第13話 再会は突然に
サライは面積の狭い国であるため、トルーシャまではさほどかからない計算だった。
だが、朝の交通渋滞に巻き込まれ、馬車がトルーシャへの道にたどり着いたのが2時間近く遅れた。
馬車の中でライカとルイは手を繋いで眠っていた。どちらからともなく。
ライカたちが目を覚ましたのは検問所前に停車する数分前だった。
「…乗り過ごすところだった」
「すごくぐっすり寝てたね、ライカ」
きっと昨晩の疲れがたまっていたのだろう、とルイは推察した。
ライカは伸びをしながら街の風景を眺めている。リーウェント寄りの街とは景色がだいぶ異なる。
こちらの検問所は常に人が絶えず、賑わっていた。
「ルイ、行こうか」
ライカがルイの手を掴んで馬車から降ろす。そしてフードを深く被せた。
これできっと吸血鬼だとわからない。
*
検問は昨晩と同じく何事もなく終わり、ふたりはトルーシャの地に立っていた。
トルーシャは魔術師が多く住む国で、国というより村という言葉の方が適切なのではというくらいには過疎だった。普通の人たちが魔術師を避けているためである。魔術師たちは人に害をなさないが、やはり見た目やその魔術のおぞましさに引いてしまうのだろう。国そのものは気候のバランスがよく、ライカにとっては居心地のいい地である。ルイにとってはどうだかわからないが、気に入ってくれることをライカは願った。
「ルイ、これからおれの知り合いを探しに行くけど、疲れてないか?おれはたくさん寝たから平気」
「…わたしは人間ほど簡単には疲れないの!眠いのは眠いけど…」
「ああ、ルイは吸血鬼だからな」
見た目は吸血鬼だが、その性格や習性はまるで人間のようである。
彼女を吸血鬼たらしめるのはいったい何なのか。ライカにはそれが気になって仕方なかった。だから魔術師の知り合いを当たってみることにしたのだ。
ふたりはトルーシャの荒れた道をひたすら進んで、魔術師の住む街を探した。ライカも久し振りに訪れたので、懐かしさで何度も辺りを見渡してしまう。ルイはつまらなそうにそんなライカの後を追っていった。
ライカが休憩を取ろうと提案し、ルイの方を振り返った時だった。
ルイの背後に誰かの気配を感じて、ライカはルイの手を引き、走り出した。
「ライカ?なに、どうしたの?」
「ルイを狙っているヤツがいる。背後の気配に気がつかなかったか?」
「…誰かいるな、って思っただけ」
「危機感が足りない」
「だからわたしは吸血鬼だって言ってるでしょ、やわじゃないの」
なんだかルイの機嫌が悪い、おれはなにをしただろうか、とライカは考えながら走ったが、ずっと走り続けるわけにもいかず、途中で止まってしまった。
その気配もそこで止まったのをふたりは感じた。
「おい、そこに隠れてるお前、ここに出てこい」
ライカはその気配の主に呼びかけた。
すると気配の主は意外にもあっさりと登場した。ライカは絶句した。
「お、お前…リデルだよな?」
「ああ、俺はリデルだ」
リデルと呼ばれた男はふたりに近づき、ルイの方を見ながら言った。
「ライカが女の子連れて歩いてるからさあ、邪魔しないように隠れて尾行してたんだけど」
「尾行しないで最初から出てこいよ」
ライカは呆れ顔でリデルの顔を見た。
そしてルイに話しかけた、
「こいつがおれの知り合いのリデルだ。変な男で悪かった」
「なんでおまえが謝るんだよ…」
リデルはライカの脇腹を小突いた。
ルイは驚いた顔でリデルを見て、彼の手を取った。
「あなたがリデルさんなのね、よろしくおねがいします。わたしはルイといいます」
律儀に握手と自己紹介をしてみせた。
本当に危機感のない吸血鬼だ。
「で、どうしてライカは女の子を連れてんだ」
「まずそこかよ」
「おまえほど女っ気のないやつはいなかったからな」
「ルイとは昨晩会ったばかりだ」
「…昨晩?その割に仲良さげだけど」
「色々あったんだ、それをお前に話そうと思ってトルーシャに来た」
「わざわざどうして俺に?」
「魔術師なら知ってるかと思って」
「…なにを?」
「ここでは話しづらい。場所を変えないか」
「ああ、俺の工房でよければそこで話を聞くよ」
「助かる、礼を言う」
3人はリデルの工房へ向かって歩き出した。
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