第5話 若者もすなる転生をわたくしもしてしまうものなり
昨夜の頭痛は翌朝には消えていました。ただ、どこかなにか雰囲気が普段と違いますよ。なんでしょう? まあ、記憶がしっかりとしてくればわかるでしょう。ああ、女性のお付きの方々が変わっています。大喬・小喬姉妹が消えて、純和風の女性が多いようです。あくまで、好みですが、わたくしは大陸系女子の方がいいので、あとでフロントに言いに行きましょう。
そこへ、
「帝、お目覚めですか?」
と声が聞こえました。ミ・カ・ド? パチンコ屋さんですかねえ? あいにくとギャンブルはたしなみませんので……
「今日は格段とご冗談が過ぎますな。帝」
これは、どうもわたくしが帝のようですな。全く、理由がわかりません。
「すまぬがな。昨日階段より足を踏み外してどうも頭を打ったようだ。特に生命に別条はないようだが、いまひとつ記憶が定かでない。少しばかりものを教えてもらえまいか?」
いかにもバレそうなことを言ってみます。
「そ、それはご心配ですな」
素直なやつ。こちらがちょっと心配になりますね。
「わたしは大臣の蘇我駿馬(しゅんめ)と申します」
やはりね、馬子なんて変な名前じゃなかったんですね。
「すまぬ、朕は誰じゃ?」
「帝としか。そうです! 皇子の頃は厩戸とおっしゃいました」
「ああ、そう……大臣はさあ、これから大連物部守屋と大戦をするのでしょう?」
「はい。覚えておいででしたか?」
「では予言を託しましょう。お味方勝利、大勝利ですよ」
「えっ?」
駿馬の顔色が変わりました。
「わたくしが行軍の途中で即興にて四天王を彫ってあげましょう。さすれば、兵たちの意気が上がるでしょう」
「あ、ありがたき幸せ」
駿馬は感極まって、去って行きました。
しかし、ここは考えどころですよ。大臣が親戚だからって、無理して、そちらにつく必要はないのです。別に大連・物部守屋に味方して、強力な軍事力を手に入れるという手だってあります。だいたい、現在、朕がしたとされた事柄はほとんど蘇我駿馬が行ったことで、朕は推古天皇の摂政だったとされる公式の記録など、全くありません。昔はどういう歴史教育をしていたのでしょう? 戦前の日本史教育の延長をやっていたのだはないですかね?
だいたい蘇我駿馬・遠方(蝦夷と蔑称される)・入鯱(入鹿と蔑称される)は天皇家を完全に強奪しています。大化の改新と呼ばれる出来事の中の乙巳の変というクーデターがなければ、現在までも蘇我家が天皇家として万世一系を続けていたかもしれませんよ。
ところで、この朕です。通常の日本史上、わたくしは帝になど、なっておりません。可能性として考えられるのは、例の唐突に印璽が見つかっちゃった『日本涼国』の皇帝だったということです。この国のことは、国の検定教科書にも日本史の専門書にも今のところ全く載っていません。第一、聖徳太子という名前自体が現在は諡号だとされています。天皇のうち(仁徳)文徳、崇徳、安徳と、ロクな死に方をしていない方に限って「徳」の字がつくって……わたくしは少なくとも生きている間は聖徳ではないですがね。本当は厩戸でもないけど、まあそれは転生でもしたことにしましょう。史料によると晩年のわたくしは斑鳩宮に少数の家族と引き篭っていたそうです。しかし最期はどうも何者かに家族そろって暗殺されたようですよ。その人間の名前は言いません。まあ、知っていますけれど。
ところで『日本涼国』という国は本当にあったのですかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます