第27話 学術研究 日本涼国に於ける武家社会の成立
こんにちは。東京史学大学・日本帝国史研究専任教授で小説家の南方建造佛(みなかた・けんぞうぶつ)です。皆さん、オレの最新刊『副流煙喫煙術』は読んでもらえたかな? ああ、まちがえちまったよ、ごめんごめん。今日はそっちの講演ではなかったな。オレみたいな、元祖二刀流もね、こんな風に歳を取ってくると、仕方がないんだろうけど、今日は学問の方の講演だったか、小説の方の講演だったかもよくわからないまま、いまの使えねえマネージャーに車で運ばれて来ちゃうし、講演の最中でも、今はどっちのことを話しているのか、よく区別がつかなくなって来ちゃうんだよ、全くさあ、イヤになるぜ。もっとも壮年のころなんかは、どういうわけか、変にマスメディアにもてはやされて、オレもかなり調子こいちゃって、いろんなテレビや雑誌に出てたじゃない? 覚えてないか? とにかく、少しばかり度が過ぎちまって、ついにはさ、オレがメインのニュース・バラエティーもあったんだよなあ。確か『ビッグ・イッシュー』だったかな。違うか? おいおい。ここ、笑うところだぜ。しかし、あれは、あんまりにも低視聴率でさあ、たった三週間、つまり三回で打ち切りになったっていう、いまとなっては、ある意味で幻のお宝番組だよな。なんだか、いまのゼミ生が言うには、YouTubeにもあの番組の動画は出回ってないんだってさ。あのころなんて、今にして思えばひどい話なんだけど、出版社やテレビ局の意向で、無理やりオレは無頼派的なキャラクターを演じさせられてさあ、オレってこう見えても小心者なんだよ、実際のところは。いまだって、手汗が止まらないんだよ。だから正直に言うと、あのころは精神的にかなりツラかったよ。思い返してみれば、要するにメディアのピエロにされて裏ではプロデューサーとかディレクターたちに笑われてたってこと。腹も立つけど苦みばしった、いい経験だったさ。けれどもいまはね、子供のころから好きだった日本史の研究が思う存分に出来て、しかも、書きたいことを好きなように書けて、出版までして貰えちゃってさ、マジでありがたいね。ようやく安住の地をみつけた感じだよ。おい、聴いているか? 司会の安住紳一郎くん。
さて、ここからは真面目にやります。いま、史学界で話題になっている『日本涼国』というのは、結局のところ、皇帝が一代限りで終わってしまい、あとは兆(きざし)と呼ばれる神とも仏ともつかない不可思議なものを帝国国家の象徴として崇めていたっていう、世界史観から見ても、とても変わった民主主義的帝国だったということは今日ここにいらしているような、歴史好きの皆さんは既に知っているよね?
だから、皇族を祖先にして興ったといわれている『武家』ってものを説明するために限定的に使用する『皇族』という言葉の意味は、実は正確にいうと『日本涼国』の一つ前に存在していた帝国の皇族の子孫だったというわけ。でも、その一つ前の帝国が一体どういうものだったかについては、現在のところ、一切史料が出ていないし、遺跡・遺構なども発見されているわけではないから、まったくもって、謎の中の謎なのさ。もし、そのかけらでも見つけたらハインリヒ・シュリーマン並みの考古学的英雄になれるぜ。スコップ持ってゴー! それはジョークとして、なぜ? 『日本涼国』の皇帝が前政権の皇族の子孫である武家たちに、わざわざ、自分が統治していた国家の運営を任せたのかが実はよくわからない。ここのあたりが歴史研究家としても小説家としても想像的創造なんていうある種の腕を見せるところなんですけどね、現在まで、少なくともオレの腑に落ちる仮説は史学的にも小説的にもないな。もちろん、オレはもう歳を取り過ぎちゃっていて、脳が硬直してるのに軟化もしているから、新説発表なんてとてもムリだよ。もう九十だよ、オレ。
いわゆる武家四氏。青・朱・白・玄という姓が、中華に起源を持つ四神信仰から来ていることは皆さん、知っているよね? 簡単に言えば、青龍・朱雀・白虎・玄武さ。それでもわからなければ、青春・朱夏・白秋・玄冬ね。まだわからないの? ブルー・レッド・ホワイト・ブラックだよ! 大相撲のさあ、『吊り屋根』の四方にぶら下がっている房の色だって、ここから来ているんだよ。つまり『日本涼国』の前政権というのは中華の影響を強く受けている。あるいは中華そのものだったとも考えることも、少しばかり強引ではあるけれど可能だ。実際さあ『日本涼国』の発見だって、中華大陸で夏王朝の遺跡らしきところを発掘していた日中友好共同発掘団が偶然『日本涼国』の文字が含まれた印璽を発掘したことで初めてわかったんだよね。実は現在のところ、日本国内には一切『日本涼国』の存在を示す証拠は無いと公式的には言われているんだ。もちろん、平安京跡地に遺構があるという歴史家も存在するし、帝国が東遷して、現在の神奈川県横浜市に新しい都を置いたという、横浜市近辺の地域限定の伝説があるからね。ああ、これは一応、史学界では内密ってことにされてるんだけど、横浜駅西口付近の再開発中の工事現場で玄武の甲冑の破片のようなものが見つかったという噂があるんだ。ただし、その話はかなり眉唾物で、その破片を放射性炭素年代測定にかけてやったら『はるか未来、遠い銀河』って結果が出ちゃったんだってさ。もう、実際のところ、わけがわからないね。
武家四氏のうちでは、青氏、正式には正和青氏(しょうわ・あおし)が一番有名だよね。皇族の端くれだった、缶詰王(かんづめおう)が青の姓を頂いて、ああ、誰から頂いたかはもちろん現在のところ不明だよ。それで青缶詰(あおのかんづめ)として臣籍降下し、越州三国、甲斐、信濃の国司になるわけ。当時でも破格の待遇だよ。米どころを完全に押さえちゃったんだから。それが任期を過ぎても在地したまま勢力を拡げて“武士の神様”的な存在である、百萬太郎青義家(ひゃくまんたろう・あおのよしいえ)が登場するわけ。義家は東北地方で起きた、前後十五分の役で鬼神の働きをして、奥州・盆暗氏(ぼんくらし)を擁立するのだけど、その盆暗氏が陰で当時の帝国王朝に、まあかなりの量の黄金を使って、青義家の立場を悪くさせて、何の利益もないまま強制帰国させるように仕向けちゃって、義家は京都に召喚されて、一気に勢力が弱まってしまった。一方で盆暗氏は東北地方(陸奥・出羽国)に半独立国家を作っちゃうのさ。でも、義家はそんな盆暗氏の裏の行動に気が付いてないから、単に朝廷のみを恨みに思って、自分たちに下僕のように接して来ていた、盆暗氏のことを生涯、気にかけていたんだってさ。少しばかり、お坊ちゃんだよなあ。でも、盆暗氏も義家のその姿勢を見て、少し気まずく思ったんだろうね。その後、一族が義家の子孫である、青朝起(あおのあさおき)に滅亡させられるまで、歴代の当主は「青氏家臣・盆暗ノ何某」と名乗り続けたそうだ。
鎮西の朱正門は、最近の研究では実は青義家の実の末弟だったということがわかっている。つまりは青缶詰の実子だったって言うんだ。それ以前の朱氏のことが全く史書に残っていないんでね、その出自がわからないというところが現時点での事実だ。正門は日本史上最強の武力を持っていたということは、歴史シミュレーションのパラメーターを見ればわかるよね。呂布みたいなものさ。百人張りの弓で一遍に二十本の矢を放ち、一本で十人は射殺しちゃうというから、別名『家臣要らず』と呼ばれていたそうだ。実際には有能な家臣が揃っていたそうだけどね。本拠地は当然、太宰府で、太宰府権帥(だざいふごんのそち)をしていた。権帥の上司にあたる、太宰府帥(だざいふのそち)という官職は、親王などが便宜上就任する一種の名誉職だから、権帥は事実上の太宰府のトップだ。だけど、正門が太宰府にいることは、ほぼなくて鎮西中で大暴れしていたらしい。『悪権帥』という、あんまりいただけない二つ名もあったそうだ。
四国の白饂飩は、武力よりも、政治力がかなり高かったようだ。現在も日本中で食されている“讃岐うどん”というものを開発したのは彼だという伝説は香川県のあちこちに残っているし、丸亀、花丸という二大重臣にうどんの日本全国展開を命じたとも言われているよ。現在の日本において、様々な種類のうどんが存在しているのも全て、彼の功績だという。当然のことながら、えらい高額なロイヤリティーが各国から入ってくるために『食いつめたらとりあえず四国に逃げろ』という一種のことわざだか標語みたいな言葉が戦国時代くらいまではあったらしい。
山陽山陰の玄家久は知将中の知将だよ。ほんの小さな吉田郡というところの郡長さん程度、そんな感じだったのに東西に君臨していた甘酒氏と大酒氏という、酔っ払いの大国司を酔い潰して滅亡に追い込んだテクニックは、現在のブラックマーケットでテキストにされているとかいないとか。オレはなにも知らないよ。伝聞で聞いただけだよ。
彼には三人の有能な息子がいて『中国地方の劉備・関羽・張飛』と呼ばれていて、兄弟仲もとてもよかったそうだ。だから、家久は背中に隠し持っていた『三本の矢』を取り出せなくて、背中がいつもチクチクして仕方がなかったんだってさ。ところが後継として期待していた長子の義久が戦陣で、敵の間者に……はあ? 誰も関ジャニなんて言ってない。ただ、犯人は村上水軍の娘だったらしいけどな。とにかく義久は毒殺されてしまった。普通なら、次男の義弘か三男の歳久のどちらかを後継者に指名しそうだよな。実際、家臣の多くも超有能と評判が高かった、三男の歳久が跡を継ぐと思っていたそうだ。ところが家久は義久の忘れ形見、まだ十歳の安直丸(あんちょくまる)、のちの玄輝元(くろのてるもと)を後継者にして、義弘と歳久に養育を任して、自分は後見人となった。その時、長年背中に隠していた『三本の矢』を取り出して有名な、アレをやったんだってさ。ところが安直丸こと玄輝元は有能な叔父二人のスパルタ教育を受けたにも関わらず、とんでもないお人好しでお坊ちゃんという無能ぶりを発揮して、玄家を危うく潰しかけてしまう。ただ、どういうわけか親戚、重臣の忠誠心とスペックが高くて、明治維新までお家が持ってしまったのさ。
えっ、四家のうちどこが、初代日本大将軍になって、篠原幕府を作ったかって? 悪いな。ゴーストライターの書いたシナリオにその記入はないわ……
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