第26話

「さてお客さん、プレイヤーネームをどうぞ」


ナズナが有無を言わせぬ圧力でメフィストフェレスを知っている青年に話しかける。


「えーっと…………取り敢えずRとでも……」

「駄目です、ちゃんと言ってくださいね」

「ぐっ、わかったよ……ルアン、ルアンだ」

「ルアン君ね〜、アキちゃんはルアン君のサイズ測ってる間はちょっと暇つぶしててね〜」


ナズナは蛙を睨む蛇のように鋭い眼光をアキへと向け、ルアンのサイズ測るための道具を取り出す。


仕方ない、この前メフィストフェレスに押し付けられた本でも読むか。

ルアンとやらに後でこの事についても聞いてみてもいいかもな。


俺がそんなことを考えながら本を開くと、前まで掠れていて読めなかった続きの文字が読めるようになっていた。


これ、ほんとどういう仕組みになってんだろうな。


その……は、異…界からの………の手によって…………た。……えい…うの…は、ルアンと……た。


…………ルアン?


その文字が目に入った瞬間、アキは席から飛び上がりサイズ測定をされている"ルアン"の目の前まで荒々しい足取りで近付いていった。


「お前ルアンって言ったな」

「そ、それが?」

「まさかとは思うがこの本の人物、お前じゃないよな?」

「?!」


ルアンと名乗る男に書物のそのページを見せつけると目に見えて狼狽する。


「その本どこで?!」

「クソ悪魔に押し付けられたよ」

「あんのアホメッフィーめ、こうなることが分かってて押し付けたな?」


書物をアキから奪い取ったルアンはペラリペラリとページをめくると一つ溜息を吐き、アキへと向き直る。


「アキって言ってたよな、これ貰っていいか?」

「別に構わないが」

「助かる、代わりと言っちゃなんだけど何かあったら言ってくれ。ある程度役には立てるはず」


ルアンはそう一言言うとフレンド申請を送って来た。


「ならそのうち頼る事にする」

「おう」


その短いやり取りを終えるとアキは踵を返し店の出口へと歩を進めていった。


「あれ、アキちゃんもう行っちゃうの?」

「ごめんねナズナさん、これでもランカー目指してはいるからさ?早くこの子の性能を試したいし、レベルもあげたいから」

「いいね!そしたら私はランカーの装備を作ってあげる凄腕鍛冶屋って事だね!私の事はいいから存分に楽しんでおいで!!」

「うん、行ってくる!!」


俺はナズナさんにそう残すと店を後にした。




~~~




さて、あいつルアンの乱入やらなんやらで忘れてたが、ナズナさんから貰った装備の確認をしてみようかな。



死霊守護者の兜 【Reality:プレイヤーメイク】

Str+2 Vit+3 weight1



死霊守護者の胴鎧 【Reality:プレイヤーメイク】

Vit+5 weight3



死霊守護者の篭手 【Reality:プレイヤーメイク】

weight1



死霊守護者の腰鎧 【Reality:プレイヤーメイク】

weight2



死霊守護者の鎧靴 【Reality:プレイヤーメイク】

weight1


セット効果


従魔のステータスが全+1

Vit+5 Agi-5 Luk-5


ナズナが作成したアキ専用のフルプレート、鎧からはただならぬ妖気が放たれており装備した物に力と代償を与えるであろう。


デバフ付く変わりの恩恵がでかいなこれ、というかこんなおっそろしい装備を作り出すナズナさん何者だ?


あまりの装備の高性能さにそんな疑問が浮かんで来たのだが、その疑問は一通の通知によってかき消された。


『アキへ助力求むシャケ』


助力求むって、何してんだアイツ…………。


シャケから届いた通知の内容に呆れつつ、通知に添付されていた位置情報を元にシャケ達の元へとセキトバを走らせる。


場所は…………草原を北に行ったとこか、確か雪山だったな。


セキトバの上でマップを開き、おっちゃんに教えられた事を思い出しながら情報を穴埋めしていく。


寒さによるデバフとかもあった気がするけどそこら辺は覚えてないしな、俺にはあんまり効果ない内容だった気がするんだよな。


『主、あと少しで雪原に入る』

「いい子だセキトバ、報告ありがとな」

『ふふん』


俺が褒めながら頚椎当たりを撫でると、セキトバは念でだが誇らしげに鼻を鳴らした。


この世界って本当に自由度高いよな、BOSSを倒さないと進めないとかないし行こうと思えば初心者でもラストダンジョンまで突っ走ることだって可能だろう。

まぁその場合道中で殺される可能性大だが。


━━冷たっ?!


思考に感覚を割いていたアキは突然顔に吹き付けてきた雪に驚きセキトバの上で跳ね上がった。


『主、どうした?!』

「いやぁ、雪にびっくりしてね」

『心配になることはよして欲しい』

「気を付けるわ」


ジトッとした念を送ってくるセキトバに軽く返すと、数十メートル程離れた所で手を振るシャケ達を見つけ手を振り返す。


「はてさて、今回はどんな面倒を持ってきたのやら」

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