逆風

暴風将軍の朝は早い。

朝食を手早く済ませた後、一日のスケジュールを確認しながら紅茶を楽しむのが彼の日課です。

そんなひと時の憩いも、突然の報告により壊されることになりました。ドタドタと警察官が駆けてきます。

「いったい何事だ?騒々しい。」

「暴風将軍!お休みのところ失礼します!その……昨日ヨドミに落としたテロリストが、街に現れました!」

「なんだとぉ!!」



先日の騒ぎがあった広場には、この街の初代市長の像があり、フリード君はその上に堂々と陣取っています。

既に周囲は相当な数の警官隊や風船兵士が包囲していますが、なにぶん未だ目の端に映る、ビルであったものを残骸にした張本人であり、距離を置いて暴風将軍の到着を待っている模様です。と、そんな状態で暴風将軍がやって来ました。

「貴様!何のつもりだ!どうやってここへ来た!!」

到着するなり叫ぶ暴風将軍の詰問を、そよ風の如く受け流し、フリード君は不適に笑っています。


「なあ、お前らは精霊の作った風が大好きなんだろう?」

「何だと!?」

チリチリという音が聞こえ、フリード君の周囲の空気がゆらぎ始めます。

「何だ!?熱か!?あ、熱い!何なんだ貴様は!?」

暴風将軍の誰何を無視し、フリード君は言葉を続けます。


「だったら食らわせてやるよ、精霊の風を。二次作用サイドエフェクトだけどなっ!!」


ごうっ!とフリード君を中心に風が、が巻き起こっています。

強力な熱気が空気を暖め、上に向かう流れとなり、そしてその勢いは加速度的に増加していずれは竜巻を巻き起こします!


フリード君の作り出した風は空を飛ぶ凧や比重の軽い風船兵士のみならず、ビルや街の構造物、果ては地面まで巻き上げ、上空へと吹き飛ばしていきます。

「やっぱりな、この街は自分達がコントロールしていない風には極端に弱い!扇子一枚を怖がるのも納得だ!」

「最初のファイヤブレスでビルがぶっ壊れたのもそういうことか、やっぱり私悪くなかったんじゃん。」

風の街にとっては街を滅ぼす熱で、人間も焼け付くような温度ですが、火竜であるセーラには心地よいエネルギーのようで、伸び伸びと周囲を飛び回っています。


そしてついに、セントラルタワーの外壁がメリメリと音を立てて剥がれ始めました。

「よ、よせ!やめろ!」

辛うじて飛ばされないように踏ん張っている暴風将軍の叫びも空しく、ついにセントラルタワーが根元から崩壊し、シルフが居ると言われている場所が露になりました。


そして、風に飛ばされながら街の住人達が目にしたのは、シルフではなく長く長く伸びるパイプであり、その先に繋がっているのは…・・・風工場。ヨドミにある風工場がセントラルタワーから世界中に風を送っているのでした。

「あれは……どういうことだ!?」「シルフは……?シルフはどこにいるの!?」「暴風将軍!どういうことなんですか!?」「だってヨドミの工場は猛毒の素だって・・・!」

竜巻に巻き上げられながら、住民達が混乱を次々に口にしています。

それに応えるように、フリード君が真実を口にします。


「お笑いだな!この街にはシルフの風なんて一つもなかった!全部お前らが忌み嫌っていた人工の風だ!工場に火が入っているかどうかくらい、俺は見れば分かるんだよ!」


遂に空へと吹き飛ばされた暴風将軍が叫びます。

「火!?火だと!?そうか、お前!お前は、イフリート!炎の精霊イフリートか!!」


そう、フリード・フリーマンとは世を忍ぶ仮の姿。その正体は風の精霊であるシルフに並ぶ、炎の精霊イフリートだったのです!

「だったのです!じゃねえよ、もうお前も出て来い、シルフ!」

おっと、呼ばれてしまいました。それでは私も登場するとしましょう。

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