第19話 働かない皇帝

 どうも、藤原一族が帰って来て、要職に復帰したことや、在来の官僚たちも藤原一族らの働きぶりに刺激を受けて目の色を変え出したこと。さらには宇宙的大軍師・諸葛純沙を全宇宙の帝国の中から、わたくしが勝ち取って手に入れることが出来たことで、気が抜けたコーラのようにわたくしも脱力してしまったようです。特に、新たな目標を定めるわけでもなく、一日中、純沙の美しさに見とれて、小さな幸せに浸っていました。


 純沙は大軍師ですが、全くもって、好戦的な人間ではなく、自ら「どこどこを攻撃するべきである!」などという戦略を立案することは絶対にありません。朝議において、衆議院の一人が「軍師はなぜ、戦いを企図しないのか!」と詰問したところ、純沙は「平和のなにが問題なのでしょう? 陛下の憲法にも防衛以外の戦闘は固く禁じられています。そのような質問を提起する議員は我が朝廷の立法府の人間として、ふさわしいとは思われず、わたし個人としては即刻の辞任を希望します」と論破しました。詰問した議員はその日のうちにメンタルをやられて入院し、その後、議員辞職しました。純沙は美しいですが、かなりの毒舌家でもありました。


 しかし、純沙のいうことはもっともです。わたくしもうっかり、密かに他国への挑発行為を考えていました。まあ、相手は中華ですけどね。

 ですが、純沙の発言を聞いて、平和の大切さ、平凡な日々の重要性を思い返し、反省の意を込めて毎日、宮殿の掃除を始めました。しかし、毎日、ピカピカに磨いて、ちりひとつ残さぬようにしているのに、翌日にはすぐに汚れています。人間が生きている以上は仕方がないことですが、完璧主義者のわたくしには、納得がいかず、ムキになって掃除をしていました。すると鉾掃部頭塵取(ほこり・かもんのかみ・ちりとり)という重臣が飛んで来て「帝、恐れながら、宮殿には清掃部門の人間がたくさんいて、日々働いています。帝が清掃に関心をお持ちいただいてたいへんにありがたいのですが、あまりにそれが過ぎますと、彼らのメンタルを傷つけてしまいます。どうぞ、ご考慮くださいませ」と涙ながらに訴えます。この涙はハウスダスト・アレルギーではないでしょう。わたくしも彼が言うことに得心がいき「すまなかった。朕の不明であった。皆に謝罪して、今後も励むように言ってやってくれ」と鉾掃部頭を慰めました。


 あらら、またヒマになってしまいました。純沙は「陛下がヒマなのは領民にとっての幸せでしょう」と言います。まあ、そうなのでしょう。皇帝というのは難しい仕事です。耐えることも大事なのですね。


 純沙は「陛下、読書をされませ。見聞を広めて政に活かすのです。ただし、表面を撫でるのではなく、作者の主張したい点のみを浮き上がらせるのです」と言います。

「朕は読書なら毎日しているぞ!」

 わたくしが純沙をなじると、

「陛下の読書は単なる趣味です。教養をもっと貪欲に欲してください」

 と言い返されました。反論の余地がありません。


 なので、純沙にチョイスしてもらったり、ネットで見つけた興味のある分野の本を大量に購入して、読み出したのですが、いつもの読書と勝手が違って、前に全然進みません。そのことを純沙に訴えると「陛下、とりあえず音読をして、リズムが出て来たら黙読にもどればいいでしょう」と言います。なるほど。宇宙的軍師は知識量が半端ないです。早速、音読をすると、これが楽しい。これでは黙読に移れません。ストレスの発散にも繋がるのでしょうか? 昔、斎藤孝教授が出した、ベストセラー本の意味がようやくわかりましたよ。でも、あれって著作権的にはどうなんですかねえ? 読んだことがないのでわからないのですが……


 音読はスピードが出ないのが欠点です。でも、わたくしは『涼宮ハルヒの陰謀』まで音読しています。わたくしが朝比奈さんの台詞を読んでいるところは想像しないほうが無難でしょう。


 平和は長く続かないのが世の習いです。後の世に『四大連続災厄』と呼ばれる国難が起き、わたくしは宿痾が爆発して、床についたのかどうか、記憶さえあやふやな二ヶ月間を過ごすことになります。次回以降は書記官たちがまとめた文章を後になって、わたくしが目を通したものをご紹介することになります。なので、わたくし自体の悲惨な状況は書きませんよ。

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