第18話 選挙は一議院のみ

 諸葛純沙を得たことと藤原一族が投降してくれたおかげで、自ら戦場に赴くことが減って楽になりました。あれっ、わたくしが望んで戦いの場に立っていたとお思いでしたか? ひじょうに心外ですね。普段から、わたくしは雌の蚊さえも殺さずに「良い子を産んでな。ただし、マラリアは流行らさないように」と声をかける人間ですよ。ただ、蚊があまりわたくしの血を欲しないようで、学生時代の友人に頼まれて、蚊取りマットのCMに出てくるような雌の蚊が充満した、透明のアクリル板に上半身裸で入った時に、一ヶ所も刺されず「お前、アンドロイドか?」と言われたことがあります。わたくしはiPhoneですがね。


 わたくしの目下の興味は、宇宙大軍師・諸葛純沙の美しさで「宇宙的戦略の研究と学習」という適当なタイトルのもと、毎日のように彼女に接して虹彩の美しさに見とれています。本当に美しいのです。それは外見だけではなく、長年の宇宙放浪の上に培われた内面の美でも言いましょうか? 大宇宙に磨かれた「完璧」と言って良い女性なのであります。このサイトに画像が上られたなら、世界中しょぼくれた男たちに見せてあげたいです。きっと明日から、生き生きと充実した日々が送れれられるでしょう。


 いまのわたくしがまさにそのような感覚で、典医たちの間では「また、ご持病が……」と心配しているものもいるようですが、そうではないのです。


 その日の朝議において、わたくしは一つの法案を提出いたしました。


「選挙において、国民が代議員を選ぶことが出来るのは衆議院議員のみとし、参議院議員はわたくしを座長とした有識者会議において選ばれるものとする。有識者とは朕が選出した信条的に至極真っ当な人間であり、ここの持つ学識ではなく、社会人としての経験および、この国の発展に寄与した実績を言う」


 当然ながら朝議は紛糾いたしました。わたくしによる独裁国家建設の第一歩であろうと言う意見が最たるものです。しかし、太政大臣・藤原不足をはじめとする賛成多数で可決いたしました。


 なおも怒号の声を上げる者たちに対し、

「そうではない!」

 わたくしは一喝しました。議場がシンとします。

「いまの選挙において、衆議院と参議院の違いは何か? 誰か明確に語れるものはあるか? いるなら壇上に立ち、意見を論理的に述べよ!」


 誰も何も言いません。それはそうです。どちらも単なる与野党の数合わせであり、かつて『良識の府』と呼ばれた参議院にその面影などありません。


 ならばいっそ、民主主義の第一義である「数の論理」など衆議院だけにして、参議院はその是非を問う諮問機関にしてしまえばいいのです。わたくしはそう考えました。議長は右大臣の藤原不平等とし、議員はわたくしと国家の首脳が選んだ百名。農民から非営利団体の理事長まで、特定の支持政党を持たない無党派層から選びます。当然の新興宗教信者は選びませんが、由緒正しき、仏教、神道、キリスト教からは人材を選びます。申し訳ないですがイスラム教以下、我が国に馴染みの薄い宗教の方は今回は選びません。

 また、最低限の手間賃と実額交通費しか支給しませんので、金儲け第一主義者は当然辞退するでしょう。それでいいのです。歳費で金儲けをしようなんぞという人間は最初から必要ないのです。料亭に行きたければ地腹で行けばいい。真に国家を愛し、憂いてくれる人だけを我が参議院は必要とします。


 本当は衆議院だってそうあるべきですが、帝国と言いつつも、人民第一主義である民主主義を取る以上、選挙において、なにが起きるかわかりません。メリケンの国で起きたような恐ろしいハプニングが、わが国でも起きて、政局が混乱する可能性だって充分にあるのです。


 我が国では今の所、わたくしが最後の砦となって存在していますが、こういう病の人間ですから、いつ乱心するかしれたものではありません。とっとと退位して息子に継がせるという手もありますが、彼は嫡子ではない上にまだ幼く、さらにわたくしの狂気の血を注いでいると思うと躊躇します。よき養子を迎え、きちんと立太子の儀を上げるべきだと考えています。


 わたくしは諸葛純沙に尋ねます。

「わたくしはどうしたらいいでしょうか?」

 諸葛純沙はいつもこう答えます。

「帝の思うままに……」

 ついつい、その言葉に癒されてしまうのです。

 そして、彼女に一層惹かれて行くのですが、そのことを表に出すことはなぜかはばかられます。万が一、拒否されて宇宙大軍師を手放すことになったら……わたくしは恐ろしいのです。

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