第7話 あなたの決意
「…答えを、探す?」
ライカさんは怪訝そうな顔をした、ような気がした。
暗闇であまりよくは見えない。
「わたし自身のはじまりの答えを探すの、これから」
ますます怪訝そうな顔をしている。
そんな顔されたら、申し訳なくなってくるのだけど。
「えっとそれは、きみのルーツってことでいいのかな?」
「うん。端的に言えばルーツが適語だと思う」
「きみは…ごめん名前、教えて?いつまでもきみって呼ぶのもあれだから」
「わたしは、ルイ。苗字はない」
「ルイ、綺麗な名前だな。きみによく似合ってると思うよ」
「口説き文句はいいですから!とにかくここを離脱しないと騒ぎが広まってしまいます。だからもう一度聞きますね?」
「口説いたつもりないんだけど…」
ライカさんは天然のタラシなのか。
名前を褒められてこんな嬉しい気持ちになったのは初めてだ。
胸の真ん中あたりが、ぎゅっとなる。
「〜っこれで最後です!わたしといっしょに答えを探してくれますか?」
難しいことを要求しているのはわたしでもわかる。
職を失い、家族と離れ、国からも出て行かなくてはならない。
即答を求めること自体が間違っているのだが、今は時間がない。
街に騒ぎが広まってしまえば、わたしもライカさんも屋敷の主人も共倒れだろう。
吸血鬼を匿ったとか云々で皇帝から酷い仕打ちを受けるかもしれない。
だからなるべく早く、ここを離れて出来るだけ遠くに行かなくては。
わたしはこの人たちを傷つけたくない。だけどライカさんの力が絶対に必要だと本能が告げている。
「わかった、いっしょに行くよ」
ほとんど迷いのない声だった。
ライカさんは強い。
わたしなんかよりずっとずっと。
離れた場所でわたしたちの会話を聞いていた屋敷のひとたちがざわめき出した。きっとライカさんの選択に驚いているのだろう。
わたしも少しだけ、驚いた。
ライカさんはただの人間だから、吸血鬼とともに旅立つなど決意しないだろうと。
「ライカさん、ありがとうございます」
わたしが彼の手をぎゅっと握ると、ご主人が叫んだ。
「ライカ!お前はいまからクビだ!二度と戻ってくるな!」
ライカさんは微笑んで言った、
「おれはルイとともに行きます。みなさん、お世話になりました」
深く深く頭を下げて、屋敷のひとたちに礼を述べているライカさんはかっこよくて、吸血鬼のわたしでも惚れてしまいそうだった。
「ルイ、行こう」
わたしの手を握り返して、ライカさんは歩き始めた。わたしも引っ張られるようにして歩き出した。
ライカさんは、一度も振り返ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます