風は自由に

いくつもの竜巻が、あらゆるものを空へと巻き上げ、彼方へと消し去っていく。

なので、それを見たのは無風を貫くヨドミの住人達だけでした。


全身が炎に包まれ、精霊の姿へと変化して空中に浮かび続けるフリード君。

辺り一体を吹き飛ばし尽くした竜巻のエネルギーが徐々に一点に集まり、フリード君の隣で一気に凝縮されると、私の姿は少女の形となり、周囲は静寂を取り戻しました。

精霊の力を浴びて成竜へと変化したセーラが祝福するように周囲を旋回しています。


「お疲れ様、久しぶりだねフリード君。」

「お前さ、最初からずっと見てたんだろ?ヨドミには居なかったみたいだけど。」

「そりゃね、風はどこにでも居ますから。でも『シルフはセントラルタワーに居る』って皆が信じてると中々出てこられないもんなのよ。」


そう、あの偽りの檻を壊してくれたから私はここに出てくることができた。

あの暴風将軍が地位と名誉のために、ヨドミの人たちを犠牲にして、街の人たちを欺いて作り上げた嘘に、私は囚われていたと言ってもいいでしょう。


「まあフリード君の方は本当に捕まってたみたいですけどね?」

「げ、何で知ってんだよ。」

「そりゃ風はどこにでも居ますから。」

そして私はくすくすと笑う。

精霊イフリートは最近まで、とある魔術師に囚われて、精霊の力を宿した道具を作るために使役されていました。

だから私も同じような目にあってると思って助けに来てくれたし、暴風将軍の剣を見て怒ってくれたんだよね。


「ひいっ!た、助けて、許してくれ!!」

その暴風将軍は今、街の住人達に囲まれていました。

街の構造物は遠くまで吹き飛んだけれど、フリード君は優しいので住民達だけは保護して無事に地面に降りられるようにしていたみたいです。

吹き荒れる風が全て私になり、文字通り嵐が過ぎ去って住民たちが大地に下りた後、彼らの怒りは自分達を騙していた暴風将軍に向けられています。

その先頭に立っているのは、何の因果か最初にフリード君に絡んだ警察官でした。

彼は振り上げた警棒を……しかし意外にも振り下ろすことなくゆっくりと収めました。

「アンタのやったことは許せないが、この審判はあいつらに任せるべきだろう。」

視線をやったその先には、ヨドミの人々。いわば暴風将軍の一番の被害者です。


ヨドミの老人は目を瞑り、しばし葛藤した後にこう言いました。

「罪人はヨドミへ送る、それが決まりなんじゃろう。暴風将軍、ヨドミに新しい風を吹かせてくれることを期待しておるよ。」


そして最後に、街の住民達も、ヨドミの人々も、そして暴風将軍も、空に浮かぶ私たちに向かって謝罪と感謝をするのでした。



こうして、風の都ウィーズブリンドの事件は幕を下ろしました。

人々は無事だったヨドミを拠点としながら街を再興するようです。ヨドミの上に乗っていた街が無くなった事で、その空気も徐々に入れ替わっていくことでしょう。

そろそろ私たちもここを去ろうかと思います。


(フリード、もう行くの?)

成長し、発声器官が人語を話すのに適さなくなったセーラが心の声で話しかけてきます。

「おう、でっかくなったなセーラ。もう群れに帰っても大丈夫だな。」

(……うん、そうだね、それじゃお別れだ!フリード、またね、さよなら!)


群れの中で虐められていたセーラも、精霊の力を受けたとなれば群れのボスにだってなれるでしょう。

だから心配要りませんよ、フリード君。


そうして私とフリード君は人の形を取るのを止め、世界中の火と風に宿る精霊に戻りました。



でも、セーラと旅しているフリード君は結構楽しそうでしたし、

私もちょっとそういうのをやってみてもいいかな、なんて思いました。


なんてね、それでは。

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吹き抜ける風の都 Enju @Enju_mestr

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