第25話
「あぁ最悪だ!!」
アキはプレイヤーやNPC達が行き交う街の中憤怒と焦燥を混ぜた叫びを響かせていた。
事の原因は終業式の後に起きた家族旅行だ。
終業式が終わり家に帰ると、俺は何も知らされず必要最低限の荷物と共に家族旅行に連行されたのだ。
おかげでVRギアを忘れここ三日TPOにログインすることが出来なかったのだ。
まずい、まずいぞ?今あの二人のレベル見てみたけど三つ四つレベル差が開いてたぞ?
いや待て、レベルは現段階で30が上限な訳だ。
つまり後25日でレベルを30まで上げればいいわけだから…………今レベルが9で30までは21、一日1レベ上げられればお釣りは来る。
だがレベルってのは上に行くほど膨大な経験値を必要とするものだからお釣りは無いものと考えた方が良さそうだな。
冷や汗を額から滝のように流れるのを感じながら脳内でレベル上げの計画を立てていると一つの通知が入った。
『ナズナだよ、頼まれてた装備全部できたから取りに来て!!』
届いた通知はナズナさんからのものだった。
よしっ!装備が手に入ればもっと強いBOSSにも行けるな、確か次に倒せそうなBOSSは…………よし、あいつか。
今日の計画を脳内で完成させると、ナズナさんの店へと早歩きで向かう。
〜〜〜
「ナズナさーん来たよー」
「おっ!!いらっしゃい!!待ってたよ!!」
扉の開く軽快な音に気が付いたナズナさんが少し疲れたような、それでいて本当に楽しそうな、嬉しそうな笑顔出て迎えてくれる。
「待たせちゃってごめん」
「大丈夫、ちょっとここ最近予定が入っててと言うより強制連行されてログイン出来てなかったから」
申し訳なさそうに言うナズナさんに俺は笑いながら言うと今にも飛び跳ねそうな足取りでカウンターまで歩く。
「アキちゃんも大変そうだね」
「んゃぁ……まぁ、そうだね……」
確かに色んな意味で大変だった、旅行先で道に迷うわ宿間違えるわなんやらでかなり疲れたし。
そんなことを考えているとナズナさんがアイテムボックスからマネキンを取り出すと、バッとマネキンの方を指さしながら画面を操作し━━
「これがアキちゃん用の装備だよ!!」
━━その瞬間、真っ黒なフルプレートが出現した。
「かっっこいい!!」
「ふへへ、そんなに喜んでくれると作った側としても嬉しいなぁ」
「すごくかっこいいよこれ!!ネクロマンサーっぽいしガーディアンとしてもいいし、ロマンの塊だね!!」
全身が光を反射しないマットブラックで構成されており、ヘルムには髑髏を模した白いラインが、腕や足にも白い炎が描かれている厨二前回のフルプレートがそこにはあった。
「そして、もうひとつあるんだ」
「なになに?!」
「じゃーん!!」
ナズナの明るい掛け声とともにカウンターに一つの巨大な盾が現れた。
それは前に買ったタワーシールドより一回り大きく、何百という矢が降ってきても全て軽々と受けられるのではないか、と思うほどのものだった。
デザインはフルプレートに合わせているらしくこちらも黒を主体とし、真ん中には髑髏を象った装飾がされていた。
「厨二心をくすぐる最高の装備だよ!!」
「良かった、喜んでもらえて。アキちゃん、この子達を大事に使ってあげてよ?」
「絶対に大切にする!!早速BOSS回って性能確かめてくる!!」
装備を受け取り、早く試したいという気持ちを抑えられず店内を走り出口へと向かっていると━━
━━ガチャッ
その瞬間店の扉が開き、入って来たお客さんにぶつかってしまった。
ぶつかった張本人である俺はVitが高かったため何ともなかったが相手の方はステータスがそこまで高くないのか尻もちをついてしまっていた。
「大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫、こんなのうちの嫁のゲンコツに比べりゃ…………」
ぶつかった地味目な青年に手を差し伸べるとニコッと笑い━━
━━「ステがもっと高けりゃこんなさまになってなかったろうに、メフィストフェレスのやつアバター作成に時間かかりすぎだろ」
そっぽを向いた青年の口からあのムカつく野郎の名前が口から出てきた。
「メフィストフェレスがアバターを作成した?」
「あ、やべ」
「ちょっと詳しく聞かせてもらっても」
「『スルースキル』!!」
━━パチィン
青年が何かを口にし始めた瞬間に右手を鳴らし店の出口にほね太郎を出現させ脱出経路をたった。
「…………消えた」
しかしその時には既に青年は消えており、店内は静寂に包まれた。
「『サモンスケルトン』、お前ら窓を見張れ」
『『はっ!!』』
こうして完全な包囲網を完成させると俺は店内を探し回ることにした。
まだこのゲームではテレポート的な能力は手に入れることは不可能であろう、そして彼が発した『スルースキル』というトリガーから察するに姿を消したりする能力であるという予想はつく。
「出てこい!!そしてあの悪魔との関係について洗いざらい吐け!!」
俺がそう叫んだ数秒後、先程まで何も無かった空間から、いや、何も感じられなかった空間から青年が姿を現した。
「あぁ…………初日からめんどくさいことになったなぁ……」
青年はそう言うとアキの事をスルーし、カウンターへと向かっていき、「お姉さん、何かいい装備ない?」とナズナに問いかけた。
「え、えっと?」
「おうこら無視か野郎」
無視をかます青年に俺は下から睨み付けると青年はひとつ大きな溜め息を吐くと腰から刀を抜刀する。
「大丈夫、痛いけど気絶するぐらいで済むから大人しく寝ててな」
「おうそうか、ならこっちはお前をぶっとばして椅子に括りつけてクソ悪魔について聞いてやるよ」
早速貰った装備を装着し、大盾を構える。
「かっこいいなそれ」
「だろ?そこのナズナさんが作ったんだ」
「俺もお前のしたら作ってもらおうかな」
「ストーーーップ!!」
俺と青年の一触即発の空気にナズナさんが小さいながらも頑張った大声で乱入して来た。
「ナ、ナズナさん?」
「ここは私のお店なんだから暴れないで、この店では私が一番偉いの、いい?」
「……はい」
「よろしい、お客さんも武器をしまって」
「おう」
ナズナの圧力に二人は武器をしまい、ナズナの出した椅子に大人しく座ることにした。
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