第15話 金土日が船に乗ってやって来た!
北陸道、越後国より急報が届きました。
『日本海より、とてつもない数の船がこの国に迫っています』
朝堂の文武百官がざわつきます。
「騒ぐことなかれ!」
太政大臣・関根山城守勤勉が怒鳴ります。この時代に知り合いのいないわたくしは結局勤勉はじめ旧知の人間をこの時代に招聘してしまったのです。爺さんには手間を取らせます。
「まずは伝令、詳細を」
「はい。今朝方、親不知を警戒中の兵卒が、数不明の大量船舶を発見。帆船ではなく櫂にて漕ぐものと判明しました。よって、本拠地は割合と近いと思われます」
「うむ、ご苦労。帝、いかが思われますか?」
「西洋でも、中華でもないでしょうね」
「では、どちらとお考えで?」
「どうせ『馬鹿島』から律儀にやって来た、お坊ちゃんでしょ。あいつは消せと命じたのですが、考えてみればその勅令を出したのは、そうそう、あれは藤原不足でしたよ。結局のところ、誰にも朕の勅令が通じていなかったのですね。その間に金土日は兵力を蓄えて、わが『日本涼国』を襲う支度をしていたんでしょう。あいつの必死さを考えると笑えますね。さてと……左大臣・羽鳥大和守真実に命じる。今から一刻以内に出羽国から筑紫国まで船舶二十万、兵卒百万を集め、越後国、直江津に揃えよ。出来ねばそちの頸を刎ねるからな!」
「はっ!」
「よし、我らも出陣だ! 甲冑を持て!」
「帝ご自身の御参戦はいけません!」
百官がわたくしを止めますが、全く聞く耳を持ちません。なぜなら、わたくしは、この時点で突き抜けたハイテンションになっていたからです。あとのことは記憶にもちろんありません。後々に文官の記録を見て恥じ入る次第です。いつものことですがね。
さすがは左大臣・羽鳥真実。前の物語の時から優秀でしたが、見事に船舶・兵卒を揃えております。それに我ら京にいた者どもは、十二神将のワープによりすでに直江津へ到着しております。
焦ったのは金土日率いる『馬鹿島』の連中。まだ、佐渡国にも達していないのに、我らが現れたのですから、腰を抜かしたようです。いくら越の国とは言え、笑えないくすぐりです。
ああ、言い忘れましたが今回の私の十二神将は初回オリジナルバージョンです。強いですが、クセが強くて、荒くれぞろい。ときに、残酷な振る舞いを平然とします。わたくしとて、心に悪魔を棲まわせる者ですから、いつも聖人君子とはいられません。ときには剣についた敵の血を舐めることだってあります。
「防衛上(ぼうえいのかみ)、これらの野獣たちををそちは御せるか?」
わたくしは問います。
「む、無理でございます……」
防衛上・岩屋毅がビビっています。
「ならば仕方がない。そちは補給及び後方支援に専念せよ。それすら出来ぬなら、この場で生贄として頸を刎ねるぞ!」
「い、一所懸命に補給と後方支援をいたします」
「ならばよし。虎狼将軍、朕に変わって、軍配を取れ。朕はここに床几を置き、戦さをつぶさに見聞致す。一歩も動かずにな。そちらの勇躍を楽しませてもらおう」
「はっ。ならば皆の者、余計な策などなし。ただ敵を攻めるのみ! 相手は犬畜生同然よ。ただ斬り殺し、射殺せばよし!」
「おーっ!」
虎狼将軍ネロ、悪童天子、普賢羅刹、萬寿観音、日輪光輪、アキレタス、聖寅試金牙、猛禽飛王、猛鯨大象、鮫迅万鈴、甲冑鉄銃、加えて大軍師・諸事光明を先頭に戦さというか、もう単に虐殺ですね。だから詳しい描写はしません。一方的に我が部隊が勝ったというだけのことです。
金土日は生け捕られ、頭を丸めて華麗宗に入るというので今回は勘弁してやりました。やつは心を入れ替えて修行し、朝鮮半島では有数の沙門となりましたが、あちらは儒教が主流なので、仏教の難しい本でないと彼の名前は出てこないそうです。もちろん、わたくしはそういう本を読みませんのでね……
この圧勝は中華を始め、アジア各国に強烈な印象を与えたようで、たくさんの諸国が朝貢使を送ってくるようになりました。しかし、わたくしはまた人嫌いの病気が出て来ましたので、太政大臣の関根勤勉老に全てを任せて寝室で一人寝転んでおりました。
しかし、我が軍に対して最も恐慌をきたしていたのは当然のことながら『藤原大帝国』であり藤原不平等は兄、藤原不足に対し「宇宙大軍師、諸葛純沙様を招聘されてはいかがかと……」と具申していたそうです。
ああ、このお話って、宇宙規模でしたね。忘れていました。
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