第26話 幕府統一試験

 翌日、またも文武百官と四家の武士の棟梁が横浜アリーナに集結しました。なんだか某新興宗教の決起集会みたいでイヤな感じがします。来年にはしっかりとした新朝廷を新国立競技場よりも迅速かつ頑丈に作らせましょう。レオパレスに頼め? そちは即刻斬首。検非違使よ、連れて行け! なお、幕府の所在地はは港北区篠原町にあります篠原八幡神社を全面改修した上で、申し訳ございませんが近隣の住民の皆様にお立ち退きいただいて、大々的に拡張いたします。あのあたりに昔から住んでいらっしゃる方々は、おそらくわたくしの実の両親や実姉をお見知りおきいただいている方も多いと思いますので「ああ〇〇さん家の息子さんが陛下だったんですね!」とか「〇〇の弟が皇帝なの? 同級生は柳家喬太郎だし、すごいよなあ」と驚いていることと思います。実の両親や実姉の知名度に比べてわたくし自身の知名度が低いのは、あまりに病弱でずっと秘蔵された、箱入り息子だったからです。いいえ、絶対に閉鎖病棟ではありませんよ。検非違使! あの痴れ者も捕らえよ!


 さて、堂々たる体躯の四家の棟梁が入場してまいりましたが、残念というか、予想通りというか、四人とも口を揃えて、

「よき案は浮かびませんでした。誠に申し訳ございません」

 と深くお詫びして来ます。あれ? もしかしたら、わたくしは人選を間違えたのでしょうか? どこかの優秀な僧侶でも招聘したほうがよかったのでしょうか? と一瞬、思い悩みましたが、僧侶どもに俗世のことをやらせても、あまりいいことがないのが世の慣いです。俗世のことは俗世のものにやらせておいたほうがまだいいのです。


「わかった。ならば仕方がない。ではそれぞれ、才能に秀でた家臣を百名ずつ選出せよ。それらに対して朕が、林修文科上(りんしゅう・もんかのうえ)に特別監修させた、国語・算数・理科・社会・梵語の五科目の試験を課す。それで、得点の上位二十名のものたちの合計得点が最上位だった家を日本将軍家とする。任期は四年。四年ごとに同様の試験を行い、その都度、新しい将軍家を作る。何か異存はあるか?」

「陛下、畏れながら」

 青義家が口を開きました。

「うぬ、直の問答を許す」

「武力の試験はございませんのでしょうか?」

「ははは。おのれらは、いずれもこの国最高の武力集団であろう。どれほどの差があると言うのか? それに昨日も申したであろう。どこで、模擬とはいえ戦さを行うのだ? 近隣の庶民が大迷惑だろう。もし、どうしても戦さ勝負がしたいならこの光栄幕僚長の最側近、渋沢公が考案した『信長の野郎』という戦国シミュレーションゲームで勝負するんだな!」

「し、趣味……れい……しょん、でございますか? なんのことだか、さっぱりでございます」

「愚か者め! 勉強が足りんわ。武家とはいえ、この宇宙時代、未来志向の時代に、今までのような形式にとらわれた戦さをやっていたら、たちまちのうちに、他の恒星軍に地球は征服されてしまうわ。とにかく、一ヶ月の猶予を与えるゆえ、試験勉強をせい。いや、猛勉強をせい。なお、今回の試験のポイントをBlu-rayに収録した『林修の今だったかなあ?』を千両で特別販売するから、希望するなら購入するがよい。なお、広告中の顧客の感想はあくまで個人のものである。では、散会!」

 わたくしはとっとと四氏に背を向けて退出しました。一国の皇帝たる以上、時には冷酷な厳しさも必要であると諸葛純沙が申しますので、実践したまでのことです。これでやつらも、少しは試験勉強に身が入るでしょう。

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