第4話 南シナ海の襲撃

「速報が入ってきました。ゲートスクワッドチームと協力していたアコードの調査チームが「紺碧の眼」を発見しました」

女性アナウンサーが口を開いた。

「元寇の襲来後七三八年ぶりの歴史的な大発見です。紺碧の眼は皇室の失われた宝の一つです。出雲大社が保管していた宝物になります」

男性アナウンサーは資料を見ながら言う。

画面に如月長官と天皇陛下が映っている。その手には直径一〇センチの青色に輝く球体があった。



そのニュースを海上自衛隊横須賀基地の会議室で見ているゲートスクワッドのメンバー達。

「あとは「虹の眼」だけね」

しれっと言うベラナ。

「精霊の声が聞こえたというメンバーがいるみたいね」

グロリアがダスティと頼仁をチラッと見ながら言う。

「蜂須賀と石野は精霊の声が聞こえた。聞こえるメンバーと聞こえないメンバーがいる。精霊の声が聞こえるメンバーはある程度時空の穴や揺らぎを感知できる」

横田はため息をつく。

「鉤爪で引っかかれるとゴムのようにへこむらしい。それに精霊を感知すると硬質ゴムのような質感になる。まるでダスティの症状に似ている」

資料に目を通すベラナ。

「精霊を感知できるのがロシアにもいたようだ。あの海域にいなくて待機していたメンバーにも精霊の声が聞こえたのはモンゴメリー、マッシュ、ローラン、マリーナだ」

 横田はチラッと見る。

「ローズ達の話では精霊はフィラン達が連れてきたエイリアンがいるのは確かだが息を潜めて隠れていてわからないと言った。空や地上にいないなら海しかないわね」

グロリアは地図を広げる。

「中国軍がよくいるのは尖閣諸島、東シナ海、南シナ海とインド洋だが戦争でもない限りそこで何が行なわれているか確認するのは不可能だ」

横田が南シナ海を指さす。

「東京駅で朴と洪を捕まえたみたいね」

グロリアが話を切り替えた。

「向こうから手を出してきたから公務執行妨害で逮捕された」

横田がわりこむ。

 「セリス大統領は横田基地から大統領専用機に乗ってさきほど帰国した」

 ベラナがタブレット端末を見せた。

 動画にタラップをのぼるセリス大統領が映っている。彼女が大統領専用機に乗り込んでその専用機が横田基地を出発する映像だ。

 「道路封鎖は解かれるけど警備はそのままでゴミ箱も撤去されたままで継続している」

 グロリアが声を低める。

 「連中がどう出るか様子を見よう」

 ベラナはうなづく。

 琥珀球を虫メガネでのぞくダスティと頼仁。

 「この図面って見たことがある」

 あっと声を上げる頼仁。

 真島達が振り向いた。

 「どこ?」

 ダスティが身を乗り出す。

 「赤坂迎賓館だ」

 頼仁は都内の地図を出した。

 「じゃあ行こう」

 声を弾ませるダスティ。

 「どうやって行くの?」

 ベラナがさえぎった。

 「横須賀線に乗って東京駅に行って山手線で行く」

 頼仁が答えた。

 「アコードのオスプレイで行った方が早いわね。近松さん達に知らせないと」

 グロリアがわりこんだ。

 「じゃあそれでお願いします」

 頼仁は言った。

 


一時間後。赤坂迎賓館

迎賓館赤坂離宮は、明治四十二年に東宮御所として建設された、日本では唯一のネオ・バロック様式による宮殿建築物である。

当時の日本の建築、美術、工芸界の総力を結集した建築物であり、明治期の本格的な近代洋風建築の到達点を示している。

第2次世界大戦の後、十数年を経て日本が国際社会へ復帰し、外国からの賓客を迎えることが多くなったため、国の迎賓施設へと大規模な改修を施し、和風別館の新設と合わせて昭和四九年に現在の迎賓館として新たな歩みを始め、現在に至っている。

その後、平成二一年に行われた大規模改修工事の後には、日本の建築を代表するものの一つとして、国宝に指定され、これまで多くの国王、大統領、首相などをお迎えしたほか、主要国首脳会議などの国際会議の場としても使用されている。


「すごい所ね」

ベラナとエミリーは口をそろえた。

「さっき帰ったセリス大統領だけじゃなく国王とか要人を迎える場所だからね」

笑みを浮かべる頼仁。

庭のヘリポートに着陸するオスプレイから降りて本館に入るダスティ達。

玄関に近松、磯部、ヒラー、ハリスと品川がいた。

 

 本館

日本が独自の文化を守りながらの西洋化と富国強兵に突き進んでいた時代を象徴して、

天皇を「武勲の者」という印象を表現するために、正面玄関の屋根飾りや内装の模様などに鎧武者の意匠があるなど、建物全体に西洋の宮殿建築に日本風の意匠が混じった装飾になっている。


 「セリス大統領と伊佐木総理が帰ったばかりだからここには安全だ」

 近松は周囲を見回す。

 「それにあちこち外出するのはいいけどマスコミや雑誌記者がウロついているから電車やバス、街中はウロウロしない方が安全だね」

 品川が注意する。

 「入国管理局の品川さんですね」

 品川と握手する頼仁。

 「なんでマスコミやパパラッチが?」

 エミリーが聞いた。

 「ゲートスクワットが七三年ぶりに結成され、日米共同宣言で発表されました。発表と同時に時空侵略者が韓国と中国政府に入り込んだ事も発表されました。そして御代わりで元号も「零和」になり、新天皇、皇后両陛下が最初に会われた国賓がセリス大統領です。国会もその事で揉めています。ただ彼らが基地内にいるので手が出せません」

 品川は答えた。

 「だから迎賓館の庭が臨時のヘリポートになったんだ」

 納得する頼仁とダスティ。

 「それとチャックが日本に入国している。たぶん門の外にいるパパラッチに変装しているかもしれないね」

 ヒラーはカーテンをめくる。

門の外ではパパラッチが何人かいる。警官達に追い払われてもめげずにやってくる。

時空コンパスを出すダスティと頼仁。

二人は「彩鷲の間」に入った。


彩鸞の間。名称は左右の大きな鏡の上と、鼠色の大理石で作られた暖炉の両脇に、「鸞」と呼ばれる架空の鳥をデザインした金色の浮き彫りがあることに由来している。

室内はアンピール様式であり、白い天井と壁は金箔が施された石膏の浮き彫りで装飾されている。そして、一〇枚の鏡が部屋を広く見せている。広さは約一六〇平方メートルある。この部屋は、表敬訪問のために訪れた来客が最初に案内される。控えの間として使用されたり、晩餐会招待客の国・公賓との謁見や条約・協定の調印式、国・公賓とのインタビュー等に使用されている。花鳥の間名称は天井に描かれた三六枚の絵や、欄間に張られたゴブラン織風綴織、壁面に飾られた渡辺省亭原画・濤川惣助作の『七宝花鳥図三十額』に由来している。

