定の範囲内の行動を強いられる牢獄のようにも見えた。
見方によってはディストピアだ。
僕は電車の吊革を持ち出入り口の窓から外の景色を見つめていた。
花火大会の影響の為車内は混み合っていた。
少し遠方から乗車するため席の一つぐらいありつけるだろうと思っていたが甘かった。
既にロングシートもクロスシートも埋まっており、僕とユリカは吊革を持ち電車に揺られるしかなかった。
1駅1駅重ねるたび多くの人が流れ込んできて気づけば車内は人で溢れており移動するスペースすら残されていなかった。
ユリカは出入り口とクロスシートの背板の入隅に立ち、僕はそれに覆いかぶさり人波から守っているような状態になっていた。
人が多くなる度ユリカと僕の距離は縮まっていきお互い向き合った状態で息遣いが聞こえてくる。
恥ずかしくなり目線は自然と窓の外へと向く。
もうすぐで降車する駅に着く。
到着前のアナウンスが流れる。
周りがざわついてきた。
僕も移動する準備をし、ユリカの様子を確認する。
少しふらついておりさすがに人が密集した密閉空間に1時間も立たされるのは辛すぎたようだ。
電車の速度は落ちてゆき停車する。
僕はふらついているユリカに手を差し出す。
「歩ける?手を貸すよ。それに、この人垣ではぐれたらいけないし」
ユリカは目を細めて静かに笑い、僕の手を取った。
両開きの扉がジュースの炭酸が抜けたような音を立てながら開く。
そして水風船に小さい針の穴を開け勢いよく水を噴射していく様に人が電車内から流れ出していく。
僕たちも電車の外へと押し出されていった。
駅内は混みあっており出口は分からないがとりあえず人の流れに身を任せていく。
やがて改札口に着きそこさえ抜けてしまえばむさ苦しい空間からは脱出することができた。
祭り前からすでにヘトヘトだ。
近くの自動販売機で買った飲料水のペットボトルを2本買いそれを駅外にある腰高くらいの石垣に座り込み休憩をした。
「大丈夫か?祭り始まってもないぞ」
「・・・電車内があんなに辛いものとは思いませんでしたね。普段はがらがらなんですけど」
「この祭りを舐めすぎてたな」
「そうですね、田舎も侮れませんね」
いつもは閑散としている僕たちの故郷は一変してごった返しお互い面食らっていた。
そんなにこの祭りは人気なのか?
僕たちは5分ほど休み、人混みはわずかに引いてきた。
「それじゃ、そろそろ行くか」
「そうですね、頑張りましょう」
僕たちはまた手を繋ぎ人の波へのまれに行った。
ユリカと話していると「ねぇ、あの人大丈夫」と周囲から不審に見られていた。
周りの人には僕が何もいない空間に話しかけているように見えるのだろう。
「スミレ君、あまり私に話しかけないほうが・・・」
「気にすることないよ、人は人。僕たちは僕たちで楽しめばいいんだよ」
特に気にせず彼女との会話を楽しんだ。
それからは長いようで短かった。
ひたすら人の流れに身を任せながら歩を進めていく。
ユリカの様子を確認しながら、歩幅を合わせながら。
一定の時間を過ぎると無心で歩けるようになり時間の流れを感じなくなっていた。
やがて紐に吊るされて並んで飾られている朱色の提灯が見えてきた。
提灯紐のラインに沿って設営されている色とりどりの屋台を見ると今日祭りに来たんだなと実感する。
右手につけた腕時計を確認すると19時04分位をさしていた。
「まだ1時間もあるし、屋台でも回らないか?」
ユリカは周りの屋台を見渡していた。
それぞれの屋台に関心を示しておりその目は純粋な少女のように輝いているように見えた。
「私、お祭り初めて来たので知らなかったですけど、こんなにたくさんのお店があるんですね」
「確かに、繁盛してるなぁ」
1つ1つのお店に大行列ができており屋台のおじちゃんの活気の良い声が響き渡る。
真冬にタンクトップ姿で額に汗を流しているその姿は暑苦しい程勇ましかった。
「屋台はいっぱいあるし、興味があるものがあれば並ぼうか。花火が始まる前には場所を取っておきたいから程々にね」
「そうですね、どれがいいのか選びきれないですねぇ・・・あれもいいですし、選び難いです・・・!」
ユリカは目を輝かせながらあれでもないこれでもないと迷っていた。
電車でへとへとになっていてどうなることかと思ったけどこの様子なら大丈夫そうだ。
一緒に屋台の通りを歩いていく。
こうやって手を繋いで祭りを歩くのは何年振りだろうか。
思えばお祭り自体来ることはかなり久しぶりだ。
小学1,2年生ぐらいの頃だったか。
一度生前の母と祭りに行ったことをよく覚えている。
当時の僕は家も学校も楽しいと思える場所なんてどこにもなく、この世界にある全てのものは恐怖に感じていた。
僕と母は毎日父親が暴れまわる家で細々と静かに暮らしていた。
