第4話 妊娠は病気じゃないんだぞ
「恐らくこの扉の向こうに魔王が居る。準備はいいか?」
「大丈夫。それより賢者(♂)こそ大丈夫なの?大分お腹が苦しそうだけど」
「フッ、まさか君にそんな心配をされるとはね。いつも危なっかしくて周りを心配させていたのは君の方なのに」
確かに賢者(♂)は昔っから皆を見守る側に立つことが多かったけど、そんな自分だけ周りを心配させてないみたいな言い方はどうかと思う。
突拍子も無い事をして周りを困らせたり、一度そうだと決めたら中々訂正しなくて凄く頑固だったり、女の子相手でも容赦なく問い詰めて泣かせたりと、賢者(♂)も大概だったよ?
「何か言いたい事でもあるのか?」
「いや、魔王を倒してから言うよ」
いつまでもこっちを昔のままみたいに言うなって賢者(♂)には一度ビシッと言ってやりたいけど、そんな賢者(♂)の昔と変わらない部分に助けられているのも事実だ。
今は下腹部辺りが昔と物凄く変わってしまっているけど、それも些細な……妊娠は些細じゃないな。本当に魔物の子を産むの?大丈夫?
ギギィ・・・
そうこうしていると厳つい作りの扉が自動で開き、闇のように真っ暗な室内を顕わにする。
ボッ ボッ ボッ ボッ
そして漆黒の闇の中に二本の点線状に青い炎が灯り、こちらを誘う道を示しだした。
「いくよ」
「ああ」
これは罠かもしれないが、ここまで自分達が来たことがバレているのならば進むのを拒否をしたとても時間の問題にしかならないだろう。
賢者(♂)と二人で覚悟を決め、警戒しながら青い炎に沿ってゆっくりと進む。
◆ ◆ ◆
ボボボボボボボボボボボボ ボボッ
警戒を続けながら暫く進むと、青い炎が直線から弧を描くように広がり出して大きな円を描き出した。
円の広さはドラゴンが十体は入れる広さで、その真ん中には黒いマントを身に付けた誰かがこちらに背を向けている。恐らくあれが魔王だろう。
カッ
急に光が灯り、部屋の中が明るくなる。
先ほどまで暗闇だった部屋は礼拝堂のように装飾が凝っており、天井も高い。
ゴウン ゴウン ゴウン ゴウン
そして魔王の立っている場所が段々になった円錐状にせり上がる。
バサァッ!!
「よくぞ来た勇者達よ、歓げ……待て、何故妊婦がここに居る」
「ようやくここまで辿り…え?」
魔王がマントを翻しながら戦闘前の口上を言い出したのでこっちもそれに返そうとしたのだけど、魔王はそれを途中で止めて賢者(♂)を訝しげな目で見る。
隣を見ると賢者(♂)はお腹を抱えながら前かがみになっていて、なんだかとても苦しそうだ。
「け、賢者(♂)!大丈夫!痛い?回復呪文する?」
「君は馬鹿か…魔王との戦いに集中しろ…」
賢者(♂)はいつもの様にこちらを罵倒するがその声に力が無い。
戦いに集中って言っても魔王も心配してくれてるし、ここは素直に横になったほうが…
「何?貴様男か!?何故男が妊娠などしておる?」
ゴウン ゴウン ゴウン ゴウン
せり上がったのとは逆に円錐が戻り、魔王がこちらに歩み寄る。
もしかして良い人なんだろうか。でも魔王だし危険だよな。
「賢者(♂)に近寄るな魔王!この妊娠もお前達魔物のせいだ!」
今の賢者(♂)に近づけるのは危険と考え、お腹を抱えてうずくまる賢者(♂)と魔王の間に立ち、剣を構える。
賢者(♂)が動けそうにないこの状態では戦いに負けるだろうが、自分は復活できるので賢者(♂)だけでも無事に逃がさないといけない。お腹に子供も居るのだし。
「我々のせいだと?」
「ああ、そうだ!賢者(♂)は魔物に襲われて妊娠したんだ!」
魔王は立ち止まり、顎に手を当てながら考え出す。
この会話の間でも斬りかかる瞬間を探しているのだけど中々隙が見えない。流石は魔王と呼ばれるだけの事はある。
「何をバカな事を言っておる。男は妊娠せんだろう」
え?
いやでも、現に賢者(♂)のお腹大きいし、中に生命が居るってのは分かるよ?
