第19話 新たな旅立ち

翌日、いちばんに目覚めたのはルイだった。

彼女は隣で眠るライカと、卓に伏せて眠るリデルの姿を捉えた。

そして自分が想像していたよりたくさん寝てしまったことを知った。

「ライカ、起きて」

ライカをゆすって起こした。

彼は夜勤明けで相当疲れていたのだろう、簡単には起きなかった。

「ルイ…?おはよう」

「おはよう、ライカ」

ルイはすっかり目が覚めて、ベッドから降りると、リデルを起こした。

「リデルさん、リデルさん」

肩を数回揺さぶられて彼は起きた。

「…ルイちゃん、おはよう」

リデルは長い欠伸をして立ち上がり、お茶を淹れる用意をしに奥へ行った。

「よく眠れた?」

「うん、ごめんね、昨日のわたしのせいで余計に疲れちゃったよね」

「おれは何もしてないよ、見てただけだから」

「リデルさんは大丈夫かな」

「あいつは細いけど頑丈だよ」

「わたしと同じくらい細いから心配になる」

「女の子と同じくらい細いとか聞いたらあいつ怒るよ」

「いまお茶の準備してて聞こえてないよ、多分」

奥の方で食器がぶつかる音が聞こえる。たしかに聞こえていないらしい。

「朝ごはん食べたら出発しようか」

「うん、とはいってもどこに行けばいいのかわからないけど…」

「それはリデルに任せよう、魔術師の勘ってのがあるだろ」

がちゃんと音がして、卓に朝ごはんとティーカップが置かれた。

「魔術師の勘ってなんだよ」

「聞こえてたか」

「ああ思いっきりな」

「どこから行けばいいかわからないからさ、おれもルイも。魔術師のお前なら吸血鬼に詳しい人間の在り処を知ってるんじゃないかって」

「そういうことか、それなら俺に任せとけ。魔術師の知り合いならかなりの数がいる。変なやつしかいないが」

「この際だから変なやつにもあたるしかないな」

「魔術師は基本変わり者だからな」

さっさと食べて行くぞ、とリデルは付け加えて朝食に手を伸ばした。

ライカとルイも食べ始める。

「ルイちゃん、本当に血は要らないの?俺のでよければあげるけど」

「…要りません!こっちのご飯の方がおいしいです」

「そう?必要な時はいつでも言って」

「だからわたしは血なんか吸いませんって!」

リデルとルイが少しずつ馴れ合う様子を見てライカは微笑んだ。

「どうせ貰うならライカの血の方がいいです」

そしてなぜかリデルに対してはあたりが強いルイだった。

「目くらましの術をかける。少し離れていてくれ、見られてるとやりにくいから」

食事を終え、旅の支度も終えた一行は工房の外に立っていた。

リデルが最後に魔術をかけて工房を隠せば完了だ。

工房の壁に手のひらを当てて、少し長めの呪文を唱え、宝石を埋め込む。

青い光が建物全体を覆い、宝石に収束した。

さらに宝石を埋め込み、短い呪文を唱えると、ライカたちの前から工房の建物が消えた。

そこはただの森である。

「二重の目くらましだ、これを破れるのは魔術師の中でもひと握りだろう」

術を張り終えたリデルが2人の元へ戻ってきた。

額には汗の粒が浮かんでいる。

「行こうか」

「はい!」

やけに楽しそうなルイを横目に、リデルは汗を拭った。

「ルイは魔術を見るのは初めてか?」

「この状態になってからは初めて」

「吸血鬼も魔術が使えたりするのか?」

「わたしは使えないけど…」

「ま、そこら辺もこれから調べていけばいいよ」

リデルがルイをなだめた。

そして一行は工房のあった場所を振り返り、少しだけ沈黙した。

「またここに帰って来られるといいな」

リデルがつぶやいた。

ライカとルイは頷いた。

彼らの旅はまだまだ始まったばかりだ。

「行こうか、トルーシャの隣に魔術師の国がある。今日はそこに向かおう。俺の師匠がいるはずだ」


リデルを先頭に3人は歩き始めた。

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