怒らさないように、痛い目に合わないように、そんな怯える生活を強いられていた。
ある日曜日だった。
その日はたまたま父はどこかへ出かけており、家は僕と母の二人きりだった。
「花火大会に行こう」
母は僕の部屋に入ってそう言った。
僕は祭りがあること自体当日まで知らなければそれを知ったところで大した興味を抱くこともなかった。
でも母は拒否しようとした僕を笑い飛ばし半強制的に僕を家の外に連れ出した。
ここでの強制は決して嫌な意味ではない。
確かに誘いを断って部屋にこもろうとした僕を無理やり外に引っ張り出したのは事実だが、母の屈託のない笑顔を見ると自然と逆らうことができなくなりむしろ自ら進んで引っ張られ外に出ていた。
その日だけは僕を楽しませようと思っていたのか。
母は普段父がいるときに家で見せる苦し紛れの笑顔ではなく心から喜びに満ちた笑顔を僕に向けていた。
今思えば母自身もその祭りを楽しんでいたのだろう。
いつもふさぎ込んでいた僕もその日は年頃の少年のようにはしゃいで回っていた。
夢中で、何も考えられず、ただ楽しいという感覚だけを感じていた。
花火が上がった時にはまさに体全体に衝撃が走った。
頭と心の中はまさにお祭り騒ぎ。
理由もなく心が躍った。
母も僕と同じようにはしゃいでいたことを覚えている。
僕が純粋な少年でいられた時はいつだっただろう?
記憶が正しければあの日が最後だった。
母はこの祭りが終わり数か月して体を壊し、入院した。
一緒に居られる時間も少なくなり、今では一緒に祭りに行くことすら叶わない。
日に日に僕の心は歪んでゆき、純粋とは程遠い少年期を過ごした。
僕の少年心はあの日の祭りに置いてきたのだろう。
祭り後の生活は特別といった変化を見せることはなくまた変わらぬどうしようもない日常が何事もなかったかのように再開した。
あの日の自分に戻りたいと、今でも時々思ってしまう。
「スミレ君、冷やしパインとかおいしそうじゃないですか?」
上の空だった僕の意識はユリカの声によって引き戻される。
彼女は少し怪訝そうに僕を見つめていた。
「あー祭りっぽいね。今空いてるみたいだし並んでみるか」
テントの屋根にオレンジ色の文字で<冷しパイン>と書かれているお店。
文字の左右にパイナップルの絵が飾られているのが特徴だ。
屋台といえば冷やし〇〇という系統がだいご味で繁盛しているイメージだが。
時間帯がよかったのか人の並びは少なく、すぐに購入することができた。
2本購入し、ユリカに1本渡した。
キンキンに冷えたパインを一口食べると冷たくて歯がしみた。
ユリカは頭を手の平で叩いておりどうやらアイスクリーム頭痛を起こしているようだった。
「ほらほら、焦って食べるからだよ」
僕は食い意地の張ったユリカを見て笑う。
ユリカは言い返す余裕がないようで代わりに手の平で僕の肩を叩いてきた。
次に喉が渇きドリンクを売っているところを探す。
探している途中変わったネーミングのお店を見つけそこに並ぶことにした。
「”電球ソーダ”か。聞いたことないな」
「電球型の容器にソーダを入れただけなんですかね?いまいちわかんないですけど」
1つ500円という少し高額だと思ったが好奇心に負け購入した。
冷やしパインと比べて中々の時間並んだがどうにか購入することができた。
ユリカの予想は半分当たって半分はずれていた。
電球型の容器に炭酸ドリンクが入っており、そこにサイダーのシロップが掛けられ着色されていた。
容器の下には青の電球が光っており数日限りの屋台の割には演出が凝っている方だなと思った。
味については意見が分かれそうだ。
それからはお互い提灯に照らされた通りを歩き祭りの様子を見ていた。
片手にサイダー、片手は互いの手を繋ぐ。
気が付けば手を繋ぐこと自体抵抗や違和感はなくなっていた。
朱色の提灯に照らされたメインストリートをおみこしを担ぎ勇ましい声で行進していく男たち。
その先にある広場には4m程の足場が設置されそこに赤と白の垂れ幕がかけてある。頂きでは鉢巻を頭に巻き青のハッピを着た主将みたいなおじさんが和太鼓を力強く叩いている。
夏なら盆踊りでもやっていそうだ。
こうして祭りを回っている度、自分が少年に戻ったかのように錯覚してしまう。
行きたい場所に行ってやりたいように遊ぶ。
それは母とはしゃいで回っていた頃と大差はないように思えた。
楽しませるために用意した場所、楽しむために来た人たち、そんな明るい感情が積み重なって世界を覆っていたネガティブな悪雲を振り払っているように見えた。
世界はクリアになる。
余計な感情さえ持ち合わせていなければ、僕達はいつまでも純粋な少年少女のままだったのだ。
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