第24話 坂東遷都を決意する

 わたくしにとって、中学の修学旅行以来の京都はやはり、アウェイ感が強すぎてどうも、心身ともに馴染めません。水が合わないということでしょうか? 平安京は本来、明治天皇が東遷するまで、長きにわたって都として君臨していたので、わたくしごときが容易に遷してはいけないような気もしますが、諸葛純沙に相談したところ「別に都がどこにあっても『日本涼国』にとって、大して重要なことではないです。肝心なことはどこに陛下がおられるのではなく、一体、そこでなにをするかです」

 と忌憚なく申しますので、わたくしは気持ちを強く持って、百官に坂東への遷都を表明しました。

 藤原不足はじめ、京都育ちの公家たちははじめのうち、あまりいい顔をしませんでした。しかし、わたくしが、

「残りたいものがあれば残ればいいし、また別の帝国を作ったって朕は一向に構わん。取り潰しの戦さなど、庶民に無駄な負担がかかるからやらない。勝手にやってくれ」

 と少々強気に出たので、おそらくは皆、内心では渋々と遷都に賛成したようです。


「やはり、遷都の先は江戸でございますか?」

 藤原不足が尋ねてきます。

「いや、朕は江戸というか東京が昔から大っ嫌いなのだ。だから生まれ故郷の横浜に遷しますよ」

 と宣言しました。後の世に言う「横浜遷都の詔」です。新横浜で下車するなら、東海道新幹線に乗ってしまえば、すぐに遷都が出来てしまいます。宣言から一週間で重要人物、文書、道具類などの移動自体は完了してしまいます。しかし、朝廷をどこに開くかが重要な問題です。横浜駅周辺はいつまで経っても終わらない工事をしていてとてもイラつきますし、人通りが多すぎて治安もよくありません。関内周辺も同様で、朝から酔っ払っている者があったり、競馬の場外馬券所があるなど、わたくしから見ると、人心がかなり荒れているようで、横浜スタジアムこそありますが、あまり好きではありません。それに地方官庁街(横浜市は武蔵国なので、国衙ではなくて支部なんですよねえ。なんで相模国にしてくれなかったのかなあ)ありますので、朝廷と地方行政が接近しすぎているとやりづらいでしょう。それから、みなとみらいあたりもねえ、あまりに人工的すぎて情緒がないのですよ。だからって野毛とかまで行ってしまうと、もう動物園と飲屋街ばっかりであまりに下町すぎて、わたくし的には結構ですという感じです。要するにどこも、ただの観光地ですね。結局、横浜アリーナを中心とした港北区エリアを首都としました。港も海もありませんがね。普通に考えるなら新横浜を首都にするのでしょうが、わたくしは幼少時に育ちました、JR横浜線のお隣の駅である菊名を政権の中心としました。東急東横線もありますから便利です。新横浜にだって楽勝で歩いて行けますよ。政務自体は新横浜でも全く問題はないのですが、生活環境として、高級住宅街である菊名の篠原(表谷)エリアでのんびりと過ごしたかったのです。この辺りなら、親類縁者や旧友もおりますので、よき人材などいれば登用してもいいかなあという気持ちもありました。ですが、本当の菊名という地名の場所はダメですよ。あそこはほとんどスラム街ですし、『造花学界』なる、西洋圏ではテロ組織に指定されている国もあるという、新興宗教が盛んなのでいけません。信教の自由はわたくし自身で決めた憲法で保証しているので、如何ともしがたいのですが、地域再開発とか、適当に名称をつけて、彼らをどこかに雲散霧消させるなどの強引な手を使う可能性はあります。結局は他の地域に迷惑がかかりますけどね。それ以上のことは出来ません。わたくしは独裁者でも宗教弾圧者でもないのです。ただの国の象徴なんですよ。


 そういった意味も含めまして、公家衆らの反対を押し切って、ここらで、実力のある武家に政権を任してみるという、壮大な実験を敢行しようと急に思い立ちました。現在、この国には青氏、朱氏、白氏、玄氏という、元は皇族だったものが臣籍降下して一般庶民となった武家がおります。この中からわたくしは一氏を棟梁に選んで、この横浜の地に幕府を開かせてみたいと思ったわけです。まあ、お座興といえばお座興です。真剣ですけどね。もちろん、わたくし直属のものたちでも十分に出来る簡単な作業、時給一千万円程度の仕事です。現実世界では、朝廷の力は平清盛の台頭以降は衰えて、源頼朝らが全国に守護・地頭を置いた時点から武家政権が鎌倉から江戸時代まで、一部の例外や混乱期を除いて続くのですから、我々朝廷は対宇宙抗争に専念し、国内は彼らに任せてもいいかなあと考えた次第です。しかし、四氏のいずれかを選ぶか? 問題はそこです。源氏と平氏だけの世界なら楽に考えられたでしょね。交代交代にってね。でも四氏もあると、そう上手くはいきません。かといって四氏を戦わせて決着という愚かなことは出来ません。ここは熟慮が必要です。


 まあ、次回までに純沙らと相談して決めますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る