第31話 小さなことからコツコツと

 わたくしの執務室に一枚の色紙があります。それがですね……ああ、まあそれはそれとして、例の吉本興業の複数の芸人と反社会勢力との金銭授受を伴う交流。連日、メディアがミンミンゼミよりうるさく報道していますが、皆さん、正直言ってこの話にまだ興味がありますか? 少なくとも、わたくしは完全に興醒めですね。なぜなら、芸能界というもの自体が、元々やくざとの間で主に興行上の繋がりがないわけがないではありませんか! というか実際あったわけです。一例をあげれば、美空ひばりと山口組の田岡組長などは後見人的なことをしていたのですよ。それを低俗な出版社である講談社から発行されている写真週刊誌『FRIDAY』の編集部は、なにをいまさら正義のメディアを気取ってるのでしょうかね。だいたい、講談社なんていうものはもともとの社名が大日本雄弁会講談社と言って講談師の講釈本を出すために作られた、つまりは講談師と切っても切れない仲であり、それはイコール講談師の興行と深く関わっている、またもやイコール、これがやくざと無関係なはずがないのですよ! 人の振り見て我が身を直せよ。とにかく、わたくしは、なんとなくこう言った偽善的なスキャンダル趣味が嫌いなので、再びたけし軍団(さすがに、ビートたけし師匠本人は行かないでしょうね)か、あるいは我が十二神将に命じて、護国寺にある講談社『FRIDAY』編集部を襲撃させようかと思いましたが、冷製パスタを食して冷静に考えれば、国内のことは全て白饂飩日本大将軍の取り仕切っている篠原幕府に一任しているので、今回は余計な手だしをすることはよしておきました。


 ああ、わたくしの知る範囲ではこの事件について一切発言をしていないようなので、その考えが全くわかりかねます、元参議院議員の西川きよし師匠の『小さなことからコツコツと』と書かれた色紙が冒頭にお話ししたものなのですけれど、なぜ、この色紙がこの部屋におかれているのでしょうか? わたくしは、きよし師匠にお会いしたこともなければ別に尊敬などもしていないのですがねえ……とても不思議なことです。前帝国の遺物かしら?


 さて、諸葛純沙と公私共に懇ろになりましたわたくしは、それこそ「小さなことからコツコツ」と大宇宙制覇を行うことで意見が一致しましたので「まずは太陽系制覇だ!」と意気込んではみたのですが、SF小説とは違って、火星人も金星人も期待していた冥王星人も存在しませんでした。故に無傷で太陽系制覇! ちっとも嬉しくはありませんし、全然、達成感もありません。

「さて、純沙よ。次は如何しようか?」

 気を取り直してわたくしが尋ねますと、

「我らが所属する天の川銀河の局部銀河群を一つ一つ潰して行くより他はないでしょう。一銀河群に五十程度の銀河があり二千五百億から五千億の恒星系があります。地球のことを考えれば一恒星系に一人種がいると推測されますので、それらを個別撃破し、最終的にはこちらの仲間にしていき、我が軍の戦力を拡大して行きます。地道で面倒な戦略ですが、この不条理な世界に定理を作っていくしか大宇宙制覇は成し得ないでしょう」

 うわあ、部活の基礎練みたいですね。


 しかし、うれしい誤算が起きました。うむ、本当にうれしいことなのかな? いやまあこも角ですね、我ら『日本涼国』が大宇宙制覇を企図していることに気がついた局部銀河群の中の恒星系にある、条件が地球に似ていて、生命活動、略して言えば普通に生活をして来ている、昔風に言うとエイリアンなのですけれど、全宇宙BPOの倫理規程では、全宇宙的に放送禁止用語になるらしいので、ここは新しい呼び名である、外星人(がいせいじん)という人々の在住する惑星内の政府の多くに我々のことが「地球の『日本涼国』の宇宙艦隊には宇宙大軍師や恐ろしいほど強い十二神将がいるらしい」と過剰に評価されて『戦わずして、最後に愛は勝つ!』はKANのヒット曲と言ってもどこのどなたが笑うのでしょうか? 知らないですよね。それはサティアン……これはタチの悪いジョークでした。すみません。言い直しまして、それはさておき、各惑星の政府が雪崩をうって降伏や臣従を誓ってきます。このままで、兵糧は足りるのでしょうか? わたくしは項羽のように、捕虜に食べさせる兵糧がないと言って、捕虜たちに自ら掘らせた大きな穴へその捕虜たちを突き落とし、上から土をかけて埋めちゃうなんていう極悪非道はしたくありませんし、ヤン・ウェンリーが軍事学校時代に、成績トップの学生と戦略シミュレーションで対決した際、徹底的に相手の補給部隊のみを攻撃するという戦略で、トップ学生に勝利し、トップ学生に「卑怯者!」と罵られてもどこ吹く風だったことを知っています。要するに戦争で最重要なのは兵糧なのです。人間はガンジーでもなければ、食わずに戦えません(ああ、すみません。ガンジーは抵抗しない偉人でした)。純沙にその不安を言うと、

「まだ、戦争は始まったばかりです。各国ともに自分たちの食糧くらいはあるでしょう。もし、持っていない星が帰服してきたら、『自星待機』を命じて、味方ではあるけれど、疎遠にしておけば大丈夫です。いま、各星の政府は『星間バスに乗り遅れるな』として、我が軍に合流しているだけです。もし、我々より強大な勢力が現れたら、すぐに乗り換えのためにポケットからSuicaを出すことでしょう。この世の流れは、スケールが変わっても同じです。AIやアンドロイドが支配する星があれば状況が変わりますが、いまのところ、出身生物は違えども、みな同じような進化を遂げて、外星人になっているようです。ご心配には及びません」

 なるほど。純沙の言葉はわたくしの精神安定剤です。


 まあ、このまま順調に我が軍が成長拡大して、市が立ったで終わりにしても、誰も文句を言うことは……たぶん、ないとは思いますが“はぐれきった悪魔”の異名を持つ、この物語の作者が何か仕掛けてくることはおそらく間違い無いといっていいでしょう。作者にメールで確認したところ「正直、SFっぽくなっちゃうとは思っても見なかった。大失敗だよ。わたしは単に架空の日本史を書きたかったのにさ。なんでこうなっちゃったかが全くわからない。今後はノープランだけど、ピリオドの向こうに突き抜けて、君たちに塗炭の苦しみを味合わせてあげるよ。純沙と上手くいくなんて甘い考えは持たない方がいいぜ。フフフ」

 イヤな奴だ!

 わたくしは作者ごときに負けません。敵は大宇宙にあらず。作者なり!

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