第8話 宿敵が出来て、やる気が出る

 一連の事件で厭世的になったわたくしは孤雲庵に籠り、パッケージ写真だけで興奮していた『完全版 武蔵坊弁慶』をついに開けて観たのですが、なんということでしょう! 芥川也寸志さんのオープニング(あの芥川竜之介先生のご子息ですよ)を聴いただけで誰憚ることもなく号泣してしまいました。理由は全くわかりません。わたくしが悔し泣きではない涙を流すのは、約八年前に、経済評論家だった金子哲雄さんがガンで急死された時以来です。あの時もかなりの躁状態でしたので、躁状態というのは感情のコントロールが出来ないのでしょうね。今だったら「森永卓郎が先に死ねよ」とか言いそうです。真剣に用心をしなくてはいけません。


 そんな時です。消息が届いたのは。


 しかしですねえ、こういうのは困るのです。わたくしに達筆な草書の消息を送られても。なにせ、最後の『よって件の如し』のところしか読めないのですから。それだって、江戸時代のことでしょう? それよりも前の時代のことなど珍紛漢紛です。この宇宙時代にですよ。昔の人も未来人と接する以上はもう少し、勉強をして欲しいですよ。『Word』とかのね。それがタイムトリップをするものの流儀だと思いますねえ。ああ、一般の庶民には関係ありませんよ。お米を作って、いい日本酒をねえ……


 結局、中山の緑区役所にある『スーパー現代語訳機』を用いて、読解しました。五十円の証書代がかかりました。きっちり領収書を書いてもらい、請求しようと思いましたが、請求先が『日本涼国』……つまりは、わたくしの名の下で国民からいただいた税金だということです。どっと力が抜けました。結局は交通費を合わせて自腹か……


 さて、消息の内容を読みます。


 それによると差出人は、国政代行者・藤原不足(ふじわらのたりない)、中臣鎌子の息子だそうです。鎌子は亡くなってしまったのですね。蘇我駿馬(馬子)を殺した中大兄皇子と大海人皇子は、史実通り不仲になったようです。中大兄皇子は天智天皇になった後に薨去。息子の大友皇子に後を譲りたかったようですが、大海人皇子の方が力があるし、皇太弟の約束もあります。。歴史上、大友皇子が天皇になったとかならなかったとか議論もありますが、そんなことはどうでもいい。要は大海人皇子に力があり、結果として天武天皇になったという事実です。藤原不足は畏れ多くも天武天皇をわたくしに倒せと言って来ました。不敬な話です。でも、わたくしは戦後(もちろん第二次世界大戦のですよ)の人間なので、不敬の心など、教科書のどこにも載っていませんでしたので、虎狼将軍ネロをはじめとする十二神将を前の物語から引っ張って来て、関ヶ原において、圧倒的勝利で天武天皇を自刃に追い込みました。しかし、関ヶ原というところは『壬申の乱』、今回の戦い、『徳川家康対毛利輝元(事実上は石田三成ですけど)』とよく、天下分け目の大戦が起こるところですねえ。あるんですね。そういうところが。


 さあ、これで『日本涼国』は成立しましたよね? ああダメですあ〜。なるほど。もう一カ国、日本に帝国が出来ないと今の時代と変わらないから面白くないのですね? 面白い面白くないとかいう……ああ、そういう問題なのですね。そうですよね。面白ければ読者が増えます。わたくし個人はどちらでもいいのですが。


 じゃあ、そこの帝国建設をしたそうなあなた、お造りなさいよ。お名前は? 金土日? ははは、週末ですね。はあ、惹句は『世界に終末に導く男』ですか? 思いっきり「働き方改革」ですね。わたくしはね「遊び方改革」を実践するつもりですよ。詳細は言いませんがね。で、どちらにお住まいですか? 朝鮮半島。うーん、それはちょっと困ります。ここはどうあっても日本じゃないといけないのではないですか! ああそうだ。確か、日本海に『馬鹿島』という馬と鹿がたくさんいる極く小さな島があります。あれを金千貫で譲ってあげますから、これでゲーム……ではなくて国作りを始めなさいよ。わたくしも同時に始めますからね。対戦型プレーですね。


 じゃ、握手。眼鏡はこの時代に合わないから、虫眼鏡にしなさい! あと衣装も人民服じゃなくて、古代朝鮮のものを着用しなさい。


 わたくしはスエットかな? デブだからね。

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