室内はアンリー2世様式であり、腰壁は茶褐色のジオン材を板張りしており、重厚な雰囲気を醸し出している。広さは約三三〇平方メートルある。この部屋は、主に国・公賓主催の公式晩餐会が催される大食堂であり、最大約一三〇名の席が設けられている。


「あの霊鳥と鎧武者の頭はある方向を見ている気がした」

頼仁は指をさした。

「視線を感じる」

ダスティはあっと声を上げる。

自分でもよくわからないが視線はある一定の方向を見ている気がした。

頼仁は調度品に近づいた。

そこにはアンピール様式の家具がある。室内の家具はシンメトリーで、家具の脚はライオンの脚の形をしている。

「この模様だけ幾何学的な模様だね」

ダスティがのぞきこむ。

頼仁はおもむろに精霊からもらった鍵を出して家具の模様に差し込んだ。家具の扉が観音開きに開いて中から六角形の箱と琥珀球が出てきた。

六角形の箱はアラベスク模様で素材は金属のようである。

虫メガネでのぞく頼仁とダスティ。

「ベラナ。ここはどこ?」

ダスティは虫メガネを渡した。

ベラナは虫メガネをのぞく。

「南シナ海だ」

ベラナは言った。



三十分後。海上自衛隊横須賀基地。

「なんか問題があるの?」

ダスティが聞いた。

「問題は大ありだよ」

しれっと言うローラン。

「南シナ海は東南アジア諸国が互いに領有権を主張している。そこに中国が強引にやってきて基地を造った。基地周辺に中国海警船だけでなく中国海軍の艦船がいる。中国軍の南海艦隊基地と海南島基地が近い」

真島は地図を出した。

「海南島?」

聞き返す頼仁とダスティ。

「中国軍の潜水艦隊基地がある。いつでも攻撃を受けてもいいようにトンネルがあり、基地の地下にドックがある」

ベラナが南シナ海を指さしながら説明する。

「南シナ海の東側は大陸棚があり水深は二〇〇メートル以下。平均水深は二〇〇〇メートルでもっとも深いところは五〇〇〇メートルよ」

日紫喜がわりこむ。

「潜水艦が隠れるのは難しそうですね」

頼仁が心配する。

「僕達は米軍やインド、フィリピン、ベトナム、タイ軍と合同演習をして中国を牽制する意味でしてきた」

瀬古が地図を指さしながら言う。

「いくつかの国には退役した自衛隊の艦船を貸与する形で周辺国の連携を高めている」

島津は口をはさむ。

「初耳です」

頼仁が首を振る。

「そのままだと武器輸出の法律に引っかかるけど時空異変が起きている名目なら誰も言わないからね」

真島がわりこむ。

「私は福竜丸と行くわ」

ニコールがわりこむ。

「戦闘に巻き込まれるぞ」

リッグスが声を低める。

「クルーズ客船だと簡単に近づける。ただ同じ客船でも「スーパースターヴァーゴ」には気をつけろ」

スコットは写真を出した。

「よく横浜や長崎、東京港に来ますね」

あっと声を上げる頼仁。

「名前は李麗華。この海警船と一緒にいる。名前は箔孫和。どっちも中国軍のスパイ」

黙っていたライがわりこむ。

「ブルネイ国王に会った事があるし、タイ王室の国王とも会った事がある」

ポンと手をたたく頼仁。

「え?」

「ブルネイ国王と知り合いなら王宮に泊まる事もできるの?」

目を輝かせるダスティ。

「ブルネイにはイギリス軍の駐留軍がいるし、シンガポールに揚陸艦「アルビオン」がいる」

それを言ったのはモンゴメリーである。

「確かフィリピンに護衛艦「ひゅうが」と

「ありあけ」「いなづま」がいた」

 ふと思い出す雅楽代。

 「そういえばそうだ。航行の自由作戦の一環で米軍とインド軍の艦船といる」

 真島はあっと声を上げる。

 「如月長官に言わないとダメね」

 エミリーがわりこむ。

 「私も行く」

 部屋に入ってくるジョセフ。

 「俺達もブルネイ警察と共同捜査だ」

 ジョセフと一緒に入ってくる近松達。

 「なんで?」

 真島がわりこむ。

 「洪と朴は捕まえた。二人の供述によると皇族方の御所や東京駅、練馬の自衛隊基地や空港に同時爆破テロを行なうために来日した。狙いは頼仁さまとダスティと辰巳博士だ。だからといって爆破テロがなくなったわけではない」

 近松は洪と朴の写真を出した。

 「なんで?」

 ダスティと頼仁が聞いた。

 「中国と韓国政府は日本政府とアコードが

「紺碧の眼」を発見して皇室に返した事に反発してかならず報復すると言っている。その大使は首相官邸に来て抗議している」

 ヒラーが駐日大使の写真を見せた。

 「それにどちらも外交部を通じて覚悟しろというような事を言っている」

 ハリスはTVモニターをつけた。


 「速報が入ってきました。中国政府も韓国政府も反発していますね」

 女性アナウンサーが口を開く。

 「中国の各都市で反日デモが起きており、日本人旅行者がスパイ容疑で数十件も逮捕される事態となっています。その中には旅行会社のツアー客まで拘束されています。外務省からですが中国への渡航レベル3に引き上げられました」

 男性アナウンサーは冷静に報告する。

 画面が切り替わり韓国の青瓦台の会見室が映り、崔瑛哲大統領が部屋に入ってくる。

 「あの紺碧の眼は日本の物ではなくあれは我々の物である。火器管制レーダーといい挑発するなら韓国国内にいる日本人に退去を命じる。そしてミサイルはすべて日本の都市に向いている・・」

 崔大統領の演説は続いていたが途中で画面が切り替わる。

 「首相官邸で何か動きがあるようです」

 女性アナウンサーが口を開いた。

 画面が切り替わり首相官邸の会見室に伊佐木首相が入ってくる。

 「本日、日本政府はソウル日本大使館の全面閉鎖を決定いたしました。わが国は一九五二年からの韓国による竹島占領に対し自制した行動をとってまいりました。慰安婦、徴用工問題、火器管制レーダー問題等・・・によって制裁措置として国交断交を決定しました。以上です」