「お、男にも子宮があって…」
「前立腺小室の事か?」
「そう、それ!」
「貴様は妊娠をなんだと思っておる!そんな事あるわけないだろう、妊娠は病気じゃないんだぞ!!」
「は、はい…」
魔王から物凄く正論で怒られる。
確かにその通りなんだけど、でも賢者(♂)は妊娠してるじゃん。男なのに妊娠してるじゃん。
「…く………な……」
「け、賢者(♂)!」
「どうした!陣痛か!?」
「近寄るな魔王!」
「むぅ」
賢者(♂)に手を伸ばそうとする魔王に剣を向けて牽制しつつ、苦しそうにする賢者(♂)に気を向ける。
まさかここで出産?どうしよう。脱出魔法って結構衝撃あるけど母体に負担かからない?その前に魔王からって逃げれるの?
「い……ぞ………ん……」
賢者(♂)はお腹を擦る手を下し、苦しそうにローブの裾をグっと摘む。
自分は魔王が賢者(♂)に近寄らないように牽制しているので、賢者(♂)を支えてあげる事が出来ない。
くそっ、こんな時どうしたらいいんだ。
やはり賢者(♂)と二人じゃ無理だったのか…
せめてもう一人でも仲間が居たら…
ガバッ!!
諦めかけたその時、賢者(♂)勢い良く立ち上がりながらローブを捲った。
「いくぞみんな!」
『『応!!』』
ピカァァァ!!
賢者(♂)のそそり勃ったこんぼうの先端から散っていった仲間達の声が聞こえ、白く輝きだす。
そして賢者(♂)は白く光るこんぼう右手で勢い良く擦った。
「うっ!」
ドクンドクン!! ドヒューウ!!
「この戦士(♂)の攻撃を喰らいやがれ魔王!!」
「ぐぅ!!」
ズバァン!!
賢者(♂)のこんぼうから戦士(♂)が飛び出し、斧で魔王を攻撃した。
更に賢者(♂)は白く光るこんぼう右手で勢い良く擦る。
「うっ!」
ドクンドクン!! ドヒューウ!!
「魔法使い(♀)様の魔法も行くわよ!!」
「ぐはぁ!!」
ドゴォン!!
賢者(♂)のこんぼうから魔法使い(♀)が飛び出し、火炎魔法で魔王を攻撃した。
更に賢者(♂)は白く光るこんぼう右手で勢い良く擦る。
「うっ!」
ドクンドクン!! ドヒューウ!!
「武道家(♂)、参る!!」
「ぐ、ぐぐぐぐ…」
ダダダダダダダダ!!
賢者(♂)のこんぼうから武道家(♂)が飛び出し、格闘で魔王を攻撃した。
更に賢者(♂)は白く光るこんぼう右手で勢い良く擦る。
「うっ!」
ドクンドクン!! ドヒューウ!!
「盗賊(♀)もお忘れなく!」
「くっ!!」
スパッ!!
賢者(♂)のこんぼうから盗賊(♀)が飛び出し、短剣で魔王を攻撃した。
「は?」
は?
なにこれ?え?
「うっ!」
ドクンドクン!! ドヒューウ!!
「僧侶(♀)です!勇者様大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないかもしれない」
「そんな、魔王の攻撃が既に!!」
ポワワワ
賢者(♂)のこんぼうから現れた僧侶(♀)が回復呪文をかけてくれた。
この温かみのある回復呪文は僧侶(♀)に間違いない。間違い無いからこそ、どういう事?
「うっ!」
ドクンドクン!! ドヒューウ!!
「これは賢者(♂)殿の作戦ですじゃ」
今度は商人(♂)が飛び出てきた。そんな剣や槍や巻物なんかのゴツゴツした物を背負ったまま賢者(♂)の尿道を???
「作戦?これが?」
ウォー!! クラエー!! ガキィン!! ユクゾッ!! アンタニソンザイカチナンテナイノヨ!! オウギッ!!
呆然としている自分の目の先では戦士(♂)と魔法使い(♀)と武道家(♂)と盗賊(♀)が魔王と戦いを繰り広げている。
しかもかなり押しているように見える。このまま勝てそう。
「うっ!」
ドクンドクン!! ドヒューウ!!
