第9話 敵とは強引に作るもの
わたくしは内面の怒りを抑えて冷静に言いました。
「つまり不足くんは、朝鮮の金土日では仮想敵にもならないと言っているのですね」
「はい。週休三日の悪人になにが出来ましょうや」
「まあ、それもそうですね。では、すぐに刺客を放って彼の存在をなかったことにしましょう。謙虚な反省も朕には必要ですね」
「はい。そう思われます」
「では、新たな帝国の敵は誰にしましょうか? 前回に引き続き、北陸宮にでもお願いしましょうか」
「北陸宮からはすでにお断りの連絡をいただいています。妻をあなたに寝取られ、戦いもあなたに負けて、いまは仁王寺というところで自分を見つめ直しているそうです……」
「また覚詠和尚のところですか。あそこは寄進料が尋常でなく高いのですがね。それにわたくしが遥と関係を持ったのは北陸宮と遥の婚姻が決まる前ですし、たったの一回だけなのですけれどもね……」
「でも、ご嫡男がお生まれになりましたね。羨ましいですなあ」
「クマのような赤児ですよ。というかクマそのものですね」
「将来はとてつもない偉丈夫になるやもしれません」
「その頃、わたくしは当然、この世にはおりません。それはそうと、我ら『日本涼国』を脅かすとなると、相当な軍事力と経済力を持っていないとなりませんな。さて、どこでしょう?」
「少なくとも日本国内でなくてはなりません。中華の『大元帝国』では意味がないのです」
「不足くんがその帝国の名前を言ってはいけないでしょう」
「いえ、こんな時代ですから、あらゆるツールを使って未来の情報を得なくてはなりません。『未来を学べば現在がわかる』です」
「うーん。それはあながち間違ってはいませんが……」
「さて、具体的に考えましょう。まずは蝦夷です」
「あそこは土地は大きいけれど、その重要性は榎本武揚が五稜郭で反乱を起こしてからだと思いますよ」
「では、東北ですか?」
「安倍・清原・藤原と俘囚が続き、人材も資源も豊富ですが、彼らには政権を獲るという「欲」が少ないですね。現状に満足しています。それになぜか、源氏の家来を自称する。まあ、理由は前九年の役・後三年の役の時の恩義にありますけど、自ら進んでなにかすることではない。最後は源氏の大将、源頼朝自らにに藤原泰衡が滅ぼされてしまうのですから、大したことはないです」
「関東甲信越はいかがですか?」
「坂東に武人が多いと言いますが、残念ながら、この時代は臣籍降下した王たちが土着して、『坂東八平氏』などという輩がまだ出来ていません。武士そのものがまだいないのです。甲信越も名だたる武将が出てくるのは戦国時代ですからねえ」
「西国はいかがです?」
「ああ、国がちまちましているから、スケールが小さすぎます。お国が西高東低にしたのがいけないのです。後の期待は鎮西ですけど武力はともかく……こちらがね」わたくしはクロマティの真似をしました。
「では、誰もいないじゃないですか!」
「これから、作るのですよ」
「作る? どのように?」
「簡単です。あなたと弟の藤原不平等くんを京から放逐します。当然、怒りを持って、朕に対抗する勢力を作り、帝国を名乗るでしょう。皆の者であえい! 藤原不足と不平等が謀反である。すぐに頸を斬れ!」
「な、なんという強引な。この恨み、必ず晴らしますぞ!」
「願ったり、叶ったりですなあ」
わたくしはしてやったりの気分でした。
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