第18話 魔術師の思考

リデルは工房の中を見渡し、旅に必要なものを考えていた。

まず工房に目くらましの魔術をかける必要がある。

吸血鬼は結界で入れないが、人間は簡単に入ることができてしまうからだ。

いくら森の中とはいえ、長い間空けておくのは不安がある。

それから、茶葉と宝石といくつかの資料を持ち出す用意をした。

宝石は魔術を用いるのに使うものだ。

ルイとライカはその間に仮眠を取り、旅立ちに備えることにした。

「お二人さん、準備できましたよ」

旅の支度を終えて、リデルは気持ち良さそうに眠るふたりに声をかけた。

が、起きない。

ルイは先の件で体力を消耗してしまったのだろう、仕方がない。

だがどうしてライカまで深い眠りについているのか。

リデルは幼馴染の鼻をつまんで無理やりに起こした。

「痛ってえ…なんだよ、おれはもうすこし寝る予定だったのに」

「あれから3時間は経った」

「えっそんなに」

「お前は向こうで何の仕事をしていたんだ」

「屋敷の警備、貴族の」

「…夜勤明けか?」

「ああ」

「そうか…ここを経つのは明日でも構わないのなら、しっかり睡眠を取れ」

「恩にきるよ」

そう言ってライカは再び眠りの世界に落ちていった。

ルイはそんなライカの側で丸くなって眠り続けている。

リデルはため息をついて、己の寝床で眠るふたりを眺めた。

彼らの馴れ初めは結局聞けていないが、ルイがライカを信頼し、ライカもルイを信用していることが見て取れた。

昨日会ったばかりのふたりとは思えない関係性だ。

リデルは首をひねって考えた。

…記憶を消される前に、ルイとライカになんらかの関係があったとか。

ルイが覚えていないのは当然だが、ライカがそれを覚えていないのは不自然だ。だがあまりにも出来すぎている。

いくら考えてもその考えしか浮かばず、リデルはひとまず考えることをやめた。

今ここで自分が答えを出さずとも、彼らはそれを求めて旅に出るのだから。

自分がその終着点まで生きているかも知らないが、きっと答えがあるとルイが言っている。

彼女の言葉には、不思議な信憑性が感じられるのだ。

吸血鬼の国、記憶を消されたルイ、なんらかのつながりを持つふたり、そして魔術師の自分。

不確定要素が多すぎて不安になる旅だが、その一方でリデルの胸は高まっていた。

まだ見ぬものを見たいと感じる、魔術師の感性ゆえか。

それとも、ひさびさに再会した幼馴染との旅が単純に楽しみであるのか。

どちらもあり得るとリデルは思考を結び、自分も睡眠を取ることにした。


全ては既に動き始めている。

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