異文化! 人面石の街! ②

 その頃屋台で食事を終えた六郎とフィオナは宿に来ていた。


「二人部屋を頼みたい」


 六郎は主人に言った。


「二人部屋ですね。五ゴールドになります」


「はい、じゃあこれ」


 フィオナが財布から金を取り出す。


「そうだ、この街にスキンヘッドの大男が来てるかもしれないんだが、そういう話は聞いてないか?」


 六郎は言った。


「大男ですか?私は見てませんね。でも旅人なら建設現場のナタイさんが知ってるかも知れ名イッです。ほとんどの旅人の人達は路銀と寝床をもらう代わりにあそこで働いているんです」

「ありがとう、後でいってみるよ」


 鍵を受け取り六郎とフィオナは部屋に入った。


「いや~、やっとの行くともおさらばね!」


 荷物を置いたフィオナはベッドに顔から飛び込む。


「ぎゃーーっ!」


 ベッドにとんだフィオナが悲痛な叫びを上げた。


「どうしたフィオナ!?」


 フィオナに駆け寄り体を起こすと、鼻から出血している。


「このベッド硬い……」


「まさか……?」


六郎がベッドのシーツをめくると、そこにあったのは黒い巨大な石の顔であった。


「ベッドまでモアイなのか……」


「硬いーーっ! いやーーっ!」


 フィオナはモアイの上を転がる。


「とりあえずシーツの下に寝袋を仕込んだら多少マシになるだろ」


 そう言って六郎は準備する。


 フィオナが部屋を見渡すと一見普通の部屋だがサブリミナル的にモアイがちりばめられていた。


「うわ、よく見たらドアノブもモアイだ」


 小型のモアイでも顔の堀りの深さがよくわかる。職人の細かい気遣いが見受けられる一品だ。だが奇妙な違和感を感じる。


「なんか変な臭いしない? それにそこの壁だけ色が違ってない?」


 フィオナが言った。


「確かに違うな、まるで何かが隠されているような……」


 六郎は色違いの壁に近づき軽く小突いた。


「うおっ!?」


 六郎が小突いた瞬間壁は音を立てて崩れる。その中にはモアイではない。無数の小さな像が置いてあった。


「なにこれ?モアイじゃなさそうだけど」


 フィオナが小さな像を一つ手に取る。


「これは、ハニワだな」


「ハニワ?」


「モアイと同じで俺達の世界からもたらされたものだろう。しかしなぜこんな隠すように……」


 その瞬間扉の前で数人の足音がする。


「む、どうやらお友達が説明してくれるみたいだな」


 六郎が言ったのと同時に扉が蹴破られる。


「お二人さん、見てはいけないものを見ちまったなぁ」


 いきなり押し入ってきたのは宿の主人、そして何人かの武器を持った男達だ。


「随分と物騒な格好だが、今日は仮装パーティーでもあるのか?」


 六郎は言った。


「そうだな、秘密を暴いた輩を血祭りに上げるつもりだよ、こんな風になぁ!」


 そう言うと宿屋の主人は小形の銃を取り出した。


「短筒か!?」


「死ねや!」


 六郎に向けて銃弾が放たれる。


「危ない六郎!」


 六郎危うし!その銃弾は彼の胸に一直線に飛んでいく!