 伊佐木首相はそう言うとこれまでの経緯をしゃべり始める。


 「・・なんかやばい事になっている?」

 ダスティが聞いた。

 「韓国は韓国で韓国起源説を言ってきて中国は元々あれは中国が造ったものだと反発しているのだろう」

 真島が推測する。

 「そう言う事になるね」

 磯部がうなづく。

「僕達は瀬取り監視の関係で佐世保基地や舞鶴基地に移動になります」

ノースは名乗り出る。

「俺と松田、倉田も警備があるから雅楽代と京極、天沢、杜若が派遣になる」

難しい顔をする間島。

「僕達九人とも一緒に行く事になっている」

リードがうなづく。

「俺とベラナ達も行く。フランというエイリアンに聞きたい事がいっぱいあるからな」

リッグスがわりこむ。

「私はこれを造ったんだ」

ジョセフがジュラルミンケースを出した。

「何これ?補聴器」

のぞきこむダスティと頼仁。

「潜水艦専用とイージス艦、駆逐艦と戦闘機、巡視船専用の制御装置だ。オッドアイで時空の揺らぎの感知能力が高いミュータント専用だ」

ジョセフは笑みを浮かべた。

「すごいわ。音が区別されている」

「よけいな音が入ってこない」

日紫喜とリードが目を輝かせる。

「すごいわ」

雅楽代と京極が破顔する。

「このベルトかっこいい」

蜂須賀がくるっと回る。

「君達の特性に合わせて造るのは大変だったね」

ジョセフが満足げな顔になる。

「じゃあブルネイに出発」

ダスティが声を上げる。

「それは明日だ」

ベラナが言う。

「なんで?」

ダスティが聞いた。

「ブルネイ軍や周辺国の軍と合同で活動もあるかもしれないから月島司令がブルネイにひと足先に現地へ行って調整して回る時間があるんだ」

真島が説明する。

「なるほど」

ダスティは納得した。



翌朝。相模湾沖

沖合いに停泊する空母に着艦するアコードのオスプレイ。エレベーターにより艦内に格納される。

機外に出るダスティ達。

「あれ?「かが」じゃないんだ」

ダスティは周囲を見回す。

同じ空母だけど米軍の二ミッツ級空母となんかちがう感じがする。

「米軍の空母じゃないな」

リッグスが怪しむ。

「アコードの船にようこそ」

如月長官が入ってきた。

「如月長官。この船は?」

ベラナがわりこむ。

「アコード専用の空飛ぶ空母だ。宇宙も飛べるような仕様になっている。艦名は「インジブル」だ」

如月は手招きする。

「すごいじゃん。リアルアベンジャーズじゃん」

ダスティは目を輝かせながら言う。

如月の後についていくダスティ達。

長い廊下を抜けいくつかの部屋を抜けると円形のCICに出た。前面にスクリーンがあり相模湾の海と遠くの方に湘南海岸が見える。

CICや艦内をアコード隊員が忙しく行き交う。

図面に流線型の船体に右舷、左舷の両側に全部で四つの推進装置があった。

「推進装置は何を?」

雅楽代が心配する。

「ヴェラニウムだ。ロケットやH2ロケットと同じ推進力で飛べる」

如月が答える。

「大部分はエイリアンの技術でコア部やエンジン、船体、機器類は日本製ですね」

京極が指摘する。

リッグス達が振り向く。

「わかるのかね?」

如月が感心する。

「もっとも高品質なのは日本製で重要な部分は日本の技術が入っている」

雅楽代がわりこむ。

「そういうことだね」

うなづく如月。

「このままブルネイに行くのですか?」

頼仁が聞いた。

「近くの海域で今乗ってきたオスプレイで上陸になる」

如月が地図を出した。

「なるほどね」

ベラナがうなづく。

「如月長官。出港準備できました」

艦長が報告する。

「南シナ海へ向け発進」

如月は言った。

船尾の二つのエンジンが始動して船のように動き出し、続いて四つの推進装置が起動して滑走しながら浮上した。

「すごい技術です」

絶句するジャミルと奨と周。

「すごいわ」

パインとグロリア。

うなづくアレックスとリッグス。

「これなら勝てそうだ」

エミリーと不知火は互いに見合わせた。



三時間後。ブルネイ

ブルネイ・ダルサラーム国、通称ブルネイは、東南アジアのイスラム教国で、イギリス連邦加盟国である。ボルネオ島北部に位置し、北側が南シナ海に面するほかは陸地ではマレーシアに取り囲まれている。首都はバンダルスリブガワン。元首はハサール・ルキア国王。 石油や天然ガスなどの資源を多く埋蔵しており、ASEANの一員になっている。環太平洋戦略的経済連携協定の原加盟国でもある。 言語はマレー語、ブルネイマレー語

立憲君主制だが、国王の権限が強化されており、絶対君主制の一種であるが国王とは別に首相がいる、閣僚は国王によって指名される。内閣は国王が議長となり、行政執行上の問題を処理する。このほか、宗教的問題に関する諮問機関である宗教会議、憲法改正などに関する諮問機関である枢密院、王位継承に関する諮問機関である継承会議があり、国王に助言をする。

ブルネイ軍の装備の大部分はイギリス、フランス、アメリカ合衆国製のものが占めている。陸海空の中では陸軍の兵力が最大であり、ブルネイ国家警察は陸軍の一組織である。ブルネイ軍は志願兵制を採用しており、マレー人のみが軍人に就く事ができる。

ブルネイには数百名のイギリス人兵士が駐留している。

理由は近年の中国による南シナ海における海洋進出への対応である。中国はその強大な経済力と軍事力を背景に、南シナ海における人工島の造成や軍事的活動の強化などによって、周辺国との軋轢を生じさせている。

こうした中国による活動は、イギリスにとっても無関係ではなく、南シナ海に面しているブルネイやマレーシア、シンガポールといった国々はイギリスと安全保障上の協力関係にあり、特にブルネイには少数ながら数百名規模のイギリス軍部隊が駐留している。また、南シナ海は世界中の大型タンカーや貨物船が利用する海の道「シーレーン」となっていて、ここで何か問題が発生すれば世界経済に大きな影響を及ぼしてしまう。こうした背景から、このような中国の強硬な姿勢に対して、イギリスはアメリカや日本と歩調を合わせて対抗していく考えを示している。実際に、先に述べた「アルビオン」「サザーランド」「アーガイル」、さらに空母「クイーンエリザベス」は、中国に対抗するような形での南シナ海における活動が予定されている。

もう一つはアジアにおけるイギリス製兵器の輸出拡大である。近年アジアは各国の軍備拡張が盛んで、兵器輸出のための大きな市場になっています。そこでイギリスはこうした国々への兵器輸出を視野に、アジア太平洋地域に実際に軍艦や戦闘機を派遣することで自国の軍事的存在感を示し、こうした軍備拡張を図る各国に対して自国兵器のアピールを行っている。特に島国が多いアジア太平洋地域では、大小さまざまな大きさの艦艇から、そこに搭載する装備品に至るまで幅広い海軍関連の兵器需要が期待できるため、今回の「アルビオン」のようなイギリス海軍艦艇の派遣は非常に大きな意味を持つ。


王宮のヘリポートに着陸するアコードのオスプレイ。機外に出てくる頼仁たち。

「ハサール・ルキア国王陛下。お目にかかれて光栄です」

頼仁は口を開いた。

通訳がマレー語に翻訳する。

「頼仁さま。日本語はある程度わかります。ブルネイはゲートスクワッドのメンバーを歓迎します」

 ルキア国王は日本語であいさつした。

 「首相のアブラムです。中国軍の活動がこの数日活発になっています」

 声を低めるアブラム首相。

 「会議室に案内します」

 ルキア国王は手招きした。


 王宮内部にある会議室に入るダスティ達。

 「ブルネイ王国軍総司令官のハサンです」

 「国防大臣のタタールです」

 中年のブルネイ軍将校と閣僚が名乗る。

 「イギリス駐留大使のグランです」

 中年のイギリス人男性は名乗る。

 グラン大使の隣りに月島司令がいた。

 「私達は戦いに来たわけではありません」

 雅楽代が声を低める。

 「状況は刻々と変化してきている。ジョセフ博士。辰巳博士。まずこれを見てください」

 テレビモニターをつける月島司令

 スプラトリー環礁の島から青色の光線が伸びている。穴から魔物が出現するが結界があるのかすぐ穴へ帰っていき穴もふさがり光線も消えていく。

 「これは・・・時空の揺らぎよ。彼らは時空の亀裂を造る実験をやっている」

 だしぬけに叫ぶ辰巳。

 「あの島にウオーデンクリフタワーがある」

 図面を見せるジョセフ。

 「ウオーデンクリフタワー?」

 聞き返すルキア国王とハサン総司令官。

 「もともとは二コラ・テスラが発明した大型装置です。日露戦争と第一次、第二次世界大戦の旅順要塞、ドイツ帝国、ナチスドイツにあったものです」

 ジョセフは資料を出した。

 「確か日本政府の資料では二コラ・テスラは大ホラ吹きとか書いてあった。言動もどこかネジが飛んでいて「地球を真っ二つにできる」とか「自分はエイリアンと交渉できる」とか言っていた」

 アブラム首相が思い出しながら言う。

 「その頃は誰も理解できなかったからね。彼の死後、誰かが研究を盗んだと思われます。その資料は戦後の韓国の楊一族に渡ったとみている」

 ジョセフは艦船と顔写真を何枚か見せた。

 「なるほど。この韓国軍のイージス艦と駆逐艦が遼寧や金流芯達といるのが目撃されている」

 タタール大臣が納得する。

 「この海域に大きな結界はありますか?」

 京極がたずねた。

 「ムアラ港にある灯台です。隣には海軍基地とアコード、魔術師協会支部があるので一緒に管理しています。もう一つはタイとベトナム、フィリピン、シンガポールです」

 ハサン総司令官が答える。

 「中国軍の艦船はスプラトリー環礁基地から出入りしているのですか?」

 マレー語でたずねるローズ。

 「この数日は海南島と南海艦隊司令部がある湛江、海口、三亜から三十隻の艦船と一〇隻の潜水艦の出入りを確認しています。十五隻の艦船と一〇隻の潜水艦はミュータントです。程府もいます」

 グラン大使は衛星写真を見せた。

 「遼寧や楊兄弟と金流芯一味もいるな」

 しれっと言うリッグス。

 「日紫喜、ローズ。僕と一緒に中国の潜水艦を探してみない?」

 ダスティは時空コンパスを出した。

 「それは勧められない。南シナ海は中国軍の縄張りが多くてね」

 リードが声を低める。

 「ロシア軍と米軍で基地に近づいてみてはどうですか?」

 提案する頼仁。

 「蜂の巣をつっつく作戦か」

 ウラジミールがポンと手をたたく。

 「あまり蜂の巣をつっつかれても困るがやってみる価値はありそうだ」

 うーんとうなるルキア国王。

 「俺達も周辺をパトロールする」

 それを言ったのは西山である。

 「中国と韓国は日本が嫌い。自衛隊だって嫌いだろうから挑発も兼ねて俺が日紫喜達を乗せる」

 リッグスがひらめく。

 「僕も行く」

 マッシュがわりこむ。

 「ジョセフ博士と辰巳博士、頼仁とダスティは僕が乗せる」

 アレックスがうなづく。

 「私達も周辺を偵察に行くわ」

 ニコールがわりこむ。

 「私達はブルネイ警察と一緒にテロリストが入国していないか捜査する」

 ヒラーがわりこむ。

 「私達はパトロールだ」

 ベラナがうなづく。

 「じゃあそれで出発!!」

 ダスティが声を弾ませた。



 スプラトリー環礁

 南沙諸島、スプラトリー諸島は、南シナ海南部に位置する諸島である。岩礁・砂州を含む無数の海洋地形からなり、これらの多くは環礁の一部を形成している。中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイの六か国・地域が全域または一部について領有を主張している。


 南沙諸島に接近する空母「フラッグ」とロシア艦「アドミラル・チャバネンコ」「マーシャル・スチフノフ」と潜水艦「ヴェブル」

「ゲバート」

 中国が主張する領域内に入ってしばらくすると空母「遼寧」「昆明」だけでなく一〇隻の駆逐艦やイージス艦が接近してくる。艦橋の窓に二つの光が灯っている。

 「行動が早いじゃないか」

 空母「フラッグ」に変身しているリッグスは船体から四対の鎖を出した。どれも大木のように太い。

 「なんでロシアの駆逐艦と潜水艦がいる。潜水艦が姿を現したら負けだよな」

 昆明が声を低める。

 「中国とロシアはうまくいっているし、それにいろいろ武器を買ってくれるからね」

 カリナがしゃらっという。

 「それになんで米軍の空母に潜水艦と駆逐艦のミュータントとインド軍の空母のミュータントが乗っている」

 遼寧が錨で指さした。

 「南シナ海クルーズ」

 しゃらっと言うウラジミール。

 「駆逐艦が?」

 昆明がわりこむ。

 「いくら友好国でもここはいれるなと言われている」

 詰め寄る遼寧。

 「よくこの客船を入れてここを周遊しているじゃないか」

 オニールがわりこむ。

 ホログラムに「スーパースターヴァーゴ」の映像が出る。

 「その客船はミュータントで乗客を乗せてクルーズしているんだろ」

 ザカリンが核心にせまる。

 「じゃあなんで対艦ミサイルが照準を俺達に合わせている?」

 ドスの利いた声のリッグス。

 「韓国に丸め込まれた?」

 挑発するカリナ。

 「このことを中国政府に報告してやる」

 昆明がわりこむ。

 「じゃあロシア政府に報告しようか」

 ロシア語で語気を強めるウラジミール。

 「それ以上接近すれば攻撃する」

 懇願するようにロシア語で言う遼寧。

 「じゃあ他の場所へ行こうか。この周辺を周遊するだけだ」

 リッグスは言った。

 

 

 

 

 その頃、パラセル諸島。

西沙諸島、パラセル諸島はベトナムの東約二四〇キロメートル、中華人民共和国の海南島の南東約三〇〇キロメートルに位置し、五〇近いサンゴ礁の島と岩礁で構成されている。全ての島嶼を中華人民共和国が実効支配しているが、ベトナムと台湾も領有権を主張している。

 アンフィトリテ群島の小島の影に隠れる巡視船「やしま」「つるぎ」「かりば」「バーソルフ」とロシアと台湾の巡視船の七隻。船橋の窓に二つの光が灯る。

 「中国が実効支配しているから海警船の数がすごいな」

 小島の影からのぞくアレックス。

 「一万トンクラスが一〇隻以上で金流芯達もいてなんで韓国海洋警察の警備艦が二隻いて楊兄弟までいる」

 西山が怪しむ。

 「もう少し近づいてみるか?」

 本宮が周囲を見回しながら言う。

 「それ以上行くと金流芯達に捕まるよ」

 不意に鋭い声が聞こえて船首を向けるアレックス達。

 五隻の沿岸警備隊の巡視船が接近してくる。五隻とも船橋の窓に二つの光が灯っていた。

 「ここだと見つかるから最寄の港に案内するから来て」

 ベトナムの巡視船が鎖を出して手招きする。

 十二隻は海域を離れた。


 ベトナムのハイフォン港

 アコードの事務所に入る頼仁達。

 「僕はベトナム水上警察のグエン・ディラルです」

 ベトナム人男性隊員が名乗る。

 「フィリピン沿岸警備隊のリールー・ミョルルです」

 フィリピン人隊員が名乗る。

 「タイ水上警察のワイズとシンガポール沿岸警備隊のライリー、僕がインド沿岸警備隊のサーマルです」

 頭にターバンを巻いたインド人隊員はタイ人男性とシンガポール人女性隊員を紹介した。

 「頼仁さま。ジョセフ博士。南シナ海での調査は危険です。捕まれば中国か韓国に連れ去られます」

 サーマルは重い口を開いた。

 「何が起きているのか知りたいから調査している」

 ダスティが真顔で言う。

 「インド軍のマーシュとジャミルが日本に来たけど今度は沿岸警備隊なんだ」

 本宮が聞いた。

 「インド洋で中国漁船軍団だけでなく、中国海警船、中国軍が活発に動き回っている。このままだとインド洋まで奴らの庭にされる。だから日米と海洋安保を結んで演習していた。この数日、南海艦隊が南シナ海にある基地に来ている。それだけでなく一万トンクラスの海警船が一〇隻いて遼寧以外の空母までいる」

 サーマルは何枚かの写真を見せた。

 遼寧以外に中国軍の空母やイージス艦、一万トンを越える海警船、駆逐艦の艦橋や船橋の窓にどれも二つの光が灯っていた。

 「もしかして国産空母が完成している?」

 アレックスがわりこむ。

 「建造ペースが速くて一号艦は完成して試運転中に誰かと融合している」

 サーマルが融合の光に包まれる空母の写真を出した。

 「南シナ海では漁船のミュータントだけでなく旧式の潜水艦と融合するミュータントが何人も行方不明になっています」

 ライリーがわりこむ。

 「スプラトリー環礁やパラセル諸島を中心に行方不明事件が起きている。そして時空に穴を開ける実験をどちらもやっている」

 ワイズは写真を出した。

 「結界を壊す実験を韓国とやっているらしいです。このままだと魔物の群れがやってきます」

 グエンが危惧する。

 「私達はそれを止めに来た」

 エミリーがわりこむ。

 「主導しているのは韓国の楊兄弟です。遼寧や金流芯達と数年前から仲良くいます」

 サーマルは声を低める。

 「中国と韓国はG20やASEAN会議に出席するけど韓国は日本の批判ばかりだし、中国は南シナ海の話題には入ってこなくてむしろ正当化している」

 ライリーが難しい顔をする。

 「みんな異変を感じて集まったのですね。ちっともわからなかった」

 頼仁はすまなそうに言う。

 「それはあなたのせいではありません。むしろ我々は日本政府に感謝している」

 「え?」

 「八年前に東日本大震災が起きて南極点に時空の揺らぎが出現したのを通告してきたのは昭和基地です。そして日本海をはさんで時空異変や時空の穴の中心は中国や韓国であることを突き止めて「アジア沿岸同盟」を結成。日米首脳会談でゲートスクワッドの要請を正式に発表した。だから私達は集まった」

 ライリーは重い口を開いた。

 「沿岸警備隊のチームを作ればいいんじゃない?異変を近くで見ているならブルネイに来て」

 ダスティがひらめいた。

 「じゃあブルネイに行こう」

 サーマルがうなづいた。

 ハイフォン港から出る十二隻の巡視船。

 南下してしばらくすると海警船が接近してきた。

 「出たバカ三人組」

 しれっと中国語で言うパイン。

 「僕はバカじゃない。ここは中国の領海だ」

 金流芯は中国語で声を低める。

 「ここはベトナムの領海だ!!」

 ベトナムの巡視船に変身しているグエンはベトナム語で声を荒げる。

 「もうすぐ中国の物になるんだよ。いずれ日本も台湾もロシアも東南アジアも併合されるんだ。しゃべる言語はみんな中国語で地名も中国名になる」

 ビシッと錨で指さす金流芯。

 「そんなことされてたまるか!!」

 ヒンディ語で声を荒げるサーマル。

 「ふざけるなよ。併合なんかされないぞ」

 身構える本宮。

 「まだ日本と中国は戦争になっていないしどことも戦争になっていない」

 クスクス笑う金流芯。

 歯切りする西山達。

 「おやおや。巡視船が増えたんだ」

 接近してくる「セジョンデワン」「デジョヨン」の二隻。

 「やあ本宮、ダスティとプリンス頼仁。同じオッドアイで特殊能力があるんだ。どこか俺達は似ている」

 自慢げに言う楊許比。

 「ぜんぜん似てないし、僕と君はちがう。僕は農薬散布機で君はイージス艦。でも韓国の艦船はどれも欠陥だらけでハリボテだね」

 はっきり言うダスティ。

 ダスティと頼仁がアレックスが変身する「

バーソルフ」の船橋ウイングから出てくる。

 「君はその力を悪用しているね」

 頼仁が声を低める。

 「辰巳という木造漁船とジョセフという人間の科学者がいるよな。エミリーと不知火という護衛がいる」

 弟の許実が指摘する。

 「どっかで聞いた事のある声だと思った。あんの父親も祖父もロクでもなかった」

 辰巳はパインが変身する巡視船の船橋ウイングから出てくる。

 「思い出したのか?」

 ジョセフが聞いた。

 「僕は過去の記憶がないの。思い出したくても出てこない。時々フッと思い出す。あんたの父親は私達のチームメンバーだったけどすごいウソつきで役に立たない魔人だったの」

 辰巳はしゃあしゃあと言う。

 「役に立たない漁船め」

 ドスの利いた声で言う楊許比。

 「あんたの父親よね。私をゴミ捨て場に捨てて仲間を殺したのは」

 ズバッと言う辰巳。

 「俺達は知らない」

 弟の許実が反論する。

 「あんたの一族は璃一家、立花と一緒に時空の亀裂を入れたり、魔物を入れたりする実験を繰り返していた」

 ビシッと指をさす辰巳。

 「おまえ、時空侵略者を入れたな!!」

 西山は声を荒げる。

 「俺は入れてない!!」

 あとづさる楊許比。

 「いれただろうが!!韓国政府は奴らを入れて中国政府も巻き込んだ!!」

 本宮が声を荒げる。

 「あんた達も考えた方がいいんじゃない」

 奨がわりこむ。

 「いや・・・その・・僕達は・・」

 しどろもどろになる金流芯達。

 「こいつを死刑にしてしまえ!!」

 サーマルはヒンディ語でビシッと錨で指をさした。

 「公務執行妨害で逮捕してやる!!」

 中国語で声を荒げる孫兄妹。

 「そのセリフは俺達だ!!」

 本宮が言い返す。

 「黙れ!!」

 楊許比は二つの錨を連続で突き入れた。

 本宮が動いた。その動きは楊兄弟や金流芯達にも見えなかった。

 気がついたら楊許比が変身する「セジョンデワン」の船体に複数の傷跡と船体中央に大きな×印の傷口が口を開けていた。

 くぐくもった声を上げる楊許比。

 ミサイルを発射する弟の許実。

 ロシア語で呪文を唱えるパイン。力ある言葉に応えて彼らの周囲に透明な膜のような物が出現した。ミサイルはそのシールドによって彼らの手前で爆発した。

 「よくもやったな!!」

 韓国語でののしる楊許比。

 「攻撃してきたのはそっちだろ!!」

 西山が声を荒げる。

 「やめろ。僕達はまだ戦争になっていない」

 制止する金流芯。

 「そうだったな」

 正気に戻る楊許比。

 「なあダスティ。同じミュータントだし、オッドアイだから仲良くやらないか」

 話題を変える楊許比。

 「やだ。だって嘘つきじゃん」

 しゃらっと言うダスティ。

 「頼むから怒らせるのはやめないか」

 金流芯が制止する。

 「しょっちゅう火病起こすからあんた達も大変ね」

 ライリーがわざと言う。

 「まったくだ」

 孫何進と孫河西が声をそろえる。

 「ここはベトナムの領海だ。基地に帰れば」

 グエンがたたみかけるように言う。

 「戻ろう。政府に報告だ」

 金流芯は促した。


 ブルネイにある王宮

 会議室に集まるルキア国王と閣僚達

 向かいのテーブルにゲートスクワッドメンバーが顔をそろえる。

 「・・分かった事があるというのは本当か」

 ルキア国王が口を開いた。

 「俺達はベトナムのパラセル諸島でサーマル、リールー、ワイズ、ライリー隊員と合流。この海域周辺で旧式の潜水艦や漁船のミュータントが行方不明になっているのを知りました」

 西山は口を開いた。

 「俺達もスプラトリー諸島に寄り道した後、フィリピン軍の艦船のミュータントから聞いたのは一万トンクラスの海警船や国産空母「波王」が就航中に誰かと融合した事を聞いた。どれも変な模様が船体にあるらしい。潜水艦も中国軍と退役したロシア製の潜水艦の船体に変な模様があるという話を聞いた」

 リッグスが説明する。

 「模様?」

 聞き返すルキア国王達。

 「からくさ模様から象形文字のような模様と千差万別らしい」

 スタイナーが答える。

 「あのソランというエイリアンはどこだ?」

 リッグスがしれっと言う。

 「さっきから探しているけどいないけど」

 ニコールとナタリーが首を振る。

 「取り込み中悪いがいいかな?」

 タブレット端末を持って部屋に入ってくるライ。

 「何かね?」

 ルキア国王が聞いた。

 「なぞのカウントダウンが始まっている」

 端末の画面を見せるライ。

 「時間が60?」

 首をねるローズ。

 頭を押さえ、耳をふさぎ顔を歪める本宮、蜂須賀、日紫喜、リード、頼仁。

 胸を押さえるダスティ。

 身構えるオニール、ウラジミール、ザカリン、カリナ、マッシュ。

 「どうした?」

 リッグスが聞いた。

 「誰かが結界を壊して魔物を入れようとしている。隠れていた奴らがやってくる!!」

 訴えるように言うダスティ。

 「こちらFBIと警視庁のヒラーと近松」

 タブレット端末から聞こえる二人の声。

 「こちらライ・コーハン」

 返事をするライ。

 「南シナ海の方角。中国軍のある基地から光が伸びている」

 ハリスがわりこむ。

 「時空の歪みが発生している」

 磯部が口をはさむ。

 王宮の外に出るルイス国王達。

 スプラトリー環礁のある方角が暗雲が垂れ込め極太の光線が空に向かって伸びているのが見えた。

 「しまった。やられた」

 舌打ちするベラナとエミリー。

 「ルキア陛下!!大変です。南海艦隊と一緒に魔物の群れがやってきます」

 ブルネイ人将校が部屋に飛び込んだ

 「戦闘配置につけ!!」

 ハサン総司令官はその将校に指示を出した。

 街中にサイレンが鳴り響く。

 「我々は住民達を避難誘導する」

 タブレット端末から聞こえる近松の声と電話が切れる音。

 「あいつらが狙っているのは僕とダスティだ。南太平洋側に僕を運んで」

 腹を決める頼仁。

 「僕は彼と一緒に太平洋に飛ぶぞ」

 ダスティが意気込む。

 「バカな。捕まれば連れ去られる」

 ルキア国王がわりこむ。

 「ここにいれば住民達まで巻き込みます」

 頼仁が真剣な顔になる。

 「俺が運ぶ。韋駄天走りで行けば五分で太平洋に出れる」

 名乗り出る本宮。

 「付き合うわ」

 平野がわりこむ。

 「俺達は迎撃だ」

 西山はそう言うと桟橋から飛び込み、巡視船に変身する。

 続いて別の桟橋や岸壁から飛び込み、艦船や巡視船に変身するアレックス達。彼らは港を離岸していく。

 「幸運を祈る」

 ルキア国王と頼仁は握手をする。

 港外に飛び出すリッグス達。

 「全方位からミサイル!!」

 京極と雅楽代が叫ぶ。データリンクで周囲の地形やミサイルの種類、接近してくる敵艦の位置が送信される。

 それぞれの機関砲が上空に向けて連射される。接近してきたミサイルは全部撃墜された。

 「ショータイムの時間だ!!」

 遼寧は笑いながら接近する。

 「この海域はいただきだ!!」

 昆明は声を荒げる。

 「俺達の物になるんだ!!今から盛大なパーティの始まりだ」

 韓国語で叫ぶ楊許比。

 「後悔するなよハリボテ」

 リッグスは船体から八対の鎖を出す。

 「あの九隻の潜水艦はどこだ!!」

 弟の楊許実がわりこむ。

 「なんでおまえに教える?」

 ロシア語で聞くウラジミール。

 ウラジミールとオニールは船体から八対の鎖を出した。

 「巡視船がいないじゃないか」

 楊許比は韓国語で悪態をつく。

 「あんたのソナーとレーダーじゃあ追跡できないみたいね」

 わざという雅楽代。

 京極と雅楽代は四対の鎖を出して先端を鉤爪に変え、その周囲に黄金色の魔法陣が現れる。

 「セジョンデワン」「デジョヨン」から対艦ミサイルがいっせいに発射される。

 京極と雅楽代の手前に出現したシールドによってミサイルは全部爆発した。

 前に出る空母「ヴィラート」ことマッシュ。

 マッシュは噛みついてきたマンタを突き刺す。突き刺したそれはマンタではなく全長二〇メートルを超える黒色のエイの形をしていた。背中にはドクロの模様があり、目は赤い。

 「仲間を連れてきたんだろ?」

 リッグスは機関砲でコウモリもどきを撃墜しながら聞いた。

 「紹介するよ。波王と蘭州だよ」

 遼寧は近づいてきた空母とイージス艦を紹介した。

 「うまそうなコア」

 波王と蘭州は声をそろえた。せつな、波王の船体に象形文字のような光る模様が浮き出て蘭州の船体に光るからくさ模様が浮き出た。光る模様は中国軍のイージス艦と一万トンクラスの駆逐艦の船体にからくさ模様の光る模様がある。その数は三十隻である。

 波王や蘭州だけでなく光る模様がある駆逐艦の艦内から二つの砲台が飛び出し、赤色の光線が発射された。

 雅楽代、京極、オニール、マッシュは呪文を唱えた。力ある言葉によっていくつも立体的な魔法陣が飛び出し、何十条もの赤色の光線は魔法陣によって爆発した。

 ウラジミールは八対の鎖の先端から部品を出現してそれが組み合わさってノコギリに変形して突進してきた光る模様のついた駆逐艦の船体を何回もえぐり切り裂き、コアをえぐった。

 爆発する駆逐艦。

 上空から舞い降りてくる大蛇。赤色でトンボのような羽が九対生えている。全長は一〇〇メートル。頭部にねじれた角が生えている。一匹だけではなく三〇匹以上いた。

 オニールは八対の鎖の先端から群青色の球体を出した。せつな何匹かの空を飛ぶ大蛇が引き寄せられ、雅楽代と京極は大蛇の胸をえぐった。

 遼寧の体当たり。

 リッグスが変身する空母「フラッグ」が大きく揺れた。

 「淵呈流気功蝶の舞」

 遼寧は八対の鎖を出すと妙な舞うような鎖の動きをさせてエンジン全開で動いた。

 リッグスもエンジン全開で動いて遼寧の八対の鎖を弾いた。猛スピードで動き回り並しぶきを上げながら錨で遼寧を殴った。岩礁に激突する遼寧。

 くぐくもった声を上げる遼寧。

 昆明は奇声を上げながら突きを繰り出す。

 天沢と杜若はかわした。

 昆明はミサイルを発射。

 天沢と杜若は機関砲を連射。ミサイルを全部撃ち落した。

 天沢と杜若は粘土をこねるようなしぐさをすると衝撃波と音波の塊は昆明に命中した。

 「ぐあっ!!」

 耳をふさぐしぐさをする昆明。

 飛びかかる大ムカデ。

 衝撃波と音波の塊で弾き飛ばす天沢と杜若。

 雅楽代はミサイルを発射。大ムカデや大蛇に命中するとカチコチに凍った。

 波王が右舷と左舷の甲板に出した砲台から再び極太の光線をなぎ払うように発射。

 リッグスとマッシュはジグザグに猛スピードでかわした。

 リッグスは錨で波王の船体をえぐった。船体のえぐれた穴からメタリックに輝く卵とおもちゃめいた艦船が何百個も出てきた。

 「こいついったいなんだ」

 絶句するリッグス達。

 波王を突き飛ばすリッグス。

 四対の鎖から赤色の魔法陣を出して呪文を唱える京極。力ある言葉に応えて波王から飛び出したおもちゃめいた船達が燃えた。



 「どこにいくんだよ」

 金流芯は声をかけた。

 「そのガキをよこせよ」

 孫兄妹がわりこむ。

 立ち止まるアレックス達。

 「おまえらにやるわけないだろ」

 アレックスが声を低める。

 「待ちに待ったショータイムだよ。君らに紹介するよ」

 金流芯は汽笛を鳴らした。

 接近してくる一万トンクラスの大型海警船五隻。船首に「2901」「2902」「2903」「2904」「2905」という番号が入っている。五隻の船体に黄金色に光るからくさ模様が現れた。

 「やっとうまそうな獲物が喰える」

 2901は四対の鎖を出した。

 五隻は右舷、左舷から砲台を出した。そしてなぎ払うように赤色の光線を放出。

 アレックス達は間隙を縫うようにジグザグに航行しながらかわした。

 本宮が動いた。その動きは五隻の大型海警船や金流芯達、アレックス達にも見えなかった。気がついたら一万トンクラス五隻の海警船の船体は傷だらけで×印のえぐれた傷口がいくつも開いていた。

 とっさに西山とアレックスは2901の部品を引きちぎりコアをえぐった。

 「俺をやっても次が来るよ」

 2901はそう言うと爆発した。

 リールーは船体から二対の鎖を出した。先端の鉤爪から小さな竜巻を出すとそれをいくつも投げた。竜巻は合体して巨大な竜巻となりそこにいた光る模様のある四隻の海警船が吸い込まれた。

 


 その頃。海底

 九隻の潜水艦はブルネイ沿岸からスル海を抜けセレベス海に入った。


 セレベス海は、東南アジアにある西太平洋の一海域。フィリピン南部ミンダナオ島、インドネシアのカリマンタン島、スラウェシ島などに囲まれており、スラウェシ海とも呼ばれる。最大水深六二〇〇メートルに達する。南北に六七五キロ、東西に八三七キロ、総表面積は二八万平方キロである。セレベス海は四二〇〇万年前に形成された古い海洋盆地で、

二〇〇〇万年前に現在の位置に移動した。

北はスールー諸島を挟んでスールー海と、南はカリマンタン島とスラウェシ島の間のマカッサル海峡でジャワ海と、東は太平洋やモルッカ海に繋がっている。 サンゴ、クジラ、イルカを始め多様な海洋生物に富み、スキューバダイビングで人気がある。

古くから沿岸住民が漁業を営み、移住者や交易船が行き来した。太平洋戦争では戦場になった。現代ではソマリア沖と並び海賊が出没しているほか、イスラム過激派の往来も疑われている。


「対潜ヘリと哨戒機をやっと撒いた」

ソナーやレーダーで周囲を見回すローズ。

「そうだといいのですが」

ジャミルがわりこむ。

「南海艦隊の潜水艦がここへやってくる。程府がいる艦隊よ」

日紫喜は艦首を向けた。

「スル海にいたフィリピン軍とマレーシア軍駆逐艦の攻撃をすりぬけてやってきた」

島津が指摘する。

「ここは起伏が激しいから隠れがいがある」

海底地図のホログラムを出すスタイナー。

九隻は散開した。

 接近してくる一〇隻の潜水艦。

 漢級潜水艦が海底の谷底に接近した。せつな、崖からいくつも鎖が伸びてつかんで崖の中に吸い込まれた。そして爆発音が響く。

 崖から飛び出す日紫喜。彼女は再び崖の中へ吸い込まれた。

 商級と漢級の潜水艦は崖の中腹を通過する。突然商級の船体に鋭い槍が突き刺さり毒が注入され目を剥いて動けなくなる。

 漢級にも槍が突き刺さり急速にエネルギーを奪われ目を剥く。

 崖の色と同化していた島津は同化を解き、リードは光学迷彩を解除した。

 程府が近づいた。船体から六対の鎖を出し先端を鉤爪に変えた。彼は振り向きざまに鉤爪で引っかいた。

 思わずのけぞるスタイナー。

 体当たりする瀬古。

 ザカリンとカリナが放った魚雷が程府に命中した。

 ジャミルは鎖の先端を槍に変えて何度も突き刺して離れた。

 程府はよろけるスタイナーの船体の傷口から部品を引き抜いた。

 ローズの放った魚雷が程府に命中。

 「俺達の活動を邪魔するなよ」

 程府は声を低めた。

 「南海艦隊の動きはわかっている」

 ローズはビシッと鎖で指をさした。

 「でも全部じゃない」

 合図を出す程府。

 海丘の影から出てくる大型潜水艦。

 「行方不明のタイフーン級「ドミトリー・ドンスコイ」だ」

 ザカリンとカリナが声をそろえた。

 ドミトリードンスコイの船体に幾何学模様の光る模様が浮き出た。

 程府が連れてきた潜水艦の船体にもからくさ模様の光る模様があった。

 「アスチュートとうんりゅうだっけ?その力があるなら代弁者にならないか」

 ドミトリードンスコイが聞いた。

 「そんなものはお断りよ」

 「代弁者になんかなってたまるか」

 声を荒げる日紫喜とリード。

 ドミトリードンスコイと商級、漢級の潜水艦の艦首が観音開きに開いて砲台がいくつも飛び出し、赤い光線が発射。

 日紫喜達はエンジン全開でジグザグに航行して光線をかわす。

 程府は四対の鎖を出し先端を鉤爪に変えて動いた。ジャミルは何回もテレポートしてその突きをかわし、四対の鉤爪でえぐった。

 島津が発射した魚雷が命中した。

 よろける程府。

 光る模様がある漢級から二対の砲台が飛び出す。

 瀬古は緑色の蛍光に包まれ全長一メートルの模型サイズに縮小してとっさに砲台基部に飛び込み二対の鎖の先端を丸ノコギリに変形させて漢級の艦内機器を泳ぎ回りながらえぐり、艦内から飛び出して元の大きさに戻った。

 閃光とともに漢級潜水艦は爆発した。

 赤い光線を放射する商級潜水艦。

 カリナとザカリンはかわした。カリナは二対の鎖を鉤爪に変えた。

 カリナはその鉤爪で商級潜水艦の船体に突き刺す。せつな、一瞬にして凍りついた。

 すかさずザカリンが赤熱した鉤爪で突き刺す。閃光とともに商級は爆発した。

 襲ってきたサメや海ヘビの群れ。どれも体長は五十メートルで両目は赤色である。

 ローズとスタイナーは二対の鎖の周囲に円形の赤色の魔法陣が飛び出る。詠唱していた呪文を唱える。力ある言葉に答えて銀色に輝く矢が次々サメと海ヘビの群れに刺さり沈んでいく。

 光る模様がある元級潜水艦から赤色の光線が放射される。

 ローズとスタイナーはジグザグに航行して交わして呪文を唱えた。光る銀色の矢が何本も突き刺さり元級は閃光とともに爆発した。

 毒針で突き刺す島津。商級は目を剥いて沈んでいく。

 日紫喜は元級の船体に鎖を巻きつけ峡谷の壁の中に吸い込んだ。日紫喜と一緒に岩塊を通り抜けて元級は爆発。日紫喜の鉤爪にコアが握られていた。

 リードはコアと記憶装置、電子脳を沈んだキロ級から引っこ抜く。爆発するキロ級。

 中国語でくやしがる程府。

 舌打ちするドミトリードンスコイ。

 二隻は背後に出現した青色の渦巻きの中に吸い込まれた。

 


 ムアラ港の灯台に近づく男。

 ひげを生やしラフな格好といい外国人観光客にしか見えない。男は杖を出した。杖が長剣に変わり、袈裟懸けになぎ払った。

 虚空にガラスが割れる音が響きガラスのようにヒビが入るがそれ以上にヒビが入らない。

 「それは私が造った結界だから壊れてもすぐ修正できる」

 資材の影から出てくる四人。

 エミリー、ニコール、ナタリー、スコットである。

 「ベルウッド。誰もいないと思った?」

 エミリーは長剣を抜いた。

 ベルウッドは袈裟懸けに斬る。ガラスが割れるような音がしてヒビはそれ以上に入らない。

 「そのシールドも結界も私が造った」

 しゃらっと言うニコール。

 ベルウッドは笑みを浮かべる。

 スコットは振り向きざまに長剣でなぎ払う。

 真っ二つになったかまきりが落ちていた。全長は二メートル。昆虫系の魔物としては小柄な方である。

 ジェット機の飛翔音が響き、機首を並べて戦闘機が通過する。

 ベルウッドは黒色の魔法陣を両腕から出して袈裟懸けに斬った。彼を包んでいた結界が割れた。

 ニコールやエミリー、スコット、ナタリーの長剣や槍をなぎ払い、受け流し、弾いてベルウッドは灯台に早足で近づいた。

 ベルウッドはなぎ払った。しかし鋭い音がしてその剣は弾かれた。

 ソランが長剣を構えそこに立っている。

 ベルウッドは舌打ちするとどこかにテレポートしていった。

 

 

 防潮堤に舷側から激突する「セジョンデワン」「デジョヨン」と部品が飛び散る遼寧と昆明。

 近づく「あしがら」「まや」空母「フラッグ」「ヴィラート」

 「さっきの勢いはどうしたの?」

 京極は挑発した。

 「韓国のイージス艦で本当にハリボテよね。イージスシステムが構築できなくて、ソナーやレーダーもお粗末ね」

 雅楽代は指摘する。

 「黙れよ!!うまくいくハズだったのをおまえらが邪魔したんだ」

 韓国語でののしる楊許比。

 「計画が壊れた」

 遼寧が中国語でわりこむ。

 「計画なんてあったのか?波王と蘭州は逃げたぞ」

 バカにするリッグス。

 「これはなんかの間違いなんだ」

 遼寧があとずさる。

 「どこに行く?」

 二隻のロシア艦が接近する。ウラジミールとオニールである。

 「おまえが連れてきた魔物と光る模様のついた連中は残らず倒した」

 艦橋の窓の二つの光が吊り上がるオニール。

 「しまった。入口が閉じていく」

 くやしがる楊兄弟。

 「基地へ帰れば」

 雅楽代がわざと言う。

 「これで終わったと思うなよ」

 悪態をつく遼寧と昆明。

 「ツケとリスクを払ってもらう」

 楊許比がわりこむ。

 「ツケとリスクってなんの?」

 ドスの利いた声で聞くリッグス。

 「覚えてろ!」

 遼寧達は捨てセリフを吐いて逃げていった。

 




 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る