第21話 太陽帝国の侵寇

 わたくしは『日本涼国』のようなアジアの弱小国を攻めて来るのは、まず中華近隣に興った我らと同規模の帝国、おそらくは最終的に和平協定などを結ぶ時に有利な条件を引き出すためのテクニックとしての紛争だと考えていました。

 またもしくは現在、中華を統べている『大昧帝国(だいまいていこく)』の侵攻もないわけではないでしょう。ただ直接の侵攻の可能性は低く、皇帝の書面もしくは使者による降伏または服属の脅迫か勧告あたりかなとも思いました。

 まさか、西洋からの侵略はないでしょう。労多くて利少なし。せいぜい捕鯨の基地として、食糧と水を恵む程度でしょう。もっとも、捕鯨をしていればの話です。わたくしは西洋に興味がないので、彼らの動向など、どうこうなかったんですって、久々のくすぐりですよ。奥さん!


 しかし、大軍師・諸葛純沙はわたくしの思いもよらぬことを予想していました。

「陛下。我が国に侵寇してくるのは周辺小国でも大昧帝国でもないでしょう」

「では、どこだというのですか?」

「おそらくは……太陽帝国ですね」

「は?」

「陛下、お考えください。今は一見、平安時代のように思われますが、実際には宇宙時代なのです。恒星同士が覇権を争い、やがては一つの銀河帝国を形成します。そして宇宙のいくつかの地域に、数多くの銀河帝国と銀河皇帝が現れ、銀河同士の争いとなり、最終的に統一された大宇宙帝国となるのです。これが宇宙の定理であり、宇宙に意思を持って生まれた人間である以上の宿命です」

「うん。それはなんとなく理解出来ます。でも、太陽は恒星としてはごく小型で、大型の恒星に勝ち目がないでしょう? それに自陣を広げるならば、この地球においては大昧帝国、もしくは西洋の帝国を狙うのが本筋であり、我らなどはあとでゆっくりと攻めれば……」

「陛下はご自分を低く見積もり過ぎているようです」

「えっ、どういうことですか?」

「まずは陛下の十二神将と新たなる猛者たちを加えた新鋭十二神将。これらの評価はもうすでに全宇宙に轟いております」

「そうなんだ? 全然、知りませんでした」

「彼らの強さは『一人、宇宙戦艦一億隻』と言われています。つまりは二十四億隻の艦隊です。そんな大艦隊は全宇宙に存在しませんというか補給などを考えれば存在し得ません」

「そ、そうでしょうね。宇宙港が用意出来ませんよね」

「陛下はそんな彼らを御しえる唯一無二の存在なのです。あの荒くれ者たちの信用を得て、命令に従わせることができる皇帝は陛下しかいないのです。他の者が真似をしようとすれば、必ずや、彼らに謀反を起こされて、殺されるのがオチでしょう」

「そうなんだあ。皆気性はそれぞれだけれども、一人一人はとても良いやつらですよ」

「それは陛下だから言えるのです。例えるなら蜀漢の劉備玄徳のスケールを百億光年倍したようなものです」

「大げさだな、純沙。いくら褒めても給金はこれ以上あげられないよ」

「私にしたところで、陛下のお側で働けることに無上の喜びを感じています。藤原山城守殿、藤原摂津守殿、羽鳥大和守殿のお三方を始め、全ての上職の方々、大軍師である諸事光明先生とて陛下に全幅の信頼をおいておられます。兵卒や庶民の一人一人までが陛下をご信頼するなどという国は宇宙でも、この『日本涼国』だけでしょう」

「純沙、なにか悪い薬でもやってしまったのですか? 今なら黙っていてあげますよ」

「陛下、お考え違いはなさらないでください。わたしは陛下におべっかを使うためにこのような巧言令色を用いたのではありません。逆に、ご忠告を申し上げたいのです」

「な、なんだろう?」

「これだけ、国民に愛され、それが全宇宙に知られているということは、他の皇帝たちから陛下はかなり激しく嫉妬されているということです。各皇帝たちは、必ずや陛下を惨殺しようと狙ってきます。その第一陣が太陽帝国軍だということです」

「うぬ。前半に褒められ過ぎただけに、後半の諫言がメンタルに響くな。すまないが誰か、頓服と水をくれぬか?」

「すでに、ご用意してあります」

 純沙が薬と冷水を差し出した。

「用意がよすぎです」

「お許しを」

「許すよ。全部本当のことだものね。純沙、わたくしは、そんな厳しい状況に耐えられるであろうか?」

「全幅にご安心くださいとは言いかねますが、皆が陛下のために命を賭けることは確かです」

「わたくしは、わたくしごときのために、誰一人として失いたくない。誰かが死ぬくらいなら、わたくしが死んだほうがいいです」

「陛下!」

 突然、扉が開いて、主だった文官、武将が執務室に溢れて来た。

「そういう陛下だから、我らはご信頼するのです」

 藤原不足が涙を流しながら言った。この男も泣くのか。そう思うとわたくしまで涙が出て止まりません。

「不肖、諸葛純沙。知謀の限りを尽くして、陛下を全宇宙皇帝にするべき策を立てます!」

「我ら武将どもは敵を一人残らず撃ち倒して、帝の行く道をまっさらなものにしましょう」

 ネロが叫んだ。

「まあ、あまり無理をしないようにな」

 そういうと、わたくしはようやく頓服を飲みました。出来れば、ここで一人寝室で一休みしたいのですが、家臣たちがあまりにも盛り上がってしまって、昼寝が出来そうもありません。これは正直に言うと、メンタル的には良くないのですが、彼らの気持ちを思うと……ねえ。

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