「お前まさか、短筒くらいで俺を倒せるつもりなのか?」


「なに!?」


 六郎の言葉にその場はどよめいた。


 六郎は胸に飛んでくる弾丸をハニワの腕部の曲線に当てる。勢いを受け流された銃弾は半円を描くように動き、放たれた元の短筒の中へ戻っていった。


「な、なぜ生きている!?」


 なにが怒ったのかわからない主人は酷く狼狽した。


「銃を捨てろ」


 六郎は言った。


「黙れ!もう一発、今度こそ……」


 主人が引き金を引くと銃が爆発! 砕けた鉄の破片が襲った。


「ぐあっ!」


 主人は体の前面に焼けどと破片による裂傷負い床に倒れた。帰ってきた弾丸により内部がイカれていたのだ。


「だから捨てろと言っただろう」


「ひいぃ!」


 他の男たちがうろたえ逃げ出そうとする。


「こらこらこら~!」


 フィオナが弓矢を男達の退路に打ち込む。


「お許しを~!」


 逃げるタイミングを失った男達はひざまづいて許しを乞うた。


「お前らは何者だ?このハニワに関係しているんだろう?」


「だめだ!それだけは言えねえ!」


 男達は口をつぐんだ。


「じゃあ死ね」


 六郎はケペシュを取り出す。


「わかった!言うからやめてくれ!!」男達は心底怯えた声で口を開いた。 「俺達はこの街のレジスタンス『ハニワ解放戦線』だ」


「なんだそのハニワなんとやらは?」


「そんなの知ってどうするつもりだ?」


「質問を変えよう、俺達を始末しに来たってことは、なにかばれちゃまずいことがあるってことだな?」


 六郎は言った。


「そ、それは……」


 口をつぐむ男達を尻目に六郎はハニワの一つを叩き割った。中から出てきたのは黒色をした粉であった。


「それって、もしかして火薬……?」


 フィオナが言った。


「さっきお前が感じた変な臭いの正体だ。これはハニワ爆弾だよ、大方これを使ってなにかするつもりだったんだろう?」


 六郎は言った。


「うっ……」


 男達は再び口をつぐんだ。


「沈黙ってことは間違いないな。これだけ大量の爆弾だ、使うとすれば人が多く集まるとき、つまり今日の祭りだ。」


「でもなんのために?」


 フィオナが言った。


「答えはそこにある」


六郎は崩れた壁の中を指差す。無数のハニワ達の奥にモアイの絵がかけられており、ナイフが突き立てられていた。


「詳しくは分からんが、こいつらは酷くモアイを憎んでいるらしいな。だからモアイ産業のこの街で反乱を起こして乗っ取ろうって魂胆だな?」


「へっ、いまさら気づいたって遅いぜ。今頃俺達の仲間がモアイ合戦に潜入している。人が集まった頃を見計らって先制爆撃の予定だ。はははは、ハニワに栄光あれ」


 男達はあざけるように笑った。


「くそ、このままじゃまずいな。急ぐぞフィオナ!」


「うん!」


 二人は会場を目指し走った。




『さぁ、そろそろ制限時間が迫ってきました!各々モアイが出来てきたようです!』


「わーーっ!!」


 清海は亡きタンガロアのモアイをひたすらこねていた。


「もう少しだ、もう少しで完成なんだが……」


『さぁ、残り一分です!』


「だめだ、このままでは間に合わないな」そう言うと清海は作成中のモアイを頭上に放り投げた。 「裂遁・四次元殺法の術」


清海は空中でモアイを切り刻む。おとなしく粘土をこねるよりも忍びとして鍛えた技を使用するほうが非情に効率的なのだ。


 残像を残しつつ清海はモアイを切り刻んでいく。


『おお~っと! 凄い、凄いぞ助っ人選手! まるでカマイタチのような技を見せてくれます!!』


 清海とモアイが地面に着地した瞬間、終了を告げる鐘が鳴った。


『終了です! 大接戦でした! それでは採点に参りましょう!』


 司会の男と審査員がモアイを見ていく。


『ハメカメ選手のモアイはさすがですね! モアイは一見シンプルなタイプですが、なんと地面に埋まってしまう箇所に洋服を着せています! 一歩間違えばバランスが狂ってしまうかもしれないというのに、まさに本物のプロにしかできない技です!』


『続いて助っ人の選手、空中でモアイを切り刻むという超技術を見せてくれましたが、凄いのは技だけではありません! タンガロア爺さんが作りかけた命に息吹を見事吹き込みました! これで彼も浮かばれることでしょう!』


『続いてゴリアテMk-108のモアイ! 大木をそのまま削る大胆な作品ですが……? な、なんとこれは!! モアイが泣いています!! どうやら樹液を利用したトリックのようです! これは人間には真似をできない発想だ!』


『そして最後にコンドール選手! 散らばった破片から作成された混合キメラモアイ! バラバラの素材が逆に宝石の様な美しい輝きを放っています! 今回はなにか文字を彫られたようですね……、ええっと』





