第28話 日本大将軍はどの家に?

 わたくしの『幕府統一試験開催の詔』発布からちょうど一ヶ月後、武蔵国および相模国近辺にある各大学法人の講堂や教室を使用して、統一試験が二日間にわたって執り行われました。まあいってみれば、もうすぐ廃止になってしまうセンター試験のようなものです。一応、内閣府より公式発表された統一試験受験要項では全ての採点は学力検査のみで行うというとなことを朝廷サイドの意向として発表いたしまして、武家の棟梁たちにもそのように伝えておりましたが、我ら朝廷サイドとしては、当然のことながら、そんな単純に過ぎる手段を判断材料にして、幕府の大将軍を決めるというような愚かなことをするはずはなく、各家の家臣らの人格や風態などを素知らぬ顔をした試験監督官の役人たちが、実は厳正かつ事細かにチェックしており、明らかに態度や素行の悪そうな家臣たちの獲得得点などをバシバシとペーパーテストの獲得点数からマイナスしていました。これは今後四年間、政権を委託する以上、やらねばならぬ必要事項です。この試験の勝利家こそ、我が帝国の地球上での代表となる者たちですからね。ただし、あくまでもこの地球上というか、この地上の世界限定ですけれども。対大宇宙に関しましてはこれからも、わたくしの絶対的な親政が仕方なくですが続くのです。そして、庶民の皆さん方にはとても残念なお知らせですが、この大宇宙ではまもなく、とんでもないことが大波乱の時代がやってくると大軍師・諸葛純沙が言っています。彼女がそういうからには、必ずやそうなるのでしょう。わたくしは本来はただのヒマ人かつ自称・三代目勉強家に過ぎませんから、決してめちゃくちゃ優秀な人間というわけでもなんでもなく、単に時空の歪みでこの混沌とした時代に、ある種の転生をしちゃっただけの男です。ですので、地上と大宇宙の両方をきっちりしきってやり遂げるほどの特別な能力は全くありません。それゆえの、武家登用、そして横浜幕府開設なのです。その辺りのことを武家の者たちがどのくらい理解しているのかは今ひとつよくわかりませんが、『日本涼国』や地球を自分たちが守るという気概ぐらいは持っていて欲しいものです。いや、わたくしは強く期待します。


 さて、わたくしが寝室で、最近ようやくこの時代にも整備された、インターネットでネットサーフィンをして遊んでおりますと(いえいえ、アダルトサイトなんてものは一切閲覧しておりません。なにせ、この時代に『美人』とされている女性のお顔は皆さん『ガンバレルーヤ』さんなので、いくら十二単を一枚ずつ脱がされても全くもって興ざめなのです(閲覧してるじゃん)。もうお気づきかと思われますが、わたくしが少しばかりイケナイ妄想してしまうのは美しい大軍師・諸葛純沙だけであり、皇帝と大軍師という関係性から鑑みまして、万が一にもわたくしが告白などして、彼女が激怒してどこかの宇宙にでも出奔してしまったら、すぐに『日本涼国』が滅亡の危機に瀕しますので、彼女のことはいつも遠くからそっと眺め、職務中の何気ない会話に悦びを見出すよりないという切ない状況なのです)ああ、藤原不足が謁見にやって来ました。

「帝、試験の結果が出ました」

「おう。で、どの家じゃ?」

「それが……なんということか、意外にも一番目立たなくて地味だった、白家でございます」

「ほう、饂飩のところですか。それは朕もちょっと意外でしたね」

「白家の者どもは、特に算数と梵語が飛び抜けておりまして……」

「はあ、なるほどね。わかりましたよ。つまりは“讃岐うどん”チェーンの全国展開による売上管理やマーケティングなどの基本となる算数と、世界展開のための諸外国語の学習。その中にきっと梵語が必修言語として入っていたということね」

「ご慧眼、畏れ入ります」

「しかし、そうなると武家というよりやや商家の部分が強く出てしまう恐れがあるね」

「他家の猛烈な反発が予想出来ます。他の三家はそれぞれ、武名が高いですから」

「でもさあ、考えによっては『儲かる幕府』または『稼げる幕府』というのもかなり斬新かつ、実利においても、庶民の年貢の軽減などが可能になって、それはそれで面白くないですか? 武力の補強については新鋭十二神将を白家に四年間出向させましょう。さすれば三家も軍事的な文句が出まい」

「帝の御意のままに」


 こうして、白伊予守饂飩が、初代・日本大将軍となり、篠原幕府を開きました。青越後守義家、朱筑前守正門、玄長門守家久が三家副将軍の地位に就任。新鋭十二神将が日本大将軍奉公衆となりました。

 今後が楽しみなのか? どうなのか? いまのところ、わかりません。

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