第13話 藤原一族の本拠地

 わたくしはぼんやりした『かえるの王様』のような皇帝ですが、周りの優秀な人材はシステマティックにこの帝国のために働いてくれています。でも、その彼らを全て選んだのはわたくしですからね……


 今までの官僚登用試験はだいたいが筆記と縁故でした。筆記ではその人柄が見えず、縁故で仕事の出来る人は稀ですよね。0とは言いませんけど。


 なのでわたくしは、今回『日本涼国』の官僚を選考するにあたり『自分はこの国をどのようにしたい』という論文を木簡一万枚に認めてくるように命じました。きっとそんなことしてくる人などいないでしょう。うふふ。そのあとレベルを少しずつ下げて行くのですよ……


 ところが、五万人の受験者が宮殿前の広場に木簡を背負って現れました。老若男女問わずです。これを処理することはとても一日で出来る仕事ではありません。なので受験希望者にくじ引きをさせて、だいたい一ヶ月間くらいかけて試験をすることにしました。これだって早い方だと思いますよ。受験者からのクレームもありませんでしたしね。


 木簡をいちいち黙読するのは面倒なので、受験者自身に読ませました。プレゼン能力を測るのです。バカ正直に全部読む人は当然失格です。いかに要点を抑えて、わたくしたち試験官を飽きさせないかがここでの最重要ポイントです。これは一種のショーなのです。それに気が付かない人はダメなのです。


 第一次合格者がが二万人になりました。ついで、わたくしは国語と数学の試験を出しました。最初はごく簡単なものですが、最終的に、自分の意見を出さなくてはならない問題にしました。わたくしの真の狙いはもう、わかるでしょう?


 ようやく二次合格者が一万人になりました。予定では中央官庁に三千人、地方国衙に二千人を登用する予定です。


 最後の試験はその人間性です。問題というか、命令は、ある病で身体中から膿が出ていて苦しんでいる人の膿を受験者が吸い取って上げられるかというものです。正直に申し上げましょう。わたくしにはとても出来ません。この問題を作った人は怖ろしい……ああ、わたくしでした。元ネタはおわかりですね。くどくど言いませんよ。まあ最後に病気だった人は阿閦如来だったというのがキモです。


 その結果、五千人の素晴らしい人材が揃ったのです。こんなにホスピタリティのある行政など、今まで地上にあったでしょうか? あとは腐敗しないように監視するだけです。わたくしの十二神将に定期的に睨みを利かせましょう。


 さて、話は変わって、わたくしが追放した藤原一族の行方です。当初は西日本をうろついていたようです。ただ、西日本の国々は京に近いがために細分化されていて、国に定めてもあまり成長が望めないのです。もし、わたくしが選ぶなら、太宰府(筑紫)か四国でしょうね。しかし、彼らは予想を超えていました。なんと、遠い国と呼ばれていた東日本。しかも武蔵国、江戸を選択しました。びっくりしました。ただ、江戸には成長するためにはある欠点があるのです。彼らはそれに気が付くでしょうか?


 つまりませんね。すぐ、わかったようです。彼らは江戸に定着するなり、上下水道の大工事に取り掛かりました。恐るべし、不足、不平等兄弟。中臣鎌子の血とは、DNAとは……


 彼らは坂東プラス伊豆国を手中に収めると、『坂東大帝国』の樹立を宣言しました。もし出来たならば、わたくしが坂東に帝国を作りたかったです。京の慣れぬお水で、お腹ピーピー状態なのです。仕方がないので、このところは毎日『ボルビック』を大量に異国の船に運ばせています。十リットルくらいですね。


 いやあ、ついに日本に帝国がふたつ出来ました。仲良くなんて出来ませんよ。わたくしが吹っかけた喧嘩ですからね。


 でも、まだ内政の充実が大事だと思います。

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