第21話 魔術師の師匠

リデルがしゃがれ声の女を師匠と呼んでいる。

その女はぼさぼさの髪に、古い衣服、破れそうな靴を履いていた。

確かに魔術師の様な見た目ではある。

「あんたこそどうしてこんなところにいるんだい」

「…いろいろありまして」

リデルがちらりとふたりの方を見た。

「工房はどうした?」

「目くらましの魔術をかけて隠しておきました」

「そうか、引きこもりのあんたが工房を出てまで知りたいことがあるんだね」

「はい」

「それがこの吸血鬼に関することかい?」

「そうです」

「やれやれ…吸血鬼だなんてとんだ厄介ごとじゃないか。弟子を手伝いに来たはいいけど帰りたくなってきたよアタシは」

「師匠もたまには外出するべきです」

「あんたにゃ言われたくないね!」

「せっかく来たんですから」

「帰るなんてのは冗談だよ。アタシも吸血鬼には興味がある。特にそこのは珍しい吸血鬼みたいだからね」

「…彼女にも名前があります」

リデルが目配せして、ライカはルイを女に見せることになった。

この女の人がリデルの師匠であるなら、暗黒地帯の果てまで出向く必要はなくなったのでは?と内心喜んでいる自身がいた。

「えっと、わたしはルイといいます」

女はルイの手を握って笑った。

「吸血鬼から挨拶されるなんて初めてだよ。アタシはエマだよ、これからよろしく。そこの人間は?」

エマがライカを指差して尋ねた。

「おれはライカです」

「いい男じゃないか!よろしく頼むよ、アタシはエマだ」

「エマさん、よろしくお願いします」

形ばかりの紹介を終えて、4人は一緒に食事を取ることになった。

もちろんルイはフードを被ったまま。

「師匠、師匠は吸血鬼についてどこまでご存知なんですか」

「アタシは研究家じゃないからね、そこまで詳しくないと思うけど何でも聞いておくれ。ただここでその話をするのは危ない」

「そうですね、とりあえず食事をいただきましょうか」

4人は黙々と食事をとった。

ルイは落ち着いた心地がしなかった。

「エマさん、どうしてわたしが吸血鬼だとわかったんですか?」

店を出たところにあるベンチに腰掛けて話すことになった。

「あんたからは独特の匂いがするんだよ。ああ、悪い意味じゃあない。ほかの吸血鬼とも普通の人間とも違う匂いがしたもんでね。カマをかけさせてもらったよ」

「師匠は嗅覚が優れていますからね」

「おだててもなにも出ないよ」

エマがリデルの腹を小突いた。

彼はうめき、エマをにらんだ。

「ルイちゃんは本当に血を必要としないのかい」

エマが尋ねた。

「えっ…どうしてわかるんですか」

「吸血鬼はふつう、人間を見たら即座に襲いかかってくるもんだ。理性のきく吸血鬼はひと握りしかいない」

「だからわたしを見ても怯えないんですね」

ルイはリデルの姿を思い返して軽く笑った。

「魔術師が吸血鬼に怯えてどうする」

「ですよね、リデルさん」

「うるさい!ふたりしてからかうな!

俺は吸血鬼が苦手なんだよ」

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世界の終末で君と散る 各務ありす @crazy_silly

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