第29話 第一万五千四十九次・宇宙大戦勃発の兆候

 わたくしが日頃から、たいへんお世話になっているWikipediaさんの話によると、英語のGalaxyという単語はギリシャ語で『ミルク』という意味なんだそうです。おおかた、どこかの三歳児が「ひとりでできるもん!」と叫びながら冷蔵庫の牛乳パックを取ろうとして手が滑って転んで、この『銀河』という理解不能なゾーンが生んでしまったのでしょう。この世界はちっちゃいガキの、いやお坊ちゃんのミステイクで出来たんですよ! もちろんその三歳児(ガキと決めつけてしまいましたが、お嬢ちゃんの可能性も考慮しておきませんと、あとでわたしが正体不明の人権擁護団体からクレームを受け兼ねませんので、ここで、注意喚起文を記しておきます)は雑巾掛けをして、床一面真っ白な液状化現象を起こしていいる事故現場の現状から必死のリカバリーを目論んで大汗かいているママさんから、ヒステリックジャパーンにですね、こっぴどく怒られてしまって、「エーンエーン、ママーのバカー!」とさらに大号泣して、ついでにおしっこジャーっとおもらしまでしてしまって、大宇宙における、雑巾類の販売上昇と少子高齢化問題に関する全宇宙厚労省の統計データの煩雑化及び、雑巾種族(宇宙人かしら?)の雑巾的被害や犠牲による経済的損失の総額が、わたしの『日本涼国』の国家予算よりはるかに多いのは自明の理です。全宇宙的に見れば、子どもはたくさんいるのですね。不思議。


 わたしは家系的理由(実父&養父)から、理系全般が珍紛漢紛な人間でして、それに付随したSF小説、それもスペース・オペラなどは『スター・ウォーズ』シリーズの他には……ああ違った。そうですよ、忘れていました。田中芳樹の『銀河英雄伝説を』がありましたね。ヒロイックファンタジーって呼ばれていましたが、明らかにスペース・オペラです。これをおそらく、トクマ・ノベルスで読んだことがあります。しかし、あの小説はよく「完全な三次元である宇宙空間で、なぜ、将棋のような平面の戦争をするんだ?」とSFファンや、個人的軍師気取りたちに酷評されていましたね。わたしの場合は、作品のよし悪しを問う前に、実はものすごく将棋が下手くそで、全くもってその手腕は女子に負けちゃったくらい(しかも社会人になって急に覚えた超初心者相手にですよ)お話にもなりませんでして、まさに『ヘボ将棋、王より飛車を大事にし』の典型例でした。しかし、よく、考えてみて下さい。『王将』『玉将』なんてやつらは所詮、真の皇帝あるいは大元帥であるわたくしから戦争の総大将に任じられた単なる代理人に過ぎないのです。今後は名称を『代将』とか『准将』にすべきですよ。わたしは強く『将棋駒改革』を求めます! 天童よしみさんではなくて“将棋の駒の市”で売っている、山形県天童市の皆さん!


 さて、宇宙大戦あるいは大宇宙戦争といっても、わたくしにはスケールが大き過ぎて、今のところ、さっぱりわかりません。くだらない例えをするならば、先ほどの、牛乳をこぼして大号泣した挙句におしっこを漏らしちゃった三歳児が黒澤明監督の、わたくし的には最高傑作である『乱』をたった一人で、しかも特大フルスクリーン、ドルビー・サラウンド効きまくり、全編ノーカットをママさんがいない状態で、ポツンと一軒屋ってな感じで、鑑賞するようなものです。三歳児はまたおもらしをしてしまうか、下手をすれば強烈なひきつけを起こします。いまのわたくしが、まさにそんな風なので、ああ、早くお手洗いに行かないと失禁して……単純に、お手洗いまで歩いて行けばいいのでしたね。一瞬、アテントの購入を真剣に考えてしまいました。バカです。


 しかし、単純に考えて、宇宙とはどれくらいの大きさで、どれくらいの『銀河』があり『宇宙国家』が存在するのでしょう? わたしはこんな基本中の基本の質問を諸葛純沙に尋ねました。


「陛下、まず宇宙の大きさですが、現在観測可能な範囲が約五百億光年とされています。当然まだ未知の領域が膨大にありますので、いまはそれ以上、とまでしか申し上げられません。銀河の数ですが最新の研究ではだいたい二兆個と言われています。誰も正確に数えることも、いえ、誰も数えたくないでしょうね。『宇宙国家』についてですが『大宇宙連合』に加盟および準加盟している『宇宙国家および地域』は五百二十四兆国家および地域です。もちろん未加入の『宇宙国家』や未開の宇宙空間もあるので実数はわかりません」

「そうなんだ。あのさ、そんな天文学的数字がケツをまくって逃げてしまうような代物を統一しようなんて考える人はこの宇宙にいますかね?」

 私は根本的疑問を口にしました。

「常人であれば、そんな愚かなことに手を出したりしないでしょう。しかし、畏れながら、陛下は……」

「えっ、朕がキチガイだから手を出すと?」

「さあ、そこまでは言っておりませんが、万が一、乗り出すのなら、どこまでも、いつまでもお供いたします」

 なんでしょう。純沙はどうも、わたしに全宇宙統一を焚きつけているように思えてなりません。その全貌すらわからない宇宙を統一すると考えることはまさに狂気の桜だと思いますが、ご存知の通り、あの、アンドロメダ帝国皇太子がサジタリウスで皇太子妃とともにシャトルごと爆殺されるという大事件を発端として、可視化内における大宇宙に大戦乱がおきてしまうのです。

 余談ですが、アンドロメダ皇太子夫妻が乗っていたシャトルは実は“呪われたシャトル”と呼ばれ、これまでも何百人の命を奪いながら、自分はいつも無傷で、所有者を転々と変えながら人命を奪っていたという、曰く付きのシャトルであったとのちに、コリン・ウィルソン53世が著書『アウト・セーフ・ヨヨイノヨイ』に記しています。ご興味があれば、古本屋か図書館に、ああこんな時代ですから、ネットで読めるのかしら?

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