第14話 魔術師の工房
リデルの工房は街から離れた森の中にあった。
彼はここでひとりで暮らしているという。
魔術におぼれた彼を家族は見捨て、トルーシャから出て行った。
どこに行ったのかは彼自身すら知らないという。
当然ライカも聞かされていない。
「お前ちゃんと食ってるか?相変わらず細いな」
「心配されずとも」
「どうせ魔術に没頭してんだろ」
「…間違ってはないな」
ライカとリデルは数年ぶりの再会で会話に花を咲かせている。
ルイはさらにつまらないと感じた。
これが人間の言う“やきもち”というものだろうか。
それともただの嫉妬か。
「ねえライカ、この人とはどういう関係?どうして魔術師と知り合い?」
ふたりはルイを振り返って、
「旧い友人だよ」
「ただの腐れ縁だな」
ほぼ同時に言った。
「腐れ縁ってお前さあ、おれがいなかったら死んでたくせによく言えるな」
「その件に関しては今でも感謝している」
「…そ、その件って?」
蚊帳の外のルイは話についていけない。質問は次々と思い浮かんだ。
「話すと長くなるよ、それでもいいなら話すけど」
「聞きたい」
ルイはライカの関心を自分に引きつけようと必死だった。
何故だかはわからない。
ライカは不思議そうな目でルイを見、リデルは怪訝な顔で首をひねった。
「まあまあ、俺の育てた茶でも飲みながら話そうか」
リデルが沈黙を破り、ライカは久しぶりのお茶に目を輝かせた。
「えっと…ルイちゃんはお茶飲める?かな?珈琲もあるけど…」
「…飲めます!」
「ルイ、変な意地張ってどうしたんだよさっきから」
「意地なんか張ってない」
「それを張ってるっていうんだけどな…まあいいよ、話そうか」
リデルはお茶を淹れに席を立ち、ライカはルイの目を見つつ話し始めた。
*
「…おれがリデルと会ったのは10年前の秋の暮れだった」
「ちょうど今頃かもな」
とお茶をすすりながらリデルが付け加えた。
「その時はこいつもリーウェントに家族と住んでたんだ」
「魔術に手を染める前はね」
「で、魔術やってるのが親に見つかって問題になって揉めたらしい」
「…俺から話した方がよくないか?」
リデルがティーカップを置きながら尋ねた。ライカは頷いた。
「魔術を知ったのは5歳の時だ、10年間隠していたが見つかって大喧嘩になった。俺は魔術をやることの何が悪いか未だにわからねえし、反省もしてないがな」
ルイは茶を飲む手を止めて固まってしまっている。
一方のライカは懐かしむような目線をリデルに向けている。
「俺にとって魔術は世界の全てだったからだ、そして今もそうだ」
俺から魔術を取ったら何にも残りやしない、とため息をつきながらリデルは腕を組んだ。
「親は俺を家から追い出した、気持ち悪い悪魔だと呼んでな。悪魔を見たこともないくせによく言うよ。
…で、俺は路頭に迷って餓死しかけたわけ。
魔術で食い物を作ることはまだできなかったからな、そんときにライカが助けてくれた」
リデルはライカの目を見ながら言った。
ライカは目が合うと頷いた。
「…リデルは側溝の下で丸くなってたんだよ、子犬みたいにね。おれがたまたま懐中時計を滑らせて拾いに行かなきゃ、餓死してたよ」
「あのときの恩は忘れない。赤の他人の俺を家に招いて手厚く世話をしてくれたのは他でもないライカだ。家族にも世話になったな」
家族、という言葉を聞いてライカは一瞬だけ暗い顔になった。
ルイはそれを見逃さなかった。
「家族は元気にしてるか?」
リデルは事情を知らない。
故に聞けることでもあるが、ルイは思わずリデルを睨みつけた。
「…ルイちゃん?俺、何か言っちゃいけないこと言ったかな」
リデルは自分の話したことを思い返すように顎に手を当てた。
ルイはライカの表情を見て苦しくなった。
これは彼の選択だが、迫ったのは自分であり、半ば強制的に彼を自分の旅の共にしたからだ。
ライカが何を言うのか、ルイは気が気で仕方なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます