第6話 酒宴にて
わたくしは酒は嗜む程度です。さらにこの時代(果たして、何時代なのでしょう? わたくしは飛鳥時代だと思っていたのですが、それだと辻褄が合いません。もっと大昔でないといけませんからね。いずれにしても、なにか引っかかるものがあります)とにかくこの時代の酒造技術など、とんでもなく粗くてとても危険な感じがするので、わたくしはこっそりと大量のカルピスウォーターを飲んでいました。左党のわたくしにはこの方がよっぽど効きますよ。ところで、わたくしがなぜに大量のカルピスウォーターを手に入れられるのか知りたいのですね? それは単純に、アサヒ飲料さんがわたくしの大宇宙公式スポンサーだからですけど……
しばらく時が進むと隣の若者が、わたくしにたくさんの問答を仕掛けて来ながら絡んできます。一番タチの悪い酔っ払いですよ。完全無視しようと思いましたが、わたくしもかなりヒマだったので、少しばかり遊んで差し上げようと、ちょっとだけ構ってみることにしました。
「帝、あなたはどういうグランドデザインで、この国家を作り上げるおつもりですか?」
グランドデザイン? さて、いつの時代の言葉でしょう? 容易に答えられませんね。もしかしたら、ひっかけ問題かも。さてところで、この若者は根本的に、なぜわたくしと同じ席にいられるのでしょうか? わたくしはこれでも皇帝なんですよね? まず、それがとても不思議です。早速、聞いてみましょう。
「失礼ですが、あなたはなにをされているご身分の方ですか?」
「あっ、ご無礼いたしました。私は仏に使える身です」
「ああ、最近流行っているという仏教ですね。蘇我駿馬がやけに熱心ですよね。ところで、彼らに特有の剃髪をされていなようですが?」
「我が宗派は剃髪するかどうかは、個人の好き好きなのです」
「珍しいですね。差し支えがなければ。どこの宗派でしょうか? 教えてください」
「はい、華麗宗です」
はあ、未知の宗派です。変な宗派だといけませんので、これ以上突っ込むのはよしましょう。危険です。
「あなたは先ほど、グランドデザインとおっしゃいましたが、それは未来の世界の言葉ではないですか?」
「そうです。よくご存知ですね」
「そうではなく、わたくしが質問したいのは、その言葉を誰に聞かれたのですかということです?」
「ああそういうことですね。これは宇宙大軍師、諸葛純沙様の言葉です」
「宇宙大軍師?」
「そうです。いまや世界は大宇宙の時代ですよ。帝、地上に拘っていてはこんなちっぽけな星など、すぐに潰れしまいます」
「この時代に軍師って概念あったのかなあ? 特に、この時代の日本に。ああ、ここは『日本涼国』か。まあいいや。ならば、グランドデザインとか言わずに、スペースデザインとでも言えばよいのではないですか?」
「おっしゃる通りでした。ただいまの帝のお言葉で、自らの不明を深く反省いたします」
ふーん、意外と素直ですね。
「朕はその、宇宙大軍師に会ってみたいのですが?」
「ああ、ダメですよ。だいたいこういった物語では、大軍師との邂逅なんて重要シーンはどんなに早くても中盤以降と相場が決まっていますから」
「あなたはこの話のラストまで知っているのですか? まさか、作者?」
「い、いいえ違います。ただ一般的な物語の常道を示しただけで……それより、私はぜひ、帝にお引き合わせたい方がいらっしゃいます」
「待ちなさい。あなたはその前に、ご自分の身分と姓名を朕に教える必要があります。たいへんな無礼ですよ。なんたって、朕は『日本涼国』の皇帝なのですから。今のことろは、その守備範囲と存在意義も全く見えてきませんがね」
「失礼しました。私は中臣鎌子と申します。印度より中華経由で輸入された異教の宗教の跡取りです。しかも、養子です」
「さっき、華麗宗と言ったじゃないですか? 別に、卑下することはないです。それに、今夜の大戦で駿馬が勝てば、仏教が公に認められますよ。しかも古来からの神道と共存という普通はない展開です。今日の勝利はすでに朕が宣言していますからね」
「そうですか……帝において蘇我駿馬様は大切な親族ですよね?」
「いや、別にそれほど。さっき初めて会っただけの人ですからね」
「えっ? そうなんですか。親戚中の親戚じゃないのですか?」
「朕の感覚的には全然違います」
「そうならば、さらにでも、ぜひにお会いしていただきたい方かいらっしゃいます」
「そうですか。わたくしは少し、疲れてしまったので、しばらくお昼寝をしたいので、それが終わった頃に来ていただけるのならばお会いしましょう」
「わかりました。ちょっと調整をいたします。ひとまず、帝は休息室へお帰りください」
「命令されるいわれはありませんが、ここは素直に帰りましょう」
休息室に帰り一時間ほどまどろんだでしょうか? そこに現れたのは!
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