「六郎、あれ!」


「あれがモアイ合戦か!」


 六郎とフィオナはようやくモアイ合戦の会場にたどり着いていた。


「今ここで爆弾について叫んだらパニックになるな……、もしかしたらやつらが直ぐに起爆に移る可能性もありうる」


「どうするの!?」


「会場に潜入したやつは爆破をしやすく、人が集まっているのを確認しやすい見通しのいい場所にいるはずだ。そこを探すんだ」


「見晴らしのいい場所……、それってステージじゃ!?」


『今回はなにか文字を彫られたようですね……ええっと、「ハニワ文化に栄光あれ」?』


 そのとき、コンドールの作ったモアイが爆発する。


「ぎゃああ!」


 司会と審査員たちは皆吹き飛ばされた。爆発したモアイの中から現われたのは巨大なハニワであった。


 コンドールは司会が落としたマイクを拾うと演説を始めた。


「えー、皆さん。私はハニワ解放戦線の代表としてきました。我々の目的は一つ、間違ったモアイ文化破壊し真実であるハニワ文化をこの地に根ざすことです」


「そんなーーっ!」「今までモアイを作っていたのは演技だったの!?」「ワルなのもなんかイカすーっ!」


 観客達はどよめき始めた。


「我々の祖先ハニワ派はモアイ派ともに異世界から文化を伝えましたが、繁栄を極めたのはモアイ文化のみ、そのような恥辱を晴らすためまず手始めにここにいる皆さんには死んでもらいます。ポチっとな」


