第18話 魔術師の思考
リデルは工房の中を見渡し、旅に必要なものを考えていた。
まず工房に目くらましの魔術をかける必要がある。
吸血鬼は結界で入れないが、人間は簡単に入ることができてしまうからだ。
いくら森の中とはいえ、長い間空けておくのは不安がある。
それから、茶葉と宝石といくつかの資料を持ち出す用意をした。
宝石は魔術を用いるのに使うものだ。
ルイとライカはその間に仮眠を取り、旅立ちに備えることにした。
*
「お二人さん、準備できましたよ」
旅の支度を終えて、リデルは気持ち良さそうに眠るふたりに声をかけた。
が、起きない。
ルイは先の件で体力を消耗してしまったのだろう、仕方がない。
だがどうしてライカまで深い眠りについているのか。
リデルは幼馴染の鼻をつまんで無理やりに起こした。
「痛ってえ…なんだよ、おれはもうすこし寝る予定だったのに」
「あれから3時間は経った」
「えっそんなに」
「お前は向こうで何の仕事をしていたんだ」
「屋敷の警備、貴族の」
「…夜勤明けか?」
「ああ」
「そうか…ここを経つのは明日でも構わないのなら、しっかり睡眠を取れ」
「恩にきるよ」
そう言ってライカは再び眠りの世界に落ちていった。
ルイはそんなライカの側で丸くなって眠り続けている。
リデルはため息をついて、己の寝床で眠るふたりを眺めた。
彼らの馴れ初めは結局聞けていないが、ルイがライカを信頼し、ライカもルイを信用していることが見て取れた。
昨日会ったばかりのふたりとは思えない関係性だ。
リデルは首をひねって考えた。
…記憶を消される前に、ルイとライカになんらかの関係があったとか。
ルイが覚えていないのは当然だが、ライカがそれを覚えていないのは不自然だ。だがあまりにも出来すぎている。
いくら考えてもその考えしか浮かばず、リデルはひとまず考えることをやめた。
今ここで自分が答えを出さずとも、彼らはそれを求めて旅に出るのだから。
自分がその終着点まで生きているかも知らないが、きっと答えがあるとルイが言っている。
彼女の言葉には、不思議な信憑性が感じられるのだ。
吸血鬼の国、記憶を消されたルイ、なんらかのつながりを持つふたり、そして魔術師の自分。
不確定要素が多すぎて不安になる旅だが、その一方でリデルの胸は高まっていた。
まだ見ぬものを見たいと感じる、魔術師の感性ゆえか。
それとも、ひさびさに再会した幼馴染との旅が単純に楽しみであるのか。
どちらもあり得るとリデルは思考を結び、自分も睡眠を取ることにした。
全ては既に動き始めている。
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