「賢者(♂)ちゃんおつかれー、ごめんねー」
「あ、ああ…かなり疲れるなこれは…安易に産むなんて言うんじゃなかった…」
最後に遊び人(♀)が飛び出てきて、賢者(♂)は棍棒を擦るのを止めた。下腹部の大きさも元に戻っている。
「賢者(♂)!お腹は!それにこんぼうあんなに大きかったっけ!?一体なにが???」
「少し休ませてくれ…」
「あ、うん…出産お疲れ様…」
「出産じゃないけどねー」
色々と聞きたい事はあるが、七連続で仲間をこんぼうから射出した賢者(♂)は疲労困憊のようで、商人(♂)から回復薬を貰って飲んだり、僧侶(♀)にこんぼうを診て貰っている。
「出産じゃないって、妊娠じゃなかったの?」
「ちょっとちがくてー、勇者ちゃんの生き返りの応用?みたいな?」
やる事が無いのか、遊び人(♀)が枝毛を探しながら応えてくれる。
こう見えて街中では情報収集や交渉に役に立つので戦闘外では有能なんだけど、戦闘中はやれる事が無いのが遊び人(♀)の困るところだ。
「勇者ちゃんは生き返れるけどー、あたし達は死んだら終わり?でも精霊っちの加護はあるからー、それを集めてぎゅ~ってすればー、ね?」
「ごめん、分かんない…」
相変わらず遊び人(♀)の話し方は分かり難い。でもおっぱい大きいから許すよね。
「僕達にも微弱ながら精霊の加護があり、その力で魔王にダメージを与えられる。ならば、その微弱な加護を一つに纏めれば勇者の様に生き返る事も出来るんじゃないかという話だ」
「賢者(♂)!もう大丈夫なのか!?」
「ああ、もう大丈夫だ。そして、その微弱な加護を一つに纏めるために誰かの体内に宿り、魔王の前で開放する。これがこの決戦用強化式出産だ」
「決戦用強化式出産」
「そうだ。その母体は本当はそいつがやるはずだったんだけどな」
「えへへ、死んじゃってごめんねー」
そう言って遊び人(♀)は笑う。
という事は本当だったら妊婦の遊び人(♀)と旅をしていたって事?ちょっとドキドキするな!
「全く。だから急遽代わりの母体を用意しなきゃいけなかったんだが、その検査中に他の仲間も死んでしまうし、続いて僕も死に掛けた。ギリギリだったんだぞ」
「でも、賢者(♂)さんが『僕が産む!』って言ってくれて良かったです」
「そうですな。それがなければここまで来れなかったのですから」
「マジありがとねー、賢者(♂)ちゃんー」
「ふんっ、魔王を倒すためだ。これぐらいどうって事無い」
遊び人(♀)だけじゃなく僧侶(♀)や商人(♂)も賢者(♂)からも賞賛を受けて、賢者(♂)は顔を赤くしながら答える。
いやいやいやいや、なんでそんないい話になってるの?確かにこのまま魔王倒せそうだけどさ、
「何で言ってくれなかったんだよ!!心配しただろ!!!」
本当に賢者が魔物の子供を産むのかとか、どうやって育てるんだろうとか、見た目が人間よりじゃなかったらショックを受けるかもとか、色々考えていたんだぞ!!
なんでパーティーのリーダーでもある自分だけ知らなかったんだよ!ちゃんと教えてよ!!
「勇者、君は演技が出来ない人間だろう?」
「あ、いや、どうだろう…」
演技をしようとしてした事は無いけど、嘘を付くのは苦手かも。
「この計画は魔王側にバレたら一網打尽にされる危険性があった。だから黙っていたんだ。……不快にさせたのならすまない、謝る」
「い、いや、いいんだ…賢者(♂)が心配だっただけだから…」
「おー、勇者ちゃんと賢者(♂)ちゃんユウジョウー?」
「茶化しちゃダメですよ」
言いたい事は色々あるけど、賢者(♂)がそれならまあいいや。
それに賢者(♂)に謝られるのってなんかむず痒いし。
ガキーン!! ドゴォーン!! ウワー!!
「おのれ!こうなったら真の姿で!!」
賢者の出産が落ち着いても戦いはまだ終わっておらず、どうやら魔王が第二形態になる様だ。
前もって魔道師のおじいさんから魔王は真の姿があると教えてもらっている。ここからが本番だ。自分も戦いに参加しよう。
ズモモモモモモ ブゥン ジャキーン ブゥン ジャキーン ガガーッ
『さあ、おまえたちの、のうずいを、ぶちまけるがいい!!』
魔王は何倍にも大きくなり、腕が四本になってそれぞれ違う獲物を掲げている。
きっとこの大きさでも戦えるようにこの部屋は広いのだろう。
だけど、賢者(♂)とたった二人でここまで来れたのだ。仲間が全員揃っている今なら負ける気がしない!
ジャキン!!
先ほどみたいに賢者(♂)を守る為ではなく、今度は賢者(♂)と並び立って戦うために剣を構える。
「いくぞ皆!ここからが本番だ!!」
『『応!!』』
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