3 ドッペルゲンガー症候群

 ドッペルゲンガー症候群


 仙波千鶴の症状


「私は仙波千鶴って言います。宜しくお願いします」

 と千鶴は照に言った。

「こちらこそ。宜しくお願いします。僕は照って言います。訳あって、苗字は秘密にさせてもらいます」

 現在、照と千鶴は照のアパートの部屋の中で、小さなテーブルを挟んで座布団の上に座って、まるでお見合いでもしているみたいに、お互いに緊張しながら、そんな自己紹介のような会話をしているとこだった。


「照。いくら照が女の子に免疫がないと言っても、これはないんじゃないんですか?」

 ふわふわと部屋の中に浮かんでいるネオンはそんなことを照に言う。(ネオンは照の右斜め上後ろにいる)


「うるさいな。ネオンには関係ないだろ」照は言う。

「まあ、確かに」はぁーとため息をついて、両手のひらを上にあげたネオンは退屈そうな顔をしてそういった。


「あの、すみません。私が照くんの部屋を訪ねてきてしまったばっかりに。……迷惑、ですよね?」千鶴は言う。

「いえ、迷惑なんてことありませんよ。仙波さんみたいな綺麗な人に頼られるのは、なんていうか、男として嬉しいです」へへっと笑って照は言う。


 うわ、気持ち悪い。とネオンは思う


「それで、仙波さんは『ドッペルゲンガー症候群』の罹患者である、ということでまちがいないんですよね?」照は言う。


「……はい」強い目をして、千鶴は言う。

 千鶴の目は、ずっと眠っていない人のように、真っ赤な色をしている。……赤い瞳の色。それはドッペルゲンガー症候群に罹患した人に出る、特有の症状だった。


 ……助けて。と誰かが照の頭の中でそうつぶやいた気がした。


「あの、どうかしましたか? 照くん」千鶴が言った。

「いや、なんでもないですよ。千鶴さん」黒縁の眼鏡の奥で、にっこりと笑って、照は言った。

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