5 青白い少女 

 青白い少女


 私、不気味? ……へへ。そう言って幽霊は笑った。


 照とネオンは千鶴の依頼を受けて、千鶴のドッペルゲンガー。いわゆる逃げたした彼女の影。

 もう一人の、仙波千鶴を探すために十二月の寒い風の吹く街の中に移動をした。


「寒い」

 照は厚手の白いマフラーに黒いコートという格好だったけど、それでも冷たい冬の風が吹くたびにその体を小さく縮こめた。

「だらしないな。これくらいの寒さでさ」

 照の横を歩いているネオンは言う。

 ネオンはいつものように、照の近くをふわふわと浮いていない。ネオンはドッペルゲンガー症候群を発症して約一年、という、いわゆる末期患者だったのだけど、(ドッペルゲンガー症候群にかかると、個人差はあるのだけど、概ね約一年で、完全に影がなくなり、その存在が消えてしまって、『本来、影、つまり偽物であるはずのドッペルゲンガーであるもう一人の自分と、その本体である本物の人間が、入れ替わってしまう』という結果だけが残った。

 つまり本物は偽物の影になり、『その存在が本当に消えて無くなってしまうのだ』。(これがドッペルゲンガー症候群がその病気の存在を知っている人に恐れられている原因だった)


「うるさいな。でも、いいよな。ネオンは寒くないんだよね」

 照は言う。

「まあ、私はもうすぐ消えちゃうからね」にっこりと笑ってネオンは言う。

 ネオンは今、青色のパーカーをきて、黒のハーフパンツを履いて、足元は黒のブーツという格好だった。頭には黒の帽子をかぶっている。


 照は少しの間、歩きながら無言になる。

 ネオンはその間、冬の街のいろんなところを見ては、お、とかあ、あれなに? とか、そんなことを照に言った。


「ごめん。そんなつもりじゃないんだ」照は言う。

「うん。わかってるよ。照」にっこりと笑ってネオンは言った。


 ……ごめんね。悲しませちゃって。と、そんな声が世界の隅っこから聞こえたような気がした。

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