第7話 飛鳥はやってる

 中臣鎌子がお連れして来たのは絵に描いたような…アニメーションではなく、立派な、完璧に三次元の絶世の美女でした。わたくしはこの段階で、全ての茶番を放棄し、この美女を鞄に入れて(もちろんこのバッグは、四次元対応です)ウチに帰りたかったのですが、どうも、うまく行きません。美女は微笑みながら鞄に入ることをやんわりと断り「わたしの話を聞いてください」と言います。

「お話とは?」

「帝、わたしは額田王と申します」

 うん? なんか微妙に時期がずれていませんかねえ?

「なんのことでしょう? わたしはわたしの時を生きています」

 そうですよね。あなたの人生を、わたくしの尺度で測ってはいけないですね。つまりは、あなたも、この国もいわば、まだ白紙の状況なんですな。そして、この国について言えば、自由に絵を描けるのはなんということでしょう。わたくしなのです。なぜならわたくしは皇帝だから。

「そうです。そのことにお気づきとは、実に頼もしいですわ」

「それで、朕になにを聞かれたいのですか?」

「はい。この鎌子に伺ったのですが、帝は蘇我駿馬に思い入れがないとか?」

「うん、付き合えばいいやつかもしれませんが、なにせ、昨日の今日でしょう? 朕は人見知りというか、人嫌いなのですよ」

「では、わたしも?」

「ああ、美しい方はこの場合、除外されます」

「まあ、この国の男性にしてははっきりしたものいいですわね」

「そんなことはどうでもいいです。要はあなた、わたくしに駿馬を殺せと言っているのですね?」

「まあ、そういうことです。しかも出来れば、中大兄皇子と大海人皇子の仲良し兄弟に駿馬を倒させたいのです」

「な、仲良し兄弟……ですか? のちのち、甥っ子を自殺に追い込んだり……あなたとの三角関係……いや、歴史は変わっているのですね。まあ、とりあえずはお約束しましょう。ただ、駿馬にはわたくしから、物部守屋との戦での勝利を約束してしまったので、それ以降になりますよ。これは朕のプライドに関わりますからね」

「その件ですが……」

 鎌子がしゃしゃり出て来た。

「守屋はこっそりと華麗宗へ宗旨替えを希望して来ました。ですので、一旦は敗北をしますが、今後、我々の軍隊として大きく役立つでしょう」


 今も昔も、政治家というのは節操がありません。この時代に痛快男児はいないのでしょうか?


 とりあえず、駿馬の陣中で即興で四天王の木像を彫って兵たちを勇気付け、物部守屋を迹見赤檮が柔らかいプラスティックの矢で射殺したことにして、その瞬間、仲良し兄弟軍が駿馬軍を襲いました。わたくしはあまりの人間の浅ましさに耐えかねて、一旦、現代の孤雲庵に戻り寝込んでしまいました。もう、どの史料にも駿馬の名は無く、あまねく馬子とされています。なにか哀れです。

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