『爆発まで一分です』


 コンドールがハニワにつけられたボタンを押すと、爆発へのカウントダウンが始まった。


「うわーーっ! 過激派だぁーっ!」「にげろーーっ!」


 観客達は一斉に逃げ出すが、あまりに人ごみの密度が高すぎて転ぶものが続出する。


「貴様ーーっ! 神聖なモアイ合戦を馬鹿にする気か!」


「ピピッ、悪人ト認定。排除を実行シマス」


 ハメカメとゴリアテが殴りかかる。


「やはりモアイ派は遅い」


 コンドールは高く飛び上がり攻撃を避ける。


 自由に飛びまわること、それは鳥人族に許された大空のライセンスであった。


「制空権も確保できないとは、職人失格だな君達は」


 そう言うとコンドールはゴリアテに急降下をして突進する。


「ギギッ……」


 突進を受けたもののゴリアテは対してよろめかずに立ち尽くす。


「さすがゴリアテだ、なんともないぜ!」


 ハメカメは言った。


「ピピッ、モアイ派ヲ皆殺シニシマス」


「暴走してる~~っ!」


「その警備ゴーレムの回路をいじらせてもらったよ。これくらい俺には朝飯前だ」


 コンドールは高らかに笑う。


「気分がいいなぁ、こんな風に制空権を得ているってときは特にいいぞ」


 そのとき、コンドールに向けて岩の塊が飛んでくる。


「うおっ! これは?」


 飛んできたほうを見ると清海が岩を投げつけていた。


「やれやれ凄まじい怪力だな、だが投げるだけが能ではな」


 清海は絶えず投げ続ける。しかしモアイの面により視界が悪くうまく当たらない。


「だからあたらないと……、ぐあっ!」


 コンドールの背中に矢が突き刺さっていた。


「なにぃ!? 矢だとぉ!?」


 さらには、回転しながら飛んでくるケペシュがコンドールの翼を焼ききった。翼が無ければ空は飛べない。イカロスですら避けられぬ運命なのだ。


「うわーーっ!」


 情けない音を立て墜落したコンドールは取り押さえられる。


「やったか!?」


 清海は言った。


「だめだ! ゴリアテを止めないと! 爆弾もだ!」


 ハメカメが慌てふためく。


「俺に任せろ!」


 清海は自分が切り刻んだ粘土モアイを持ち上げ、ゴリアテに被せるようにたたきつけた。


「ピピッ、モアイノ中暖カイナリィ……」


 粘土に包まれゴリアテは動けなくなる。


『爆発まで十秒です』


「もうだめだぁあーーっ!!」


 ハメカメは叫んだ。


「うおおおっ!」


 清海はハニワ爆弾を持ち上げ、思い切り夜空に放り投げた。


『爆発の時間です』


 大きな音を立てハニワは爆発する。


 夜空へと打ち上げられたハニワはさながら美しい花火のよう砕け散った。


「助かったぞーーっ!」「早くけが人を運べーーっ!」


 戻ってきた観客達でその場はごった返した。


「あの体躯、あの怪力、清海じゃないのか?」


「えっ、あの大きい人が?」


 六郎は清海に近づこうとするが人の波が押し寄せてくる。


「清海! くそ、人が多すぎて進めない!」


 半径一メートルに二十人が圧縮されるほどの密度だ。とてもまともに動くことは出来ない。


「六郎~っ!」


 フィオナが人ごみに揉まれ流されていく。


「しまった、フィオナ!」


 気を取られた六郎も人ごみに流されていく。


「清海~~~!」







 無事にその場を乗り切った清海は会場の裏手から抜け出ていた。


「凄かったぞ清海!」


 建設仲間達が一様にはやし立てる。


「まぁそれほどでも、あるがな」


「「「はっはっはっ」」」


 定番の清海ジョークに仲間達は大いに笑う。


「清海、そろそろ馬車が来る時間だぞ、見送るから行こうぜ」


 清海達は馬車乗り場に向かう。


 馬車乗り場にはもうすぐ出発する予定であろう馬車が停まっていた。夜間運行用にカスタムされており、荷台の上に小屋がついていた。


「なんだこりゃ、こんなのもあるのか」


 清海は始めて見る異文化的な存在に驚いた。


「お客さん、夜行馬車は始めてかい?」


 御者は言った。


「ああ、しかしやけに小さい馬だな」


 そう言いながら清海は馬のタテガミに触れた。馬車を引く馬の体高は七十センチほどしかなく日本の在来馬と比べてもかなり小柄であることが伺える。


「別にこれが普通だろう、もしかしてあんた異世界から来たのかい?」


 御者は言った。


「そうだが、これが普通なのか。馬に直接乗ったりは出来なそうだな」


「馬鹿いっちゃいけねえよ。馬に乗るなんてゴブリン達にしか無理だぜ。人間が乗ったら馬がすぐバテちまうよ。馬に乗りたいなら異世界産のにしたほうがいいぜ、高いけど」


「それもそうか、こっちではこれが普通なんだな。それじゃあ乗せてくれ」


「了解、じゃあ乗りな」


 御者は小屋の扉を開いて清海を招きいれた。


「それじゃあ皆、またどこかで会えるといいな」


 清海は言った。


「清海!がんばれよ!」「短かったけど一緒にすごして楽しかったぜ!」「カゼひくなよ」「さみしいぞ畜生ォオ!!!」「ざびじいぞーーー!!!」


 仲間達は別れの言葉を口にし、涙を流すものまでいた。


「よし、それじゃあ出すぞ」


 御者が馬を叩いて走らせ始めた。


 馬車は予想通り鈍足であるが徒歩のように疲れないというのはやはりいいものである。忍びとはいえ疲労は免れず、疲労はパフォーマンスの低下をまねく。治安レベルが不安定な地域を徒歩で行くというのはやはりリスクが高いものであった。


「やはり歩かなくていいというのは楽だな」


 清海はそう言いながら小屋の中を見渡すと、自分以外にも数人の旅人が藁の上や寝袋っで眠っている。四人ほど集まってなにかをしている者達もいた。


「うおっ、でかいな」


 起きている男のうち清海が入ってきたことに気づいた男が言った。


「こんばんは、なにをしているんだ?」


 清海が言った。


「トランプだよ、最近西の町ではこれが流行っているらしいんだ」


「ああ、トランプか。俺が知っているものと絵柄が違うな」


「ゴブリン産だからな、描いてある絵もゴブリン式になってるぜ、ほら、ジョーカーは昔の戦争の名残で人間の絵になってるんだよ。おもしろいだろ?」


 清海にも見えるように男はカードを見せる。


「「「お前がジョーカー持ってるのか?」」」


 他の男たちが言った。


「しまったーーっ!!」


「はっはっはっ」


 一同は笑った。







 会場で清海を見失った六郎達はモアイ建設現場監督のナタイの家を訪ねていた。


「すまない、だれかいないか?」


 ノックをして少し待つと一人の男が出てきた。


「おや、こんな時間にだれだい?」


「いきなりおしかけてすまない、人を探してるんだが。俺と同じ異世界人でスキンヘッドの大男を知らないか?」


「ああ、清海さんのことかい?君達は知り合いなのか?」


「ああ、やつの友人でね、清海が今どこにいるのか知らないか?」


「今日まで働いていたけど、今頃は馬車に乗ってもう別の街に向かってるんじゃないかな」


「なんだって?どこにいったかわからないか?」


「西の大きい都市を目指すとは行ってたからその途中の街を経由していくと思うよ」


「もう今夜は馬車はでないのか?」


「今夜はもう馬車はないね、明日も馬車は出てるはずだからそれに乗っていくといいよ」


「ありがとう、そうするよ。夜分にすまなかったな」


「気にしないでくれ、良い旅を」


 そう言うとナタイは扉を閉めた。


「やっぱりあの男が清海だったんだな、とりあえず明日ここを発つとするか、それで大丈夫か?」


 六郎はフィオナに向かっていった。


「私はかまわないわ、でもせっかくこの街に来たんだから市場も見ておきたいのよね」


「それなら出発は明日の夜にしよう、今日は人騒動あったしな。そろそろ休むか」


「そうね」


 二人は新たな宿を探しに行った。

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