第16話 ある日の朝議

『君臨すれども統治せず』

 大英帝国国王の大原則ですし、日本の『皇室典範』にでも、この言葉をぶち込んでおけばそれで万事済みそうですが、バンジージャンプをしたい人間がたくさんいるようで、どうせならロープのないバンジージャンプをされたらいいでしょうね。


 ついでに言えば、早く愛子さまが皇太娘として認められるようにして欲しいです。国民の七割がそう思っているのですから。現代の大海人皇子だとご自分を勘違いされているお方には、とっととご退場願いたいものです。かの人を裏で操っているき……まあ、よしましょう。


 女系天皇は反対だという学者がいるようですが、男系だろうが女系だろうが天皇には国事行為を遂行する以外になんの権力もないのですから、皇室が滅ぶよりも女系でもなんでもいいので、国民の象徴がいらっしゃる方がずっとましだと思いますがね。ニホンオオカミ、トキ、皇室……滅んだらクローンでも作りますか? 学者ってやつはねえ、本当に役に立たない生き物です。あなた方がこの世から滅べばいい。わたくしはあなた方のクローンなんて絶対に作りませんよ。


 それにしても世の習いに反して皇室だけが男子に恵まれないなんて、お祖父様あたりが世界を巻き込む戦争でもしたのではないですかねえ……


 本題に戻りましょう。

 

 毎月五のつく日は、お客様感謝デーではなく朝議の日です。以前の帝国は毎朝やっていたようですが、わたくしがこの帝国を作るにあたり取りやめにしました。なにかあれば、臨時で緊急閣僚朝議を開けばいいでしょう。わたくしは毎朝早くから起きていますので、スエットを着て、すぐに朝堂へ行けますよ。ああ、それよりも格好だけの防災服ですかね。はあ、きちんとした衣装をを身につけろと……いちいち早朝から美しい女官を揃えて、衣服を着用させられたり、薄化粧させられたり、男なのに面倒なんですよ。彼女たちはそれでお給金をもらってるからいいのでしょうがね。あと、和装はお手洗いが面倒くさい。小はともかく大ちゃんをすると、着物を新たに取り替えなくてはならない。いまは便秘体質なのでいいですけどね、これが下痢だったら思うと……スーツはあと何年したら開発されます? ああそうだ。ここは時空がひねく返った宇宙世紀でした。好きに着ればいいんですね。でも、今持っているのは三十年以上前に横浜の高島屋でイージーオーダーしたものだから、キツくて着られません。こいつは『サカゼン』に行かなくては。でも『サカゼン』って全く探せんのです。迷宮なのでしょうか?


 それよりムダな朝議のために。毎朝、牛車で交通渋滞を引き起こし、京の人に不便を与えてはならないと思います。


「今朝の議題は?」

 わたくしは議長である太政大臣・関根山城守に問いました。

「はい、帝。藤原一族のことであります」

「だろうね」

「おわかりいただいておりましたか?」

「それはそうですよ。世界には、いや宇宙にはたくさんの帝国が存在しています。あえて、その中から、藤原一族を仮想敵国にしておく必要性がありません」

「その通りでございます。ただし、気になる情報があります」

「それは?」

「藤原一族が宇宙大軍師、諸葛純沙を招聘しようとしていることです。これが成りますと情勢に変化が……」

「諸葛純沙殿とはどういう方なんだ?」

「そ、それがすごいとしかわからず……」

 関根老が珍しく困っている。

「ああ、なんとなくわかりました。すごすぎて説明ができないと」

「そ、それでございます」

「住まいはわかっているの?」

「宇宙ホームレスだそうで」

「連絡が取れないね」

「はい。ただ弟がアンタレスの近くでドラッグストアを経営しておりまして。彼に伝言を頼むことは可能です」

「藤原一族はもう動いていると……」

「はい」

「出遅れたな」


 宇宙スケールの軍師。どんな手を使ってくるかわかりません。某銀河で英雄が伝説するやつのように三次元空間で二次元将棋をするとは考えられません。どうやっても味方にしなくては。

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