第4話 聖徳太子がキーワード

 木簡を機械にかけて解析した結果、次の言葉が出て来ました。


『朕は日本涼国皇帝・厩戸であります。今日は尊敬する先輩であり師匠である貴国皇帝に新しい国の統治法をご伝授したいと思います。すでに既知のことならばご笑覧ください。貴国も我が国もまだ、一つの大きな国家としてまだしっかりと固まっておりません。今はとりあえず治っているでしょうが、必ずどこかに熾火はあります。それが、いつか大火となり、せっかくの人民の努力が一瞬のうちに灰塵ときすことでしょう。

 そこで朕は考えました。今までは、国王の威徳によってのみ、人民の支持を得て、政をしていたのを、律令(つまり法律のこと)基にすることによって、国のを築き、人民の行動や、貴族たちへの抑えとするのです。いかがでしょう? 我が国は貴国を心より尊敬していますので、ぜひとも、奇譚のないお考えを承りたいものです』


「…………」


 沈黙が訪れた。やがて、一人の学者が手をあげた。

「あの、夏王朝と聖徳太子では時代が違うのでは?」


 なるほどですね。全然違います。


「でも、こう考えたらいかがですか」

 名無(ななし)全宇宙統合大学超名誉教授が話しかけました。

「ここに出てくる厩戸は我々が『聖徳太子』として知っている厩戸とは別人なのでは……」

「ですが?」

「念のために言えば『聖徳太子』と言われる人は『十七条憲法』を作っていますよ。あくまでも、伝聞ですがね」


「うーん」


「わたしは思うのですが、イエス・キリストという預言者だって馬小屋で生まれています。太古において、世界中に馬小屋で聖人が誕生していてもおかしくないです。逆に言えば『馬小屋』こそが聖人誕生の地なのです!」


 それは言い過ぎでしょうね。後の例が続きません。


「話が行き詰まりました。視線を変えて観ましょう」

 名無全宇宙統合大学超名誉教授が論戦を引っ張ります。

「厩戸が記した『日本涼国』この『涼』の字には一体どういう意味があるのでしょうか?」


「『すずしい』ですね?」


「その考えは、常識にとらわれすぎていて全く面白くありません」

 全宇宙統合大学超名誉教授は手厳しい。

「仮説ですが、古代より、漢字は当て字をされます。『涼』の字はこの場合『良』に置き換えられるのではないでしょうか? とてもいい意味の漢字です」


「おー」

 調査員から感嘆の声が起きました。別に他にもありそうですが……


「そして『皇帝』これは『高呈』。どうです、どちらも鏡文字になっているでしょう? とても縁起がいいです」


「うぉー、すごい。さすがは全宇宙統合大学超名誉教授!」

 なぜか日中織り交ぜて、名無(ななし)全宇宙統合大学超名誉教授をおだて上げています。これからのさらなる検討が重要だと思うのですが。まあ、あたくしは部外者なのでね。でも、つい言ってしまいました。


「全宇宙統合大学超名誉教授、別にそのまま『日本涼国皇帝』と読んでも差し支えないと思いますよ。だって、厩戸は自らを『朕』と読んで自分は皇帝であると宣言しているのですから」


「あなたは……」

 突然しゃしゃり出てしまったわたくしに、戸惑った全宇宙統合大学超名誉教授のもとへ伝言ゲームのように様々な情報が流入していきます。


「ああ、あなたでしたか。うーん、正直に申しましょう。帽子も被っていないのに脱帽です。カツラでもかぶっていれば、ぽろっと脱げたのですが、五十年来の、つるっぱげでしてね。今更アデランスもアートネイチャーもCM要請に来ませんよ。……中国側の宇宙法人北京大学名誉教授の猛沢山氏もあなたの碩学と発想に驚いていました。今夜、ご予定はりますか? 猛教授を交えて三人でお話がしたいのですが?」


「せっかくのお招きありがとうございます。しかし、申し訳ございませんが、先ほどから持病の酷い頭痛がしておりまして、半分、気を失いそうなのです。今回はお断りさせていただいて、ぜひ近いうちに……」

 そう言うとわたくしは会場を逃げ出しました。おそらく、近いうちは永遠に来ないでしょう。